第17話 尋問
病室に入ってきたのは仮面をつけた背の高い女性士官だった。もう一人、行政官の制服を着た女性がその後から続いた。行政官……軍人ではなく事務方の人だ。
「有馬司令!」
帝国近衛軍、第2戦団の統括司令である有馬月夜見大将。帝国近衛軍でただ一人の女性将軍であり、近衛軍の実質的なナンバー2である。
御堂が尊敬し憧れる存在であり、それ故にこの第2戦団を希望した。
反射的に背筋を伸ばす。敬礼しようとしてベッドの上だと気づき、慌ててベッドから降りようと床に足を降ろしたところで、今度は自身が下着だけの姿だったのを思い出した。
「そのままでいい」
仮面で顔の上半分を隠されているため表情は読み取り難いが、声の感じは穏やかだった。御堂のアタフタする様子に、見えている口元が笑いをこらえていた。
クリステア軍医は、月夜見と同伴する秘書に椅子を用意してから、御堂に向き直って説明してくれた。
「目を覚ましたばかりで申し訳ないんだけど、今日の戦闘の事情聴取なんだってさ」
「あ、はい」
「今、傷の手当てで下着姿でしょ。『半裸の女性のところへ、誰も入室させられません!』って断ったんだけどさ。そしたら『有馬司令も女だから』って言われちゃってね。断り切れなかったんだ。ゴメンね」
「は、はあ?」
「じゃあ、私は席をはずすから、後はよろしく」
それだけ言うと、クリステア軍医は明るく手を振って病室を出て行ってしまった。クリステア軍医の、妙に軽いテンションに場の会話が繋がらず、少しの沈黙が続いた。
「有馬司令は、貴女の働きに感謝すると仰られてました」
最初に口を開いたのは、行政官の制服を着た女性だった。月夜見の秘書として一緒にいるのを見掛けるが名前は知らない。改めて近くで見ると、仮面をした月夜見よりも無機質な顔に見えた。
GS4の戦闘記録……入鹿機との音声通信を確認しながら、秘書は御堂に質問してきた。質問と言うよりも糾弾だと御堂には思えた。
『二機のB級を撃破したら新型機で前哨基地へ帰還して下さい』
「B級を撃破した後、なぜ速やかに帰還しなかったのですか?」
申し訳ありません。
「理由をお答え下さい」
入鹿准尉が撃破されたと思ったら、止まらず……。
「命令違反ですね」
『敵機のパイロットは確実に殺すつもりで戦って下さい』
「撃破したB級のパイロットの死亡を確認しませんでしたね?」
申し訳ありません。
「理由をお答え下さい」
パイロットまで殺す必要はないと思って……。
「命令違反ですね」
繰り返される「命令違反」に、遂に御堂の我慢が限界を超える。
「あの任務の指揮権は、あたしにありました。命令違反を問うなら入鹿准尉の方じゃないんですか?」
秘書が月夜見に何かを確認する。秘書と月夜見の間で交わされた会話は、御堂には聞こえなかった。
「では、訂正します。貴女の判断ミスですね」
そう言われたら、返す言葉はない。
感情的に挑んでいったら「A級ペルセウスがダメージを受けていた」ので勝てた……と言う偶然の結果だったのだ。
「A級のパイロットの投降を容認したのは何故ですか?」
敵兵の投降に、協定で定められた対応をしました。
「敵兵は、協定違反を犯した者ですよね?」
でも投降してきたなら、相応の対応をすべきと思います。
無機質に見えた秘書の顔に、急に人間的な感情が浮かんだ。驚きと呆れと・・・同情の混じった顔。
「同じ手口の詐欺に、何度でも引っかかるタイプ・・・ですよね?」
違います!
「ゴメンナサイね。貴女を普通の《《判断力のある人》》のつもりで質問してました」
普通に判断力あります!
秘書は数秒沈黙する。それから、捨てられた《《小動物を哀れむ》》ような表情で御堂を眺めた。
次に再生されたのは、御堂の声だった。
『いまさら・・・させるかァ!』
『・・・ちっくしょう!』
「A級のパイロットを殺そうとしましたね?」
はい
「でも、殺さなかった」
はい。
「何故ですか?」
・・・わかりません。
多分・・・「殺せなかった」理由なら答えられた。でも「殺さなかった」理由は答えられなかった。




