調査-3.5(回想2)
普段ならただの物音で済ませただろうが、先ほど争うような声が聞こえている。
朱音の背筋を氷の刃でなぞられるような悪寒が走る。
――これは、命に関わる音だ、朱音は直感した。
朱音はドアにかけていた手を離し、扉に背を向け階段を駆け降りる。
心臓がバクバクと大きく打つが、足は止まらない。
二階の踊り場――そこに、男が仰向けで倒れていた。
「おい!!大丈夫か!?」
恐る恐る顔を覗き込むと、そこにいたのは――先週、朱音の胸倉を掴んできた春日井新だった。
血を流してはいるが、かすかに胸が上下しているのを見て安堵したのも束の間、朱音は震える手をスマホに伸ばす。
「い、今救急者を......!」
その時、階段を駆け上がる足音が耳に入る。顔を上げると、新の友人、形代 佑介が現れた。
「周防?こんなところで何を――新!?」
倒れている新に気づいた佑介が朱音を押しのけるようにして新のそばに跪く。
押しのけられた朱音はたたらを踏んだ。
「新!しっかりしろ、新!!周防、まさか君が!」
「違う!!俺が来た時には先輩は倒れて......。」
「違う?……何が違うっていうんだよ!」
「形代先輩、まずは救急車を!」
朱音は荷物を手繰り寄せ、震える手で必死にスマホを操作する。
佑介は新に呼びかけながらも、電話をかける朱音になおも疑いの色を隠せない視線を送っていた。
ギィィ―という重い音を立てて3階の扉が開かれると、朱音と佑介は音のする方に顔を向けた。
「あれ、朱音くん?なんでこんな所に?って新!?」
「日葵、どうかし......あ、新くん!?」
扉から姿を現したのは新の彼女である美澄 日葵と日葵の友人、黒藤 霞だった。
日葵は階段を駆け降りると新のそばに膝をつくが、霞は倒れている新の姿をみてサッと顔を青ざめ、小さく息を呑む。
霞は倒れている新から視線をそらせすことができず、頭では動けと叫んでいるのに身体が言うことをきかない。
「霞ちゃん、先生を呼んできてくれ!」
「え、あ、わかった!すぐに呼んでくるから待ってて!!」
佑介に声をかけられ、固まって動けずにいた霞は我に返った様子で何度も小刻みに頷くと、震える足を叱咤しながらもと来た道を駆け足で戻っていく。
「新!ねぇ、しっかりしてよぉ!!」
「今、救急車呼んだんで、だ、だいたい10分くらいかかる、らしい......です。」
電話を終えた朱音が倒れた新に声をかけ続ける日葵に向けて告げると、日葵の大きな瞳から涙をぼろぼろとこぼし、嗚咽が漏れ始めた。
そこへ、3階の階段の扉が勢いよく開き、教員である紫藤 巳鶴が息を切らせながら朱音たちの方へ駆け寄ってきた。
「く、黒藤さんから、春日井くんが階段から落ちたみたいだってきいて!」
「先生、救急車は呼んだんですけど......。」
朱音の言葉に紫藤は頷くと、新の様子をくまなく観察する。




