第108話 最後の戦い?
幼少期の射流鹿から、剣と重甲機兵を指南してきたのが月夜見である。月夜見が、射流鹿の師匠のような存在であることは間違いない。
月夜見の《《可愛がり》》ようから『日嗣皇子の実母は月夜見将軍ではないか?』との噂が流れたこともある。月夜見が仮面で顔を隠すのは『日嗣皇子に似た顔を隠すため』とも言われ、月夜見自身が敢えてその噂を否定しなかった。
その射流鹿が、成長した今は太后に生き写しになるのは皮肉である。
「本当ならば、この私が射流鹿の母親だったのだ。あの女が帝を寝取ったせいで、あの女の腹を借りることになっただけだ」
「月夜見様、お腹から生んだ女性が母なんですよ?」
婚約者を寝取られたから、その女に敵愾心を持つ……までは一応理解できる。しかし、その女が生んだ子を「本来の母は自分である」と言い張るのは、刀自古の理解の外である。
その月夜見とて、今は皇城府の科学技術工廠の重鎮である有馬舟博士に嫁いでいる。
……もう、恋敵の生んだ子に固執しなくてもいいだろうに。
刀自古にとって月夜見は、ひたすら「面倒くさい女」だった。
戦艦『胡蝶』艦尾ヘリポートで、刀自古は八須賀大佐を待っていた。
ヘリポートへ繋がる艦の扉が開いたとき、八須賀大佐の側に白い軍服が見えた。八須賀大佐は、その白い軍服に敬礼してから刀自古の方へ歩いてきた。
白い軍服を着ているのは、射流鹿だろう。八須賀大佐の見送りに来たのだと思った。
「大兄様は、何か仰ってましたか?」
ヘリポートを飛び立ったヘリの中で、刀自古は八須賀大佐に問いかけてみた。
「よろしくお願いします、と申されただけです」
その返事に、刀自古はホッとする。
「八須賀大佐に、個人的なお願いがあります」
「なんでしょうか。行政官殿」
「GV3Xを、州議事堂包囲線へ参加させて欲しいんです」
八須賀大佐は怪訝な顔をする。当然であろう、御堂を参戦させないために左膝を故障させたのは刀自古自身だからだ。
士官大学校の士官候補生は、あと2ヶ月足らずの仮配属の後で正式配属の辞令を受ける。しかし、ルージュピーク北東部の工廠施設での命令違反によって、月夜見は御堂を見限った。月夜見が大切にするのは射流鹿であり、射流鹿の役に立つ存在として御堂を評価していたに過ぎない。
おそらくこの戦闘は、御堂が近衛軍として戦う最後の戦いになる……刀自古はそう思っている。
「よろしいのですか?」
八須賀大佐の確認を求めた問いかけに、刀自古は首肯した。汚名返上するか?それとも、死に場所とするか?
機会だけは与えても良い気がしたのである。




