第4話 帰還命令?
戦闘が行われた赤塵の丘から、およそ30キロメートル離れた前時代の廃都市。
砂に半分近く埋まっているドーム状築造物廃墟の側に巨大な輸送車両があった。ドームの中には巨大な工作機械が運び込まれており、内部は重甲機兵用の工廠に改造されていた。
御堂と交戦していた二機のB級ペルセウスは、並んで台座に腰掛けている。慌ただしく整備員が走り回りながら応急整備が進められている。
「ディモス機は、いくつか刀傷を受けてるが装甲表面を削っただけだ。内部機構に障害はない。このまますぐに出られるぞ」
「剣を斬られただけで、フォボス機の方も深刻な打撃は受けてない。新しい剣を用意して装備させる」
報告を聞いているのは2人の男性だ。走り回る整備員からはフォボス、そしてディモスと呼ばれていた。
少し離れたところで、もう一人の男性がディモス機のカメラが記録した映像を視ていた。B級ペルセウスのロングソードを断ち切った場面では、思わず口笛を鳴らした。がっしりした体格で、他の2人にない貫禄を漂わせた男性はマルスと呼ばれていた。
「こりゃあ、すげえな」
フォボス、ディモスそしてマルスの名称は本名ではない。今回の仕事のためのコードネームである。
赤塵の丘では、入鹿が携帯端末で自機の戦闘記録を再生させチェックしていた。
その傍らで、御堂は狭いコクピットで固まった筋肉をほぐそうとストレッチをしている。
「帰還しましょう」
「ええ?」
入鹿の唐突な提案に、御堂はストレッチを止めて駆け寄ってくる。砂地に腰を下ろしている入鹿の背中越しに端末画面を覗き込んだ。
端末が表示している時刻は14時21分。帰還予定は16時なので、まだ2時間近くある。
「敵と遭遇しない領域を選んだはずなのに襲撃を受けました。優先すべきは新型機《GS4》の保全ですから、次の襲撃の前に帰還すべきです」
「ちょっと!勝手に決めないでよ、新型機のことは、あたしに任されてるんだから!」
新型機のパイロットに抜擢されたことで、御堂は気負い立っているところだ。にも拘わらず、そのせっかくの気概を、入鹿は感情のない論理で逆撫でする。
入鹿に対して、苛立ちと憤りが募る。
「では、指揮官として帰還を命令して下さい」
「だから……どうして、命令されるあなたが決めるのよ!」
入鹿の「指揮官を指揮官と思っていない」物言いに、御堂の感情が我慢の限界を超えて、思わずヒステリックに絶叫してしまう。
御堂を一瞥もしていなかった入鹿の肩がビクッと震えた。
耳元の大声にうんざりして、仕方なく入鹿が座したまま振り返る。
入鹿の視界に飛び込んだのは、黒い下着に包まれた胸の谷間……御堂は、パイロットスーツのファスナーを腹部の中程まで下げて胸元を大きく開いていた。
「なぜ、胸を出してるんですか?」
数秒の沈黙の後、入鹿の問いかける声にも動揺が混じっている。
「いや、ストレッチしてたら暑くなってさ。重甲機兵だって放熱のために胸部装甲を開くじゃん?」
そう言いながら掌で胸元に風を送って見せる。
「重甲機兵の胸部排熱口は、貴女みたいな猥褻物ではありませんよ」
入鹿は御堂の胸元から視線を外して、また端末をいじり始めた。珍しく動揺しているのを察した御堂は、ここぞとばかりに揶揄いにいく。
「お、猥褻だよねぇ。もしかして反応しちゃった?」
背後から肩越しに右手を伸ばし、入鹿の股間を触ろうとする。しかし、入鹿は右手の端末を投げ捨て、御堂の右手首を掴んた。
見かけによらず入鹿の腕力は強い。掴まれた右腕が動かせなくなったので、諦めて右手を引っ込める。入鹿は、投げた端末を拾って立ち上がった。
「ねえ。もしかして嫉妬してる、とか?」
ふと思いついた疑問を投げかけてみる。
「何を嫉妬するんですか?」
「だってさ。あたしだけ新型機を貰えて、同期で同じ階級なのに、あたしが指揮権持たされたことに嫉妬してるんじゃないのか?って訊いたの」
「新型と言っても、どうせB級じゃあないですか」
「はい?」
思わず御堂の声が裏返る。




