調査-4
「それで」
朱音は一度言葉を切ると、少し顔を歪める。
「救急車が病院に向かったすぐ後くらいに先生たちに事情を説明してたら警察がきて......事情聴取されたんだ。」
「話を聞いてる限りでは周防さんが春日井さんを突き飛ばしたとは到底思えないんだけど、警察が第一容疑者だとした理由は?」
玲の質問にすぐには答えず、足早に歩きだす朱音を小走りで追いかける。
「さすがに妖怪だからって理由だけで第一容疑者として疑われてそのままっていうのは考えられないけど......」
「そのまさかだよ。俺が妖怪だってことは警察からしたら立派な容疑者の証拠になるらしい。ただ、確かにそれだけじゃない。」
朱音は足を止めると、玲に向き合い吐き捨てるように告げる。
「俺の学生証が春日井先輩の手に握られていたんだとよ。」
「君の学生証が......?」
玲の大きな瞳が見開かれる。
「あぁ。救急隊が来た時には握られてて救急隊から警察にそのまま渡ったらしい。」
朱音は視線を逸らし、再び歩き出す。
足取りは早く、どこか投げやりだった。
「お前も知っているだろうが、学生証や身分証には当然、妖怪か人間かどうかは記載される。法律できまっているからな。妖怪である俺の学生証なんて、何か事件や問題があった時にその場に落ちてただけでも疑われるだろうな。ましてや、今回は被害者である春日井さんが手に持ってたなんて……どうなるかは分かるだろ」
玲は黙って小走りで朱音の隣に並ぶ。
校舎内は閑散としており、時たま数人とすれ違う程度で開けられた窓から吹く風が二人の髪を揺らす。
「警察が言うには“揉み合いになった際に落とした可能性が高い”んだとよ。妖怪で、少し前にあの人とちょっとしたいざこざもある。向こうからしたら火を見るよりも明らかな状況だろ」
「……」
「だから俺が何を言っても最初から警察は信用してくれないし、俺がやったと決めつけている。あの人を階段から突き落としたのはお前なんだろうって。事故で足を滑らせた可能性や俺以外がいた可能性もあるんじゃないかって言ってくれた先生もいたけど、警察は聞く耳もたなかった」
そこまで言い切ると、朱音は小さく息を吐いた。
自嘲するような笑みがほんの一瞬だけ浮かぶ。
その言葉に玲は足を止め、まっすぐに朱音を見つめる。
「でも、貴方はやってない」
玲の迷いのない言葉に朱音は目を見張るも何も言えず、ただ玲を見つめ返す。
「なんで......」
「わざわざ犯人である貴方が僕たちに依頼してくるなんておかしいし、警察に疑われている理由が妖怪だから?馬鹿にしているにも程がある。誰ですかその阿保警察官は」
呆れたような、少し怒った様子の玲に呆気にとられる。
強張っていた肩の力が抜けて、自然と笑みがこぼれた。
胸の奥で何かが小さく、音を立てて崩れる。




