第149話 愚者への温情
A級0067機の振舞いに、射流鹿は絶望に近い印象を抱いていた。
「噂は聞いていましたが……まさか、これ程とは思っていませんでしたね」
A級機体は、部隊を象徴する存在である。それを預かるパイロットにも、それなりの品格が求められる。
少なくとも第2戦団と第1戦団では、B級相手に本気で決闘をするパイロットはいない。不意打ちなど尚更だ。
「さっきも言っただろう。こんなものだ、と」
月夜見はまたクスクスと笑う。
「しかし、御堂准尉もなかなかだったな。青柳の指示だろうが上出来だ」
ナーガオウ州の内部にも安全保障局の工作員はいる。彼らによって、皇城府に情報は送られたはずだ。
「命令違反の処分は下します」
「それは、好きにしろ」
射流鹿は法律にも律法にも厳格だ。射流鹿を相手に「穏便に」等と説得するのは、無駄な時間である。
星間協定で、紛争解決の手段と定める決闘には厳粛な様式がある。
決闘の結果として定まる約定には、国家間条約と等しい拘束力があリ、当然ながら、しかるべき権限を有する者の採決がなければ決闘は成立しない。勝敗を見届ける立ち合いも必要である。
A級0067機とGV3Xの戦いは、その要件を満たさない。
兵士個人の名誉回復の決闘にも当たらない。所属すら明らかにせず、戦闘開始の合図を待たずに不意打ちをかけるのは「決闘を騙る卑劣な戦闘行為」を問われることもある。
しかし、藤堂中佐と山根大佐には引け目も罪悪感も一切無い。
決闘の名目で、相手を討ち倒し一方的な要求を押し付ける……帝国の近衛軍でA機体を託された者に与えれる当然の役得だと思っていた。
「畜生、あれは絶対に士官候補生なんかじゃねえ!」
「第2戦団め、汚え罠を仕掛けやがって」
藤堂中佐は、主モニターとサブモニターで撃破されたB級をサーチした。西側公園の辺りには共に出陣してきたガルーダ部隊のB級の機体がある。だが、そこには2番機がいる。
そして、ナーガオウ州軍の撃破されたB級の近くには11番機がいる。
「よし、行くぞ」
藤堂中佐と山根大佐は、11番機に近いGV4を選ぶ。
御堂が投降させたGV4は、コクピットを潰されて片膝をついた姿勢で停止している。剣を右手で握ったままだ。
A級0067機は、その機体に近づき、右手から剣を取った。
「あら? ナーガオウ州軍の機体から剣を取るんですねぇ」
竜崎中尉は怪訝に思う。ナーガオウ州軍機の装備は、打刀ではなくてロングソードだ。ついさっきまで、打刀を振るっていた者がロングソードに持ち替えようとしている。




