第112話 やっぱりトイレ掃除?
戦艦『朱雀』中央デッキでは、整備用台座に腰掛けるGV3Xの足下に御堂と青柳が待機している。御堂の左膝はかなり良くなってるが、念のためパイロットスーツの下ではテーピングで固められている。その二人のもとへ刀自古が近づいてきた。
「一体、何の御用?」
刀自古の本来の仕事は、第2戦団統括司令官たる月夜見の秘書官である。そのために皇城府・安全保障局から太后の命で第2戦団に派遣されている。
月夜見の我が儘に振り回されて、済し崩し的にGV3Xのパイロット2人の御守役を押しつけれた格好だ。
今も、御堂から「中央デッキで待っている」との呼び出しに応じて『朱雀』の司令官室から降りてきたのである。
「行政官さまに、お願いがありまして」
御堂が一歩前に出てきた。青柳は御堂の背中に隠れて、首だけをチラチラと覗かせている。
「南部方面軍の重甲機兵を、7機。撃破してきます!」
「?」
「ルージュピークの工廠施設で、あたしが命令違反で逃したのが6機。だから7機以上、潰してきます」
「ああ、そうなのね」
刀自古としては「その意気やよし」とは思う。
「なので、あたしと青柳少尉のトイレ掃除を代わりにやっといて下さい」
「……はい?」
「だって、あたしと青柳少尉は『実戦に出ない』からってトイレ掃除の当番を集中させたでしょう?だったら、あたしたちが活躍したら相楽行政官が責任とるべきじゃないですか!」
そうだった!
月夜見の他にもう一人「面倒くさい女」がいたのだ。性質が悪いことに、こちらの「面倒くさい女」は思考回路も滅茶苦茶だ。
いや、脊髄反射だけで生きてるから「思考」していない。
「はいはい。貴女たちが敵重甲機兵を8機撃破したら、妾が貴女たちの当番のトイレ掃除をやってあげます」
論理的な説明も説得も不可能と判断した刀自古は、受け流してそのまま踵を返して歩き始めた。
「言いましたね!絶対ですよ!」
念押しする御堂の声。
「絶対ですぅ」
青柳少尉まで、尻馬に乗って念押ししてきた。
既に『朱雀』左舷デッキでは、空中移送機が発進準備を整えている最中である。A級機体の2番機を乗せ、完全武装した白兵戦部隊が後部ハッチから搭乗している。
あの空中移送機が、2番機と白兵戦部隊を降ろして戻ってきたら、第二陣として『朱雀』はGV3Xを送り出すことになっている。
結局。あの脊椎反射女には、月夜見司令に見限られたことは関係ないのだろう。今日のトイレ掃除の当番を免れたい……だけの打算で、全力で戦ってくるに違いない。




