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調査-1

朱音が玲の探偵事務所を訪ねてから数日後。

春の柔らかな陽射しが大学キャンパスの緑を淡く照らし、遠くで小鳥のさえずりが聞こえていた。

桜の花びらが風に舞い、地面に落ちては積もっていく中を歩く凸凹した身長差のある二人の男。

朱音と玲は、朱音の通う大学へと向かっていた。

あの日、差し出された契約書にサインをした朱音に、玲が“現場を確認したい”と希望したため、朱音が案内することになったのだ。


大学の正門が近づくにつれ、学生たちの笑い声や談笑が風に乗って流れてくる。

花びらが二人の間をひらひらと舞い抜け、地面に吸い込まれるように落ちていった。


「それで、現場っていうのは?」

「校舎の三号館。そこが先輩が落ちた階段だ。」

「ふうん。あぁ、そういえば被害者の先輩とその彼女についてもう少し教えてくれる?」


隣を歩く玲の言葉に朱音は思い切り顔をしかめた。


「俺が知っていることなんて、本当に少しだけだぞ。大学ではちょっとした有名人だったみたいでたまに見かけたことはあるけど、話したのは、先輩が俺にいきなりつかみかかってきたときが初めてだからな。」

「有名人って、どうして?」

「先輩ーー春日井新さんは映画研究会にいて、去年の学祭で上映した自主制作の映画がすげぇバズったらしい。俺は観てないから内容までは知らねぇけど、SNSで話題になってたのは覚えてる。あとは、先輩とその彼女は学内じゃ“お似合いカップル”って有名だったっぽいな。」

「へぇ、自主製作の映画だなんてすごいね。それにお似合いカップルかぁ。そんな有名人である彼女はどうして君に気があったんだろうね?」


玲の瞳がいたずらに細められる。少し面白がっている様子に朱音はつんと顔を背けた。


「知らねぇよ。こっちが聞きたいくらいだ。」


わざとらしく肩をすくめて返す朱音の横顔を、玲はふっと笑いながら見つめた。


「でも、本当にどうしてなんだろうね。確かに君も世間一般的にイケメンの部類に属するだろうけど、それだけの理由ではないだろうし......。何か接点とかないのかい?」

「接点って言われてもなぁ。思い当たることはねぇな。」

「けど、少なくとも君は印象に残る顔してる。目立ちたがりにはそういうの、刺さるのかもね。」

「……それ、褒めてんのか?」

「もちろん。」


気のない声で返されて、朱音は小さくため息をつく。

歩きながらそよぐ風が朱音のシャツの裾を揺らす。

心のざわめきとは裏腹に、春の穏やかな空気が静かに包み込んでいた。


「──でも、どうして彼が襲われたのかは、まだ分からない。彼に何が起こったのか、彼やその周りについて調べる必要があるね。」


わずかにトーンを落とした声に、朱音は思わず玲の方に顔を向ける。

その瞳は、先ほどまでの茶化す色を完全に消し去り、玲は真剣な眼差しで前を見据えた。


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