調査-5
朱音も玲も一言も発することなく二人横に並んで歩く。
ちらりと朱音を盗み見るも、先ほどよりもすっきりとしているような、なんとも言いづらい表情をしていて思わず玲の顔に小さく笑みが浮かぶ。
なんだかハリネズミみたいだな、と思いつつも黙っておくことにする。
変わらず人通りがまばらな廊下を歩いているが、窓の外から聞こえてくる学生たちの笑い声と時たま吹く風に舞う桜の花びらに目を細める。
——それでも、この事件はおかしい。
恐らく、周防朱音は自身が『妖怪』であるということで過去に幾度となく理不尽に晒されてきたのだろう。
人は自身と違うものは受け入れがたく、排除したがる傾向にある。
『妖怪である』ことは、時にそれだけで畏怖や排除の理由になる。
朱音のような妖怪たちからの相談も多く、玲自身も職業柄、人から疎まれることが多い。
ただ、玲の胸に少しひっかかるものがあるのも確かだった。
妖怪だという理由で容疑者扱いされることがあるのは理解できるが、話を聞いた限りでは他に容疑者を探すでもなく、朱音が犯人だと警察はほぼ断定している。
それほど短絡的に断定できる状況だったとは、どうしても思えなかった。
「それで、今はどこに向かっているの?」
玲の言葉に朱音は「今更かよ」とぼそっと呟く。
「いつ説明してくれるのかなと思ってたけど、貴方が何も言わないから。」
「へーへー、そりゃ悪かったな。職員室だよ。紫藤先生って人が最初に俺たちのところに駆けつけてくれて、警察への事情聴取も立ち会ってくれたんだ。先生は......俺が犯人じゃないんじゃないかって警察にも、他の人たちにも色々と働きかけてくれた人だよ。」
「それは......期待できそうな先生だね。」
朱音の声音が少し和らいだのを感じ、玲の顔にも笑みが浮かぶ。
「っと、着いたぞ。ここが職員室だ。先生呼んでくるからアンタはここで待っててくれ。」
「はぁい。」
朱音の後ろ姿を見送ってから、一拍おいて玲は一歩足を踏み出す。
先ほどの会話から紫藤先生という人物には少し心を開いているように見える。
そんな先生の前だと、あのハリネズミはどんな顔をするのだろう。
そんなことを考えながら、好奇心に引っ張られるように開きっぱなしの扉からひょこりと顔を出した。
職員室の中はガラリとしており、講義やゼミ活動で留守にしている教員もいるようだ。
入っていった朱音の背中を見つめると、中に残っていた教員たちの視線が朱音へ向けられていることに気づいた。
少し怯えたような視線をむける者。
嫌悪感をかくさない表情の者。
そそくさと席を立つ者。
我関せずと無反応な者。
反応も様々であるが、そのどれにも『畏怖』の感情が滲んでいた。
――妖怪である朱音、その存在そのものに恐れを抱いているように。
そんな中を、朱音は前だけを見据えて歩いていく。
後ろ姿しか見えないが、迷いは感じられなかった。
玲は一瞬だけ躊躇い、しかし好奇心を抑えきれずにそろりと職員室の中に足を踏み入れた。
朱音の向かう先に座っている教員は一人だけ。
恐らく彼が『紫藤先生』なのだろう。
周りのざわめきにも気づいた様子もなく机に向き合って何かを集中して作業しているようだ。
朱音がゆっくりと手を伸ばして教員の肩に手を伸ばす。




