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赤塵のサンダーバード -機兵戦記-  作者: 星羽昴
第二章

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第34話 ちょっと遠くへ?

 入鹿はトーエン中尉の身体を、ヌイグルミのように引き摺りながら御堂に近づいてくる。入鹿が一歩近づくたびに、御堂の心臓で鼓動が早くなるのがわかる。

 入鹿の腕が届く距離にまで近づかれた時には、御堂は思わず目を閉じてしまった。

 だが、入鹿は御堂の横を通り過ぎて行く。



 一樹教官が、中央デッキに戻ってきていた。

 入鹿は、一樹教官の前にトーエン中尉を投げ捨てる。トーエン中尉は、何とか膝で立ち上がって、懇願するように涙で濡れた目を一樹教官に向けた。

 そこにジュエン大尉とグエン中尉も駆けつけた。

 イルドラ公国軍に媚びへつらう将校が、真面目な下級士官を厳しく罰するはず……ジュエン大尉は、そう確信していた。


「君たちさ。マズいことになるよ」


 しかし、そうはならなかった。


「監視カメラに、戦団章を踏みつけてる場面が映ってたよ。星間協定で、国旗や軍団旗への侮辱行為は宣戦布告と判断されるのが記されてるよね」


「……」


「君たちを生かして還して明け方開戦するか、君たちの死体をイルドラ公国軍へ送って『本当に開戦する意思があるか?』の公式見解を待つか、その二択だね」


 ジュエン大尉もグエン中尉も押し黙って何も答えられない。


「僕にできるのは、君たちが『ここに来なかった』ことにするくらいしかない」


 ジュエン大尉が一瞬敵意のこもる目を一樹教官に向けるが、少し間をおいて頷いた。グエン中尉の顔には安堵が浮かぶ。

 逆に、不満に顔をしかめたのは入鹿だ。トーエン中尉の頭を後ろから踏みつけた。湿った音と共に床に打ち付けられた顔面……もう呻き声すらあげられなかった。

 その入鹿を見る一樹教官の視線は、寂しそうだった。



 ジュエン大尉とグエン中尉は、トーエン中尉の身体を支えながら『朱雀』中央デッキの乗艦口を降りて行く。

 途中でグエン中尉が引き返してきて、トーエン中尉が踏みつけた入鹿の戦団章を拾い上げた。ハンカチで土と埃を払ってから、それを入鹿に渡そうとする。何度も何度も深く頭を下げているが、入鹿は受け取らない。仕方なく、御堂が代わりに受け取ってグエン中尉を帰らせた。

 一樹教官と共に、御堂は3人のイルドラ兵を見送った。



「入鹿准尉。君にお願いがあるんだ」


 イルドラ兵3人を見送った後、休憩スペース脇で1人でいた入鹿に一樹教官は話しかけた。


「御堂准尉のこと、これからも支えてあげて欲しい」


 入鹿は黙したまま返事をしない。


「君しか頼める人がいないんだよ。私はちょっと遠くへ行かないとならないからさ」

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