第10話 時間稼ぎ
二機のB級ジークフリードを、フォボスとディモスのB級機体が左右から回り込んで退路を断ち、マルスのA級ペルセウスが中央から斬り込むつもりでいた。
しかし、入鹿機の急接近に、マルス機はその場に留まった。
マルスのA級ペルセウスと入鹿の従来型ジークフリードは、およそ50メートル程度の距離を空けて対峙する。
「あの姿勢の良かったパイロットの方か?さっさと片付いてくれよな!」
マルス機がロングソードを機体正面に構えると、入鹿機も打刀を右手で引き抜いて応じた。
マルス機が脚部推進機関を全開にし、機体をホバリングさせる。突進の勢いを乗せた中段からの突き!
ガキン!
マルス機のロングソードを、入鹿機は左手に握った打刀の鞘で受け止めた。
ロングソードの連続する斬撃、左手の鞘と右手の剣で弾きならも、入鹿機はジリジリと後退させられた。
「急ぎの仕事なんでな、これで終わりにしようぜ!」
決着をつけるつもりの一撃を入れようとした時、モニターの中の入鹿機は右へ移動した。入鹿機との距離を保ちながらマルス機も右へ移動するが、地面から突き出す鉄骨が邪魔をする。
「ちぃ!」
マルスは舌打ちした。形ばかりの剣戟を交わしながら、入鹿機は低層築造物の瓦礫が散らばる場所を行ったり来たりしていた。
経過する時間に、マルスは思わず歯がみをする。
マルス機は、バックパックの主推進機関と脚部推進機関を最大出力で稼動させ、一気にジャンプした。
真上から振り下ろされるロングソードの一閃が、肩の装甲板に食い込む。かろうじて致命傷を避けたが、一気に距離を詰められてしまった。
そこから一気呵成に斬撃を浴びせるマルス機。
連続する斬撃を入鹿機は返しきれず、機体各所に剣の打撃を浴びた。装甲板はひしゃげて傷だらけになり、装甲板の下にある素体からも潤滑油が飛び散って白い装甲がドス黒く汚れる。
「諦めな、ここまでだ!」
もう一押しで、マルスは入鹿機の動きを止められると思った。
ギィィン!
マルス機の斬撃は、入鹿機の右手の打刀を弾き飛ばした。宙に舞い、10メートル以上離れたところに打刀は落下する。
「今度こそ、終わりだ!」
マルス機はロングソードを振り上げ、トドメのつもりので振り下ろした。
ガツン!
硬い振動にマルス機が震えた。入鹿機は、またも左手に握った鞘でロングソードを受け止めていた。
「往生際が悪いヤツは、モテないぜ!」
マルス機が、仕切り直しのためにロングソードを引こうとした時、ロングソードの鍔部分を入鹿機の右手が掴んだ。
「なんだァ?」
十字型のロングソードの鍔部分は、棒状で横に張り出している。その棒状部分を、入鹿機は右手で掴んだのだ。更に、鞘を投げ捨てて、左腕をマルス機の右腕に絡めてきた。反射的にマルス機は、左手をロングソードから離した。
ロングソードを握るマルス機の右腕は、入鹿機の左右の腕で押さえ込まれた格好だった。
打刀を弾かれた入鹿機には攻撃する術はない。だが、ロングソードと右腕を掴まれたマルス機も攻撃できない状態にされた。
「コイツ!援軍の到着まで、この体勢で時間を稼ごうってか!」
マルスは、嫌な予感を感じた。
慌てて、新型機に向かったフォボス機とディモス機の動向を、サブウィンドウで確認する。新型機と二機のペルセウスが戦っている映像を拡大した。
退路を遮断しながら、新型機を前後から挟撃するフォーメーションを取っているが、明らかに剣の腕が違う。
(あれが新型機の性能だと?)
あれはパイロットの剣技であり操縦技術に他ならない。強いて言えば、パイロットの剣技をより正確にトレースする優れた性能を新型機が有していると言えるのかも知れない。
(ふざけやがって!)
だが、マルスの怒りの向かう先は新型機ではない。眼前の従来型ジークフリードに、沸々と憎しみが湧き上がってくる。
(これじゃあ、二人が撃破されるのを黙って見てるしかねえ!)
サブウィンドウの中で、フォボス機は新型機の一撃を受けて動かなくなった。




