調査-6
「あの日、僕は職員室にいてね、血相を変えた黒藤さんが駆け込んできたんだ。他にも先生はいたんだけれど僕が一番手が空いていてね。黒藤さんには事務局に説明してもらうように告げて、そのまま階段に
向かった。現場のことは周防君から聞いているかな?」
紫藤の言葉に頷く玲に、紫藤も頷きを返す。
「春日井君が救急車で運ばれた後、少しして警察がきてね。僕が皆の事情聴取に立ち会ったんだ。といっても、確か三澄さんと黒藤さんは春日井君が落下した推定時刻は講義を受けていて、それは講義を受け持った先生や彼女たちの他の友人も証言している。形代君はその日、春日井君と会う約束をしていたらしいんだけど、少し遅れてしまって駆けつけた時には春日井君は階段から落ちていたと言っていたよ。」
一度言葉を切ると、紫藤は朱音の顔をじっと見つめる。
朱音は黙って、紫藤の顔をまっすぐに見ている。
不安が拭えないのか、浮かない顔をする朱音を安心させるように紫藤は微笑んだ。
「警察の周防君への事情聴取はね……どこか、違和感があった。最初から、彼が犯人であるという前提で進められているように僕には見えたんだ。」
「最初から、ですか。」
「えぇ、他の......形代くんや、三澄さんの時とは明らかに警察の態度も違っていた。」
「それは周防さんが鬼であること――つまり妖怪であることに関係していると思いますか?」
「恐らくは。周防君が事情を説明した後、警察は春日井君の手に周防君の学生証が握られていたことや数日前の揉め事、形代君の供述から彼が犯人だと。そしてその理由の一端にこう言ったんだ。『周防朱音は鬼だ。鬼は暴力的で短気だ。犯罪を犯すに決まっている。今回の件もカッとなって突き飛ばしたんだろう。』とね。僕には到底納得できなかった。」
「それは何故ですか?」
「周防君が妖怪だということは知っていたし、人付き合いも最低限にしていることもわかっているつもりです。でも、少なくとも僕が見てきた周防君は気遣いができて、困っている人は助けるし、僕の散らかった部屋の片づけも手伝ってくれる、とてもいい生徒です。春日井君と揉め事はあったかもしれないけれど、それがきっかけで人を突き飛ばすような、そんな子じゃないと知っています。」
そこまで言い切ると、紫藤は周防に優しいまなざしを向ける。
朱音は紫藤の言葉を受け止めきれないまま、視線を逸らした。
照れているのか、耳の先がわずかに赤くなっている。
そんな朱音に紫藤は笑みを深めると、「だからこそ、」と言葉を続ける。
「春日井君がまだ目覚めていない状況で、確たる証拠もなく周防君を犯人だと決めつける警察を信用できないと思っています。」
「先生......。」
「成程。ありがとうございます。僕としても、警察の判断は早計だと考えています。実際に周防さんが春日井さんを突き飛ばした所を目撃した人はいません。状況証拠と彼が鬼であるというだけであるならば、真実を見つけましょう。その為に、紫藤先生のお力を貸していただけませんか。」
紫藤の話を聞き終えた玲は手に持っていた紅茶のカップを机に置くと、紫藤に向けて不敵に笑う。
話をきいた限り、警察は朱音以外の関係者を疑ってもいないようだ。
物的証拠は朱音の学生証のみで、あとは朱音が『鬼』であるという理由だけ。
恐らく紫藤は朱音が赤判定であるということまでは知らないのだろうが、警察としては色判定も重視しているに違いない。
そして、もし朱音が『鬼』ではなく、赤判定でもなければ——
ここまで疑われることは、なかったのだろうと玲は考えた。
”種族検査”――10歳になると必ず受けることが法律で義務化されており、妖怪か、人間か。
妖怪であるならばその詳細と、妖怪としての力がどこまで強いのかを血液検査で判定される。
色判定は上から『赤・紫・橙・緑・青』に分けられている。
赤は最上級妖怪。
紫は上位妖怪。
橙は中〜上級妖怪。
緑は微妖怪でほぼ人間と大差ない。
青は人間。
妖怪判定されたものはリスト化されるが、警察などの法的機関のみ確認可能となるが、妖怪か人間かという申告は何をするにも必要となり、学生証や身分証には必ず『種族』という項目で記載される。
色判定で紫・赤判定されると重大犯罪を犯しやすい傾向にあたるとして、ブラックリスト入りとともに、何か事件が起こるとその疑いは彼ら向いてしまう。
本人たちがやっていようがいまいが、色判定が上位であるだけで疑われてしまう。
そんな種族検査を玲は忌み嫌っていた。




