第145話 デマの流布
決闘。
それ自体は、星間協定で認められた紛争解決の手段である。戦争と言う際限のない破壊を、代表者の戦いによる限定された被害で収めようとする政治的判断でもある。
剣の切っ先を向けられた11番機は、動かない。機体頭部の面頬の奥の機械眼球が、A級0067機を捉えているが、太刀には手をかけていない。
『どうした、返事もできない程に臆病風に吹かれたか、日嗣皇子!』
藤堂中佐は更に大音響で、自らの声を公園や州議事堂の敷地に響かせた。
戦闘の様子を映像に収めようと民間報道機関がカメラを向けてきた。藤堂中佐は、そのカメラを意識して機体の向きを少し変える。
『無抵抗の州市民に銃口を向けることはできても、剣を持つ我とは戦えないのか?卑怯者の日嗣皇子め!』
左腕を上げて粒子ビームの流れて彈で炎を上げているオフィス街を指差す。報道機関のカメラがそれを追いかける。藤堂中佐は更に続ける。
『ナーガオウ州市民を開放するため、単機で駆けつけた我を5機の重甲機兵で取り囲むとは、貴公には近衛軍の軍人たる矜持はないのか?』
想定外の展開に、A級0067機に斬りかかろうとしていた2番機の動きが止まっていた。
「この人、何を仰ってるんですか?」
竜崎中尉は頓狂な声で、有本大尉に問う。
「俺が知るか!」
有本大尉も返事に困る。いや。竜崎中尉が、面食らって攻撃を中断しただけでも十分な効果だと有本大尉は考え直す。
A級0067機のSユニット。
SVの山根大佐は、半分呆れながらも藤堂中佐の口の達者なことに感心する。嘘八百のデタラメと、その滅茶苦茶さで《《2番機の動きを止めた》》のだ。
2番機が冷静になる前に、日嗣皇子が挑発に乗って決闘に応じてくるなら一気に展開が変わってくるはずだ。
「上手くやってくれよ」
山根大佐は、Sユニットで奇跡を祈った。
『貴公に一欠片でも男たる矜持があるなら、我との一騎打ちを受けよ!』
大見得を切る藤堂中佐は、手応えを感じていた。映像の編集を工夫すれば、自分が並べた嘘八百通りのニュースを流せるはずだ。
【州都を火の海にしようとする第2戦団の5機の重甲機兵に、ただ一機で戦いを挑んだ南部方面軍のA級】
二十歳をこえたばかりの若造で、これが初陣。嘘八百に反論したくなるだろう。一言でも言い返したら、一騎打ちを受けざるを得なくさせてやる!……自信があった。
しかし。
「馬鹿馬鹿しい」
挑発とわかっていて、それに乗る射流鹿ではなかった。2番機に対して、右腕を上げようとした時……。
『ふざけるなー!』
御堂の声がスピーカーを通して、州議事堂周辺に響き渡る。




