第143話 南部方面軍本部
A級0067機のSVを務める山根大佐は、苦渋の選択を下す。高高度信号弾での「回収」要請を母艦に求めたのだ。
「戦艦『ガルーダ』が入港しているP03中継基地までの直線距離は70キロメートル。昼間の照度では、高高度信号弾と言えど視認されるのは難しいが……中間地点に配備されている友軍が、更に信号弾を打ち上げて中継してくれれば、あるいは」
希望的な観測だが、CRの藤堂中佐も同意する。「回収」要請の高高度信号弾は、第2戦団に「自軍の戦意喪失」を自白したようなもの。
「それでも、このまま戦うより生き残れる可能性は高いはずだ」
南部方面軍の所属章を付けたA級0067機だけは、絶対に『ガルーダ』に帰艦されなければならない。
南部方面軍も、州都と本隊駐屯地までの間の数カ所に軍用ヘリを飛ばして、戦況の変化に対応する用意はしていた。
州都と本隊駐屯地の直線距離80キロメートル。空中移送機は往復60分程度を要するが、軍用ヘリならば20~30分で往復できる。しかし、第一陣・第二陣ともに極めて短時間で撃破されてしまい連絡係の用すらなさなかった。
その、中間地点に待機していた軍用ヘリから「A級0067機が回収要請の高高度信号弾を打ち上げた」との報告が届く。
「無視しろ。昼間で視認できなかったことにすればいい」
黒田准将は、報告してきた兵士に面倒そうに指示した。
既に、戦いの趨勢は決した。第2戦団に打撃を与えて、優位な条件で和睦するのは不可能だろう。
南部方面軍が叛逆を問われるのも避けられない。
「だが、これで第3戦団中央本部も一蓮托生だ。少なくとも第3戦団内での軍法会議では、南部方面軍を追求できなくなったはずだからな。あとは第3戦団中央本部を突いて、皇城府と交渉させるだけだ」
懸念すべきことはある。第2戦団の月夜見が「第3戦団に『帝の敵』を宣告すべき」と要請をだしていることだ。
もし『帝の敵』とされた場合には、第1戦団や第2戦団および安全保障局は「第3戦団に対して略奪自由」となる。
「ふん。あるはずがない」
第3戦団は巨大な組織である。非戦闘員を含めて8万人を超える規模は、近衛軍で最大の人員を抱えている。
「皇城府が8万人の帝国民を略奪の対象とする宣言をするなら、それこそ政治的に圧力をかける術がある。その時にはナーガオウ州をまた利用させて貰おうか」
第3戦団が箝口令を敷いたために、黒田准将が知らない事実があった。藤崎副司令の前任であった早乙女副司令が、太后の庭園で銃殺されたことだ。




