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境界の探偵たち   作者:


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調査-5

研究室の中に足を踏み入れた瞬間、目の前に飛び込んできた光景に玲は思わず一歩、後ずさった。

部屋の中は雑然としており、壁一面に由来も用途も判然としないお面や何かの図、護符のようなものが掛けられており、机の上には古びた文献や開かれたノートや用途の知れない資料が山のように積まれている。

床にも所せましと本や段ボール箱が転がっていて、紫藤という人物の性格が表れているようだった。

ただ、積まれているの本や置かれている箱には一定の規則性もあるようで、不思議と嫌悪感はなく、どこか奇妙な落ち着きを感じさせた。


「あはは、散らかっていて申し訳ない。」


首の裏をかきながら器用に床に転がっている箱や本を避けて部屋の奥に進んでいく紫藤に慣れたようについていく朱音をみて、玲も恐る恐る足を進める。

壁にかけられたお面と目があうような、見られているような、少し居心地の悪い気もするが、慣れてしまえば何てことはないのだろう。

紫藤と朱音はけろっとした様子でお茶の用意をしている。


「えぇっと、確かここら辺にもらいもののお菓子があったと思うんだけ......っわわ!!」


机の上にある資料をバサバサと床に落としたり、積まれている本の山を崩しながら探す紫藤に慣れたように朱音は二次被害にあいそうな本の山を押さえながら、玲に視線を向ける。


「ここ、紅茶か珈琲、あとはほうじ茶しかないけど何飲む?」

「え、あぁ、紅茶がいいかな。」

「おう。そこ座って待ってろ。今度こそ大人しくしててくれよ。」

「はぁい。」

「先生は珈琲でいいですよね。」

「うん。お願いします。」


朱音が指し示したソファに座り、てきぱきと三人分の飲み物の準備をする朱音をちらりとみたあと、未だにごそごそと机の上のものをひっくり返しながら探しものをする紫藤を見る。

紫藤は「あれ、おかしいなぁ。」と首を傾げながらも探し物が見つからないようで、積まれていた本や資料の山が崩壊して悲惨なことになっていた。

うっすらとこの惨状を朱音が片付けることになるんだろうな、と玲は思った。


「あっ!あった!!ありましたよ~!!」


ようやく探し物が見つかったのか、紫藤がそこそこの大きさの箱を掲げ、こちらに近づいてくる。

落としたものを器用に避けて、箱を机の上に置いた。


「最近にフィールドワークに行ったときに現地の人からお土産にってもらったんです。一緒に食べましょう!」


そう言って紫藤が箱をあけると中には有名な老舗和菓子店の栗饅頭や最中が入っていた。

朱音も飲み物を持ってくると、玲の隣に腰を下ろす。

紫藤は二人の向かい側に座り、いそいそと朱音と玲の前にそれぞれひとつずつお菓子を置くと玲の目が輝く。


「ありがとうございます。ここの栗饅頭好きなので嬉しいです。」

「それならたくさん食べてくださいね。もちろん周防くんも。」

「っす。いつもありがとうございます。」


玲がさっそく栗饅頭を開けて舌鼓を打つのを横目に、朱音は紫藤に問いかける。


「そういえば、俺に見せたいものって何だったんですか。」

「あぁ、フィールドワークに行ったときに面白い文献の写しを貰えてね、是非周防君にもみてもらおうと思って!!でも、それはまた今度にしようか。春日井君の事故の件でききたいことがあるんでしょう。」

紫藤が真面目な顔で朱音と玲を見る。

朱音が姿勢を正し、真剣な表情で頷いたのを見て、玲もお菓子を口にしたまま背筋を伸ばした。


「さて、春日井君の件について話す前に、神月さんについて少し話をきかせてもらえるかな。周防君は僕の大切な教え子ですから」

「改めまして、神月探偵事務所の所長をしています。神月玲といいます」


そこまで言い切ると、玲はちらりと朱音をみやる。

朱音は玲の視線を受け、頷くと一度視線を下げた後、紫藤を強いまなざしで見る。


「先生、春日井さんの件で俺、自分が犯人じゃないってことを証明したい。そのために妖怪の中で噂になってた神月探偵事務所依頼したんだ」

「噂......?」

「あぁ、妖怪の困りごとや相談事にも親身になってくれる、そんな噂が妖怪の中では流れてる。実際に妖怪しかみれないサイトにも嘘か本当かわからないことが書かれてあった。」

「妖怪しかみることのできないものがあるとは聞いていたが、本当なんだね。」

「あぁ、どういう原理で妖怪か人間か判断して見れるのかは知らないっすけど。俺は春日井さんを突き飛ばしてなんかいない。けど、警察は俺がやったと決めつけている。先生も事情聴取に立ち会ってくれたんだから知っているだろ。あいつら俺の話なんて聞く耳もたねぇ。あげくの果てに――あいつらのせいで、俺が『鬼』だってことまで先生たちに広まった。だからこいつに......神月に俺が犯人じゃないことを調べてもらおうと思ったんです。」

「周防くん......。」

「先生は俺が鬼だと知っても態度を変えなかった。だから、先生に話を聞こうと思って神月を連れてきました。」


朱音の説明に静かに耳を傾けていた玲が、話の切れ目を見計らって手を挙げる。


「紫藤先生は周防さんと親しいように見えます。職員室にいた他の先生たちと違って、彼が妖怪だから、鬼だから、という偏見もなさそうです。当日のことについて、先生のお考えも含めてお伺いしたい。」


玲の言葉に紫藤は目を伏せると、珈琲を口に含み、乾いた喉を潤した。

そしてひとつ息を吐くと、当日に思いを馳せ、語りだす。


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