第134話 30分前
時間は少しだけ巻き戻る。
12:45に新藤《098》機と共に州議事堂を離れたGV3Xは、13:00に帰艦する。『朱雀』中央デッキに格納され、整備用台座に腰を下ろすと、整備班の興田主任が先頭に立って直ぐさまバッテリーの交換作業が始められた。
御堂は、GV3Xの脚下で青柳を待っていた。しかし、青柳が降りてくる気配がない。胸部装甲は開き、コクピットも展開されているのに。
厭な予感にかられた御堂は、整備班にコクピットを強制イジェクトして貰って、Sユニットへ入り込んだ。
「青柳少尉!」
御堂の声に、青柳は返事をしなかった。虚ろな目でSユニットのコンソール画面を見つめている。パイロットスーツの左腕は肘まで捲り上げられていて、その前椀部が採血痕のように紫色に変色していた。
「青柳少尉ってば!」
耳元の大声に、青柳の身体がビクリと反応した。悲鳴とも絶叫ともわからない声を上げると、大きく身体を仰け反らせる。もとの姿勢に戻ってから、やっと視線を動かして御堂と目が合った。
「あ……ごめんなさいですぅ。直ぐ、用意しますからぁ」
青柳の右手が、右脇の収納箱から注射器を取り出して、左腕に刺そうとする。
「ちょっと、やめぇぇぇー!」
右手から注射器を奪い取って、青柳の身体をSユニットから強引に引きずり出した。
GV3Xのバッテリー交換が進められて中、御堂は青柳を引き摺るようにして休憩コーナーへ連れ出した。
「何なのよ、これ?」
Sユニットの収納箱から持ち出した注射器を差して、青柳に問い質す。青柳の説明によるとブドウ糖とビタミン剤が主剤で違法な薬剤ではない、と言う。緊張が切れそうにった時の精神安定剤みたいなもの、とも青柳は言った。
いや、絶対それだけじゃないだろ……と御堂も察したが、それ以上の追求は止めた。
「とにかく、こんなモノ必要ないわよ。普通にやってくれれば、GV3Xは絶対に負けないんだから!」
「でもぉ、万が一にも迷惑かけちゃったら申し訳ないですぅ」
今の青柳は、語尾が妙に間延びする、御堂がよく知る青柳だった。あの、機械音声のような喋り方をする青柳は、この薬品が造り出していた別人格かも知れない。
「絶っっ対、大丈夫だって!バッテリーの交換が終わったら、それを証明しに戦場へ戻るわよ」
「へぇ?でも、撤退命令出てますよぉ?」
「あと2機撃破しないとトイレ掃除から逃げられないの!」
「は……はい」
13:20。
バッテリー交換を終えたGV3Xは、回収任務で発進するはずの空中移送機へ無理矢理乗り込んで『朱雀』を飛び立った。




