調査-5.5(回想5)
日葵は涙で濡れた顔を上げ、かすかな希望を求めるように階段下の方へ視線を向けた。
「きゅ、救急車!よかった……新……助かるよね……?」
紫藤は逡巡したが、日葵を安心させるように微笑み、力強い声で答える。
「救急隊の方が来れば、もっと正確な処置ができます。彼らに任せましょう。」
その時、階下から複数の足音が一気に駆け上がってきた。
朱音たちはその場を空けるよう指示される。
そのまま新のそばに膝をつくと、体を隅々まで確認していく。
「春日井新さんですね? 頭部外傷あり、呼吸あり……担架準備!」
素早く状況を確認していく救急隊員たちの動きに、場の空気が一気に引き締まった。
日葵は新の名前を呼びながら必死に彼の手を握っていたが、救急隊員に優しく肩を押される。
「搬送のため、少し離れていてください。」
「……っ、はい……!」
日葵はこぼれる嗚咽を押し殺しながら立ち上がる。
肩を震わせる彼女の横で、霞が息を切らしながら駆け戻ってきた。
「し、紫藤先生!事務局にも伝えてきました……! 救急箱も……!」
「ありがとう、黒藤さん。もう救急隊の方が来ています。落ち着いて。」
霞は胸に手を当て、息を整えながらもほっとしたのかそのままへたり込んだ。
佑介は唇を強く噛みしめたまま、救急隊員の邪魔にならないように霞の近くに移動し、新が担架へ移されていく様子を凝視している。
しかし、その視線の先には不安だけではなく、明らかな疑念が混じっていた。
その目が合った朱音は、逃げるように再び下を向く。
紫藤はその一瞬の空気の揺らぎを見逃さず、
ちらりと朱音を見てから、すぐに佑介の肩へ手を置いた。
「形代くん。今は春日井くんのことだけを考えましょう。話は、あとでできますから。」
落ち着いた低い声だった。
佑介はハッとしたように目を瞬かせ、悔しそうに睨みを解く。
救急隊員が新を担架に固定し、階段を慎重に降りていく。
そんな新を日葵は祈るように両手を組んで見送る。
救急隊員の背中が見えなくなると、場にはまた静けさが戻った。
サイレンの余韻だけが、まだ遠くで鳴っていた。




