第102話 南部方面軍
「この戦闘に関して、南部方面軍から報告は?」
「今のところ、何もありません」
神津副司令官の返答に、周防崎統括司令官は言葉に詰まる。
ルージュピーク工廠施設での衝突の直後。
皇城府において、月夜見から「第3戦団に対し『帝の敵』宣言を出すべし」との要求が提出された。周防崎は、この時初めて『ルージュピークへの南部方面軍の介入』を知る。
最初は、第2戦団の言いがかりだと思った。
しかし、第2戦団が提出した6機の重甲機兵との戦闘記録は真実と判断せざるを得ない。周防崎の知らないところで、南部方面軍が「帝の命令なく」軍事行動を起こしたことは間違いない。
「同盟議会の要請に応じるための緊急対応です。容認されるべき事案でしょう」
藤崎准将は、南部方面軍の正当性を主張するべきと考えているらしい。
「南部方面軍が行動を起こす時点で、既に同盟議会の議長は逮捕されていました。その主張では、同盟議会との共犯を疑われませんか?」
「同盟議会の議長を逮捕した、安全保障局を告発するべきです」
神津副司令官の反論に、藤崎准将は引かなかった。
周防崎統括司令官は、藤崎准将を制して神津副司令官に説明を続けさせる。
「3軍合同演習でのイルドラ兵による襲撃事件ですが……」
神津副司令官は「イルドラ軍」と言わずに「イルドラ兵」とした。これはイルドラ公国が『一兵士の勝手な暴走』と弁明したことを受けている。
「第2戦団から参加した重甲機兵のパイロットの氏名は非公開のはずでした。それが、何故かイルドラ軍の記録には明記されていました。仮にIとMとします」
公式には非公開だったパイロットの氏名が、他軍の記録に残っていたと言うことは非合法な手段で入手したことを意味する。しかし、3人ともそれには触れない。
「フラッグ戦の際にロケット砲で砲撃を受けた機体のパイロットがIでした。そして、ルージュピークで大崎中佐が剣を抜いた相手もIです」
3軍合同演習を隠れ簑にしてIを暗殺しようとして失敗した。そして同盟議会まで動かして、再びIの暗殺を謀った。そのIと言う士官候補生は、太后と生き写しだと言う。
ここで、Iが日嗣皇子であったなら……辻褄が合うではないか。
帝には、弁明の機会すら与えられなかった。太后に「帝への取りなし」を求めても、使者である早乙女少将は遺体となって戻ってきた。
「統括司令の身で、南部方面軍の動きを知らなかった……は通らんな」
周防崎統括司令官は、目を瞑りそして天を仰いだ。




