6.エリザベス、ピンヒールを脱ぐ
「な、なにこれ!! 美味しいじゃない!!」
「だろう? おれ特製のロータスルート挟みだ」
オーガスタと名乗った男性は、エリザベスの止まらない手を見て嬉しそうに笑う。
穴が九つ開いているロータスルートを、オーガスタが育てているらしい。他にもいくつか野菜を育てていて、なんと肉も自分で狩って捌いているという。
調理をしたことがないエリザベスは、家事その他全てのことを一人でやっているオーガスタを尊敬する。
「もう一つもらっても良いかしら」
「一つと言わず、何個でも食え」
ニカッと笑うオーガスタは、山盛りになったロータスルート挟みが乗った皿をエリザベス側に寄せる。
甘辛く味つけされた肉と、シャキシャキのロータスルート。ふわふわのパンも相まって、何度も手が伸びてしまう。
初めは手づかみで食べることを躊躇ったエリザベスも、もう三個目だ。
エリザベスは四個目を食べたところで満腹になってしまった。
しかしオーガスタは、残りの十数個をぺろりと平らげている。服の上から見た感じ、太っているようには見えない。筋肉質の体のどこに入っているのか。
じっと見ていると、指についたらしい甘辛のソースを舐めて拭ったオーガスタと目が合った。
「ん? どうした?」
「いえ……よくお食べになるのね」
「農業は体が資本だからな」
「そうは言っても……」
「おれの事より、エリザベスはこんな所で何をしてるんだ? お貴族さまの視察にしては従者がいないし、凶器のような靴を履いていたよな」
「実は……」
エリザベスは追放された経緯を話した。
「……そりゃあ、エリザベスが悪いな」
「えぇ。今ではそう思っているわ。どうしてあの子のつま先を踏んでしまったのか。いつか会う機会があったら、謝らないと」
「もちろんそれもそうだが。おれが言いたいのは、エリザベスがいくら美人でも、男ってのはほっとかれたら近くの花を愛でたくなるってことだ」
「でも、わたくしは模範的な令嬢としてダンスを完璧に仕上げなければいけなかったのよ」
「まあ、エリザベスにはエリザベスの事情があるだろう。だが本来ダンスってのは、楽しみながらやるもんだろ?」
そう言ったオーガスタは、彼の故郷のダンスを教えてくれた。
なんと、土の上で裸足になって、貴族も庶民も関係なく一緒に踊るらしい。
エリザベスはつま先立ちも難なくできるだろうから、きっとすぐに人気者になるぞ。
そんな風に言いながら白い歯を見せて笑うオーガスタを見て、エリザベスも楽しそうだと思う。
オーガスタと出会った日。
エリザベスは、ピンヒールを脱ぐ決断をした。
その後、オーガスタは隣国の王位継承者と判明した。
お忍びで土地を借りているが、女王は把握していると言う。
もしかしたら、女王からの餞だったのかもしれないとエリザベスは思った。
その裏で、カリナリアが隠しキャラを攻略されたと焦るのは、また別のお話。
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