第44話 司令官室
刀自古が第2戦団司令官の執務室へ入った時、月夜見は応接用のソファで寛いでいた。
「御堂准尉の尋問を終えてまいりました」
「ご苦労だった」
月夜見と自分の分の紅茶を用意して、対面する席に座る。
「月夜見様が、御堂准尉を目に掛ける理由がわかりません」
刀自古の煎れた紅茶を受け取って、少量のミルクを足す。紅茶に入れるミルクの量は気まぐれだ。付き合いの長い刀自古はそれも承知している。
「パイロットの素養はある。成長する先を見てみたいと思わないか?」
「思いません。むしろ、早めに処分すべきかと考えております」
刀自古は、御堂を逮捕すべきと言う。それを本部に送達しないよう、月夜見がお願いしている状態だった。
「月夜見様の秘書官を拝命する際に『才能を見る目は確かだが、人を見る目は怪しい』ので、よくサポートするようにと言われました」
「ふん。あの女が言いそうだな」
「第一室長からも、同じ助言を頂きました」
安全保障局の第一室長を務めるのは、月夜見の実弟だった。身内を持ち出され、仕方なく反論の言葉を飲み込む。
「GS4は、どうしましょう? ある程度の機密は漏れたと思われます」
安全保障局は、一樹教官の背後関係を調べている。一樹教官が内通していたとすれば、かなりの機密が流出したと考えるべきだろう。
「プロジェクトは白紙だな。全てのデータを破棄、試作の1号機は解体して部品の一欠片まで焼却しろ」
「よろしいのですか? お気に入りの御堂准尉の機体ですが」
「仕方あるまい。どうせ、GV4の自爆で半壊した状態だ」
敵国に設計を分析されて弱点を見つけられた場合、正式配備した直後に不測の事態になりかねない。それなら予測できる従来機の方がマシだ。
もともとGS4の開発計画に、月夜見は否定的だった。
「月夜見将軍の意向として、本部に伝えておきます」
紅茶を置こうとして、刀自古は応接テーブルの端に乱暴に投げ捨てられた書類に気付いた。
「これは?」
「イルドラ軍とナーガオウ州軍の弁明だ。まあ、要するに『一兵士の勝手な暴走だから、軍も国家も関係ない』と言いたいようだ」
「ジュエン大尉のことですかね。ナーガオウ州軍の記録用ドローンのルートや数、更に民間報道機関のドローンまで制限できるなんて、すごいコネクションを持った一兵士ですね」
「近衛軍の大将より、イルドラ軍の大尉は権力者だ」
月夜見は、面白そうにクスクスと笑った。
「こんな馬鹿馬鹿しい言い訳を、水蛭鹿帝は容認しない。忙しくなるだろうな」




