第106話 青柳の騎行戦?
ふと疑問が過る。青柳はA級機体のSV として訓練を受けていた。入鹿がそうであったように、複座型機体のSVは少なくとも分隊の指揮権を有するはず。
目の前で、御菓子をパクついて幸せそうに笑っている青柳が、作戦指揮を取れるんだろうか?
「青柳少尉は、3回実戦に参加したって聞いたけど……どんな戦闘だったの?」
少し考えてから、両手を打って明るく答える青柳。
「あ!! 昨年の第3次麗仙石侵攻戦に行きましたぁ!」
「え?」
「ええっ!」
御堂は思わず声を上げてしまった。御堂だけではない、エリカもだ。エリカの顔には、ダイパーの時とは明らかに別の嫌悪が現れている。
麗仙石州は、不死鳥京から南へ進んだ所にある外郭都市である。11年前に大きな事件を起こして以来、皇城府と衝突し、これまで3度の武力衝突があった。
第3次麗仙石攻防戦は、帝国の悪夢を終わらせた水蛭鹿帝即位後で最大の内戦と言われている。
最大……とは戦闘の規模ではなく、犠牲者の数だ。麗仙石州の人口は60万人と言われていたが、戦いの後は20万人を下回っていた。都市の半分が焦土化したと言われている。
A級機体1機と8機のB級機体。計9機の重甲機兵で、麗仙石の都市防衛に当たった12機を撃破しながら都市を焼き払った。
近衛軍の勇壮さよりも、残虐性が周知されてしまった戦いだ。
「あれって、騎行戦だったと聞きましたけど……本当なんですか?」
騎行戦とは、敵陣営を弱体化するために敵領地を焦土化してゆく戦闘行動である。通常ならば、非戦闘員への残酷な行為は禁止されるので行われることはない。
「麗仙石州は、皇城府との約定を破りましたからぁ。焦土化されるのは当然ですよぉ?」
アッケラカンとした様子で答えて、青柳は御菓子を摘まむ。
「麗仙石州は、何をしたの?」
「……」
青柳の目が少し空を見つめる。
「駄目ですぅ。機密扱いで箝口令がしかれている事項もありますから、抵触するかも知れないことは答えないことにしときますね。わたしじゃ判断難しいんですよぉ」
「あ……。そう、そうよね」
内容は煮え切らないが、ハキハキと答える青柳に、御堂はそれ以上追求する気はなくなった。
しかし、御堂には疑問は残る。
(A級機体のSVは、青柳少尉だったの?)
(青柳少尉が、騎行戦を指揮したの?)
これから仕掛けられるナーガオウ州議事堂包囲は、星間協定で認められた「無制限かつ法の制約を受けない」報復である。
州都の焦土化も想定されている可能性はある。
(まさか……そのために青柳少尉が呼ばれたの?)




