表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/12

邂逅-1

1階のカフェからかすかに漂う珈琲の香りと、階段を上る足音が眠っていた意識をゆるやかに覚醒させていく。

窓の外では柔らかな春の陽射しが差し込み、薄紅色の桜の花びらがひらりと風に舞っていた。

冷たい朝の空気も、少しずつ温みを帯びている。


アンティーク調のソファに横になっていた体を起こし、ゆっくりと伸びをする。

落ち着いた空気が流れる室内は、どこか優雅な書斎を思わせる。

世話役である宵守(よいもり)はすでに客人へのもてなしの準備にとりかかっているようだ。

服の皺を少し伸ばし、探偵事務所の主、神月玲(こうづきれい)は姿勢を正し深く座りなおす。


「さて、今日のお客さんはどんな話をしてくれるのかな。」


玲が扉に視線を向けた、その瞬間ーー

「カラン」と、扉のチャイムが軽やかに鳴り響いた。

扉を開けた男は恐る恐る部屋に入ると玲のことを見つめた。

そのまなざしは強い意志を感じさせる。


「どんな妖怪の困りごとも解決してくれるっていうのはここであっているか。」


低く、耳障りのいい声だが緊張が読み取れる。


「解決できるかどうか保証はしかねるけれども、妖怪の相談事なら承っているよ。」

「そうか......なら、その探偵にあわせてくれ。」


宵守の方に視線をやる男に苦笑が漏れる。やはり探偵事務所の主らしくみえるようにもう少し装いに気を付けた方がいいのだろうか。そう玲は内心でひとりごちる。


「目の前にいるよ。僕がこの探偵事務所の所長だ。さて、本日のご依頼は?」


目の前の男は宵守の方に向けていた視線を玲に向けると、目を見開いた。

玲の頭のてっぺんから爪の先まで視線をやり、疑いのまなざしで見つめてくる。

もてなしの準備を終えた宵守が銀色のトレーに紅茶とお茶菓子をのせて玲と男の元へとやってくる。


「玲、まずはお客様に座っていただかなくては。さぁ、どうぞお掛けになってください。」


古い木製家具に囲まれた空間は、静かで、外の喧騒とは無縁のようだ。先ほどまで漂っていた珈琲の香りは薄れ、今は天井まで届く本棚に几帳面に並べられた本の紙の匂いと紅茶の香りが交じり合っている。

玲と男の前に紅茶をサーブし、ミルクと砂糖を置いた宵守が男に座るように促すと、男は浅くソファに腰かける。それをみやった宵守は玲の座るソファの後ろに立った。


「ようこそ、神月探偵事務所へ。こちらにいらっしゃいますのが探偵事務所の主、神月玲様。私は世話役の宵守と申します。」

「神月玲だよ。どうぞよろしく。」


男の視線がゆっくりと玲と宵守を往復するが、男は一度目を閉じると、重たげに口を開いた。


「俺は周防朱音(すおうあかね)。大学3年生だ。俺は今、ある事件の容疑者として警察に疑われているが、俺は何もやっていない。あんたにはその事件を解決してもらいたい。」


そこまで言い切ると朱音はまっすぐに玲を見つめた。緊張した面持ちで肩もこわばっている。

玲は目の前に置かれた紅茶にミルクを注ぐと、添えられたティースプーンでゆっくりとかきまぜる。


「そのある事件について詳細を教えてくれる?」

「あぁ、俺が通っている大学の一つ上の先輩が階段から誰かに突き落とされて意識不明の重体になった。何日か前にその先輩と俺が口論していたっていうのもあって、元々警察は俺がやったんじゃないかって......。」


そこまで言い切ると朱音の視線がわずかながらに逸らされる。


「口論の理由は?」

「先輩の彼女を俺が、その...とろうとしたって。」

「へぇ、したの?」

「するわけねぇだろ!!大体その先輩たちのこと俺はよく知らねぇんだ。急につっかかってこられてこっちだって迷惑したんだ。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ