第100話 議長の尋問
帝国・同盟議会で議長を務めていた錦城ジンは、再び安全保障局本部の尋問室にいた。
この尋問室で、太后からの「議決の投票データを提出する」要請を拒否したのは10日前のことだった。その時は、錦城には自信があった。
……裁判で、この不当な逮捕を告発してやる!
……ナーガオウ州や外郭都市は、自分の味方だ!
……第3戦団だって後ろ盾になってくれる!
……そうすれば直ぐに権力の座に戻れる!
しかし、尋問が終わり独房に戻された時には終身刑が確定していた。その時、錦城は事態を認識した。
……自分は、警察に逮捕されたのではなかった。
……裁判権を有する安全保障局に逮捕されたのだ。
安全保障局の闇に閉じ込められたまま、反論の声は封殺されて、ただ「逮捕」と「終身刑」の記録だけが残る……帝への反逆者の烙印と共に。
それから必死に「もう一度、太后様と話をさせてくれ」と懇願し続けた。それが、やっと叶ったのだ。
入口から振袖の女性と太后が入ってきた。太后が椅子に座り、振袖の女性はその脇に立つ。10日前と同じ様子が繰り返された。
「さて。お話とは何でしょうか?」
10日前には目を背けて無視した太后の声に、今は縋り付く。
「私が知っていることを全てお話しします。ですから……」
ここまで言ったところで胸が詰まってしまう。
「……助けて下さい。……私だけでも」
太后の双眸が細くなり、貌から感情が消える。
「帝は、卑劣な取引には応じません」
そう言って、太后は椅子から立ち上がって尋問室の出入口へ歩き出した。側に立っていた振袖の女性は、太后を錦城から隠すように後に続く。
「ま……待ってくれ。私は頼まれただけなんだ!」
ほんの僅か、太后の歩む速さが遅くなり、小さく振り向いたように見えた。錦城は自分の発した情報に、微かだが手応えを感じた。
「ナーガオウ州軍司令官のダイ・アグナー将軍だ!彼が、第3戦団南部方面軍の黒田准将と一緒に来て『第2戦団を追い出して欲しい』と言ったんだ!」
太后の足が止まり、ゆっくりと振り返った。
「第3戦団南部方面軍の黒田准将ですか?」
錦城は、首を大きく縦に振って頷いた。
「そんな小物の要請を、同盟議会の議長が聞くとは思えません。誰かを庇ってらっしゃるのではないですか?」
「……い、いや」
否定しようとしたが、そこで錦城は察した。
……太后には望む名前がある!
「名前を忘れていらっしゃるんだわ。思い出したら連絡して下さいね」
錦城は、独房へ戻された。たが、手枷や足枷の拘束具は外されることになった。




