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調査-2

すれ違う人たちがちらちらと、朱音とその隣を歩く玲に視線を向けては逸らしていく。

春の陽射しを受けた桜の花びらが、ふわりと二人の間を横切った。

遠くで響く鳥の声が、やけに鮮やかに耳に残る。

朱音は向けられる視線に小さく肩をすくめ、胸の奥が少しざわつくのを感じながらも足早に歩きだす。

玲はそんな朱音につられるように歩みを早めるが、どこか不満げな顔をしている。


「悪い、俺と一緒にいるせいでお前もみられてる。」

「別に気にしていないよ。君も、何もしていないのなら堂々としていればいい。」


玲の穏やかな声に、朱音は立ち止まり、後ろを歩いていた玲を振り返った。

春風が二人の間を抜け、髪を揺らす。朱音の顔には困惑の表情が浮かんでいた。


「堂々とって......そんなこと、できるかよ。」

「どうして?君はやっていないんだろう?なら、俯く必要なんかないと思うよ。」


玲は不敵に笑ってそう告げると、朱音を追い越して歩みを進める。

よくよく周りを見回すと、道ゆく人々の視線は玲にも注がれているが、とりわけ女性のものが多く、頬をうっすら赤らめる者もいる。


「ねぇ、はやく行こうよ。」


朱音はこちらを振り向いた玲を改めてじっくりと見つめる。

初対面のときは余裕がなかったせいか気づかなかったが、今見ると目を引く存在だ。

首を傾げる度に艶やかな黒髪がさらりと揺れ、太陽の光をうけて綺麗に天使の輪を描いている。

夜明けを思わせる不思議な色合いの瞳、薄い唇、整った目鼻立ち――中性的で、どこか近寄りがたい雰囲気を纏っている。

女性たちが頬を赤らめる理由がわかるような気がした。


「ねぇ、ねぇってば!」


いつまでも立ち止まっている朱音にしびれを切らしたのか、玲が目の前に立った。

朱音より頭ひとつ分小さいその姿が、ぐっと距離を詰めてくる。

訝しげに見上げられ、朱音はわずかに肩を強張らせた。

自身が鬼であると知ったあの日から、人との距離には敏感になった。

だからこそ、この近さは朱音の心をざわつかせた。


「......悪い。少しぼーっとしてた。事件があった場所はもうすぐそこだ。」


朱音は一歩下がり、距離をとる。

そのまま玲の横を通り過ぎ、進行方向を指さした。

玲が視線を向けると、桜の樹と三号館と思しき屋根が見える。

澄みきった春の空の下、花びらが風に乗り、きらめきながら舞い落ちていた。

あまりにも穏やかな光景が、これから足を踏み入れる場所の影をかえって際立たせていた。



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