第19話 もう一つの報い
翌朝。パートナーである入鹿機が大破したことで、予定されている『GS4の慣熟』任務が変更されるのは予測していた。
「もう一日、入院しててね」
クリステア軍医から言われても「ああ、やっぱり」と納得する。
(入院……と言う名の待機だな)
クリステア軍医が広めたのか、友人たちが休憩がてら病室を訪れてくれた。
(……玲が来ない?)
同じ死線を乗り越えたのに……と思うと、寂しい気がする。
太陽が西に傾く15時30分を過ぎた頃、士官候補生の指導を任されている一樹蓮大佐が病室を訪れた。
一樹大佐は、健康上の理由で第一線を退き訓練・教育部門に転属した。御堂と入鹿の指導官として形式的には直属の上官と言える。
第2戦団では珍しいくだけた感じの士官だが、指導力には定評があり、優秀なパイロットを送り出してきた。
入院中と言うことで、御堂は病衣姿ではあったが、立ち上がって姿勢を正し敬礼する。
「大佐。こんな格好で申し訳ありません」
「ええと……いろいろあってね。私はもう、大佐ではなくなて少佐だよ」
「はあ? 何を言ってるんですか?」
言われてみれば一樹教官の階級章は、確かに『少佐』に変わっている。唐突すぎて御堂の思考が全然追いつかない。いや、揶揄われているんじゃないかとも思った。
「昨日の所属不明機との交戦の件でね。上層部は、お怒りなんだ。見せしめのための懲罰人事ってやつだね」
それこそわからない。昨日の襲撃は、確かに『新型機が狙われた』大事件に違いないと思う。しかし、敵機を撃破して新型機は守り切った。
それができたのは、御堂や入鹿の操縦技術が向上していたからであり、一樹教官の指導の賜ではないか……なぜ懲罰人事で降格されるのか?
「結果的には大勝利だけど、大勝利だから逆に見過ごせなくなった面もあるんだよ」
「見過ごせない?」
「結果オーライで、今回のような命令違反や判断ミスを容認してしまったら、軍としての規律や統制が取れなくなってしまうだろう?」
「でも!」
「手柄のために勝手な判断をしたり、命令違反したり……法律や規則を無視して暴力に訴える者も出るよ。結果がどうであれ、不正や違反があれば、それを処分できないと組織はダメになっちゃうんだ」
一樹教官は、ここで一息ついた。少し厳しい視線を御堂に向けて、ゆっくりと言葉を続けた。
「昨日のような襲撃を受けたら、新型機の保全が最優先だ。無闇に戦闘に突入しちゃったなら降格どころか懲戒免職ものだよ。まだ判断能力の未熟な御堂准尉に、指揮権を委ねてしまった私の責任は重い」
御堂は、思わず唇を噛んだ。御堂の脳裏に、あの秘書の声で『判断ミス』の言葉が繰り返される。
(一樹教官は、あたしの身代わりで懲罰を……)
士官候補生が懲罰処分を受けたら近衛軍を追放される。一樹教官が不始末を被ってくれたから、御堂は守られたのだろう。
友人たちから「お手柄」と言われ、浮かれていたのが恥ずかしくなる。
「指揮権の選択は間違ったけど……私自身は、今回の件で誇りに感じこともあるんだ。有馬司令も御堂准尉の才能を評価してくれていた。だから、私の降格だけで納得してくれたんだ」
ハッとしたが、申し訳なくて一樹教官の顔を見られない。
「そして……A級パイロットが投降した時の対応に『星間協定に乗っ取った対応をするべき』と答えてくれたよね」
御堂は躊躇いながら頷いた。
「嬉しかった。私が育てているのは『戦闘機械』ではなく『人間』だったんだ、と確信できたんだから」
昨夜の尋問では、月夜見の秘書から否定された対応を、一樹教官は認めてくれた。
「もう、こんな時に玲はどこに行ってるんだろう!」
溢れそうになる涙を誤魔化すために、そこにいない入鹿を探すフリをした。個室の入口まで歩いて内線電話を取る。
入鹿の部屋へ電話をかけながら、一樹教官に見えないように涙を拭った。
「入鹿准尉は、入院中だよ」
「え?」
「全身打撲で立ってるのがやっとだったらしいよ。御堂准尉を守るのも、無理をしたんじゃないかな」
入鹿の部屋の電話は鳴り続けている。




