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境界の探偵たち   作者:


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齟齬-8

「捜査上、詳細はお伝えできませんが、我々は口論の相手はそれなりに親しい人物ではないかと睨んでいます。最近、周防さんの件以外で問題はありませんでしたか?」

「問題といっても......日葵ちゃんと喧嘩が多いくらいで、あとは何も......。」


御堂が短く相槌を打つ。その直後だった。


「そうですか。では、黒藤さんが春日井さんに好意を伝えたことはご存じでしたか?」


一瞬だけ浮かんだ驚愕と警戒。その感情はすぐに押し殺されたが、久我の目にははっきりと映っていた。


――今、反応した。


それを見逃さず、玲が小さく「ふむ」と喉を鳴らす。


「ええ。現時点では、直接の関与は確認されていません。」


御堂の言葉に、佑介はほっと息をついたようだった。


「あ、少しだけいいですか?」


玲が片手を上げ、にこやかな笑みを向ける。

その柔らかさとは裏腹に、佑介の表情が強張った。

御堂が静かに頷く。


「黒藤さんが春日井さんに告白したこと――形代さんは、どうしてご存じだったんですか?」

「それは……新から聞いて……」


一拍、言葉が詰まる。


「ま、まさか……霞ちゃんを疑ってるんですか!?」


佑介は一歩踏み出し、御堂に詰め寄った。

思わず身を乗り出すその勢いに、久我は反射的に身構える。

御堂は一歩距離を取り、声の調子を変えずに続けた。


「だったら――!」

「先ほど、春日井さんから聞いたと仰いましたね。その話を聞いたのは、いつ頃でしょうか。」

「そんなの、事件と関係ないでしょう!」


佑介の声が荒れる。


「俺が新から聞いてたとしても、霞ちゃんは何もしてない! 俺だって、何もしてない!!」


吠えるような声が室内に響いた。


「落ち着いてください、形代さん。」


御堂が制止するが、佑介は荒い呼吸のまま、耳を貸す様子がない。

久我は、佑介の握りしめられた拳から目を離せずにいた。

頑なに霞を庇おうとする佑介の様子をみて、思わずといったようにそれまで静観していた久我が口を開いた。


「まさか形代さん、黒藤さんに好意を......?」


問いかけは、返事を待たずに室内に落ちた。

佑介は何も言わなかった。

ただ、唇を強く噛みしめ、視線を伏せる。

誰も口には出さなかったが、その沈黙が意味するところは明白だった。

佑介の様子をみて、御堂は内心ため息をつく。

このまま聴取を続けてもいいものか、佑介の状態からも疲労と焦りがみてとれる。

御堂は頭をがりがりと搔きながら、玲に視線で合図を送る。

玲はひとつ頷くと、全員に聞こえるほどの大きなため息をついた。


「久我さん……今のは、少し踏み込みすぎでしたね。」

「なっ!?」

「形代さん、この刑事さんは思ったことそのまま言ってしまうことがあるので、デリカシーなくてすいません。」

「いや......別に。」


空気を変えるように明るく話す玲に佑介は気まずそうに首の裏に手をあてる。

玲の言葉で少し空気が和らぎ、佑介もトーンダウンして気持ちも落ち着いたようにみえる。


「さて、形代さん。今日はこれくらいにしましょうか。ご協力ありがとうございました。」

「はい......。」


最初の勢いはなく、少しふらつきながらも扉に向かって歩き出す佑介の背中に玲が声をかける。


「はやく、春日井さんの意識が戻るといいですね。」

「......あぁ。」


佑介は一瞬立ち止まるも、小さな声で返事をするとそのまま講義室から出て行った。

その背中を見送ると、玲は大きく息を吐きだし、机の上につっぷした。


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