残念ながら、あなたの行動の結果です
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「ねえ、今日の昼食はあちらの食堂で食べない?」
そう言うのはウェーブのかかった金髪の美女、シーラ・ファッショルブル。
傲慢な瞳に豊満な胸。
男性を虜にするその容姿も相まって、良くも悪くも有名人。
オードブラ学園でも中心人物のシーラは、偉そうな態度で友人たちにそんな提案をしていた。
学園内には二つに食堂があり、それぞれ良さがあって、どちらに行くかは皆が迷うところだ。
シーラの提案に頷く友人たち。
その中にはカエラ・ララーウェルもいた。
カエラは長い黒髪に赤い瞳を持つ、異国の血が混じった女性。
周囲の友人たちはそのことを気にはしていないが、しかしシーラはときおりカエラのことをバカにすることがあった。
今もシーラはカエラを見下すような視線を向けている。
「カエラもあちらでいいでしょ?」
「ええ、構いませんよ」
笑顔で対応するカエラ。
するとシーラはふんと鼻で笑い、そして彼女に言う。
「悪いけど、先に行って席を取っておいてくれない? 私たちもすぐに追いかけるから」
「はい」
シーラの命令のような言葉に、カエラは食堂へと急ぐ。
食堂にはすでに大勢の生徒がおり、皆が座れるテーブルは一つだけ空いていた。
(良かった……席が残ってたわ)
安堵のため息をつき、カエラは席を取る。
すぐにシーラたちが来るはずなので、のんびりとした気分で彼女たちの到着を待った。
「…………」
しかし、待てど暮らせどシーラたちが来る気配は無い。
何かトラブルでもあったのかと心配になるが……どうしたものか。
「君は確か……シーラの」
「あ、ヴァーガス様」
戸惑うカエラに声をかける男性の姿があった。
それはヴァーガス・マケドリア。
肩まで伸びた爽やかな青髪。
暖かさを含んだ碧眼に、人を安心させる笑顔。
背は高く、校内でも彼より身長の高い者は数える程度しかいない。
そしてその整った容姿。
爵位は侯爵であるが、『美形王子』と呼ばれるぐらい、飛びぬけた美しさを誇る。
そんなヴァーガスはシーラの婚約者で、カエラは彼女の友人だから顔は知っていた。
ヴァーガスはカエラの隣の席に座り、彼女が焦っている理由を窺う。
「何を焦っているんだい? えっと……」
「カエラです。実はシーラ様と食事をする約束をしていたのですが、まだ来ないのでどうしたのかなと……」
「シーラが? でも彼女は、向こうの食堂に行ったはずじゃ」
「え?」
ヴァーガスが言った信じれらないような現実に、カエラはポカンとする。
自分が口にしたことに「しまった」とヴァーガスは顔を歪め、だが笑顔を作り直して彼女に言う。
「ああ、すまない。言葉が足りなかった。実はシーラは急用ができたみたいあっちに行ってね。それで私が代わりにここに来たんだ」
「え、そうなのですか?」
「ああ。だから一緒に食事をしよう。私も一人だから暇をしていたところなんだよ」
そう言うヴァーガスであったが、彼の後ろに友人が二人。
カエラに見えないように、手で追い払うような仕草をする。
だが彼の友人たちは親友であり悪友。
面白そうなことに首を突っ込まないわけにはいかない。
「誰が一人だよ。俺も一緒に食べていいよな?」
「クロト様……はい、喜んで」
クロト・ガーラウド。
銀髪に吊り目、やせ型であるが筋肉質の美青年。
校内でも人気の男性で、多くの女性が彼に視線を集中させている。
「では僕もご一緒させてもらおうかな」
「エミル様まで……私なんかと一緒でよろしいのですか?」
「君のことは気になっていてね。こちらからお願いしたいぐらいだ」
エミル・ジューラス。
緑色の髪に柔らかい金色の瞳。
ヴァーガスと同じぐらいの身長で、顔も負けず劣らずの美形。
三人がカエラを取り囲むようにして食事が始まる。
カエラは美形に囲まれ、緊張のあまりに目を回す。
(ああ……学園三大美形が私の周りに……なんでこんなことに!?)
嬉しさよりも困惑が勝り、自分が置かれた状況に戸惑うばかり。
それを面白がってか、横に座るクロトがカエラの耳元で囁く。
「そんな緊張するな。取って食おうってわけじゃないんだからよ」
「は、はい!」
「クロト。カエラ嬢が怖がっているじゃないか。怖がらせるのはほどほどにしときなよ」
「怖がらせてるわけじゃねえよ、エミル」
「どうだか。クロトが怖いなら、素直に言っていいからね」
「だ、大丈夫です。怖くなんてありませんから」
顔を寄せて来くるエミルの美しさに真っ赤になるカエラ。
(ここまでの美形は劇薬! 心臓に悪いわ)
今にも気絶しようなカエラを見て、ヴァーガスは微笑を浮かべて彼女を落ち着かせるように話す。
「緊張しなくても大丈夫。皆いいやつだから」
「はい……分かっています」
「じゃあ食事をしよう。冷めてしまっては勿体ないからね」
三人と会話をしながら食事をするカエラ。
だが残念なことに、会話の内容も食事の味も記憶になく、緊張ばかりしていたことだけを彼女は覚えていた……
それから翌日のこと。
朝から教室で、カエラはシーラに迫られていた。
教室の一番後ろの壁に背をつき、怒りを露わにするシーラを見る。
「えっと……何故怒っているのですか?」
「何故? 少し考えれば分るでしょ」
「申し訳ございません。まったく分からないのですが……」
バンッ! と壁に手をつくシーラ。
その音にカエラは身を縮こませ、教室はシーンと静まり返る。
「昨日、ヴァーガス様と食事をしたでしょう」
「は、はい。シーラ様から頼まれて食堂に来たと仰っていました」
「はぁ!? そんなの、あなたに気を使って言っただけでしょ。真に受けてんじゃないわよ」
眉を吊り上げ、鋭い眼光で睨むシーラ。
カエラは怯え、何も言えなくなってしまう。
ただシーラの怒りを受けるしかなく、恐怖に満ちた目で彼女を見ていた。
だが。
「おーい、カエラ」
「は、はい?」
教室の外から聞こえてくるぶっきらぼうな声。
声の主はクロト。
彼は睨むような視線をシーラに向けている。
「今日も昼、一緒に食うぞ」
「はい……」
「後てめえ」
「は? 私のことですか?」
「そうだよ、てめえだよ。ヴァーガスの婚約者の……名前は忘れたな」
「なっ……」
自分の名前を覚えていないことに憤慨するシーラ。
顔が歪むほどの怒りを見せつつも、だがクロトには何も言えなかった。
クロトの家とヴァーガスの家は古くから深い友好関係にある。
ヴァーガスの家に嫁いだ後、問題になりそうなことは避けねばならない。
そう判断したシーラはすぐに笑顔を作り、クロトに対応した。
「私の名前はシーラと申し――」
「興味ねえよ、てめえの名前なんかな。とにかく、つまんねえことでカエラにちょっかいかけてんじゃねえ。カエラ、後で迎えに来るからな。ここで待ってろ」
クロトはカエラの返事を待たずして、どこかへ立ち去ってしまう。
シーラはクロトに睨まれたことに、カエラに何も言えなくなっていた。
(良かった。クロト様に助けられたこと、後でお礼を言わないと)
カエラは解放され、そして普通に授業を受けることとができた。
安心のままに時間は進み、昼休みが訪れる。
「あの、カエラさん」
「どうかしましたか?」
「実はクロト様が迎えに来られなくなったらしく、別の場所で合流しようと伝言を頼まれまして」
「そうなのですね。ありがとうございます」
昼休みになり、カエラにそう声をかけて来る学生。
彼女は別のクラスの女子らしく、カエラは伝言を聞くと頭を下げた。
そしてカエラは伝えられた場所へと移動する。
そこは校舎の裏で、人通りが無い場所。
焼却炉がある、少し開けた所だ。
(こんなところで待ち合わせなんて、クロト様って変わっているのかしら)
そんな思案をしているカエラであったが……彼女の前に現れたのは、なんとシーラだった。
「シーラ様……?」
「…………」
シーラは無言のまま近くにあったシャベルを手にし、焼却炉の中の灰を掬って勢いよくカエラにかけてしまう。
目を閉じ、煙たさにカエラは何度も咳をする。
煤だらけになってカエラは、足元を震わせながらシーラを見た。
「げほげほ……シーラ様、何を?」
「クロト様に気に入られたのか知らないけど、調子に乗るんじゃないわよ! ヴァーガス様だけに飽き足らず、クロト様にまで色目を使うだなんて」
「そんなつもりはありません!」
「じゃあどういうつもりよ? 色目でも使わない限り、あんたが相手にされるわけないでしょ!?」
「色目を使ったのは、どちらかというと僕らの方の気がするんだけどなぁ」
ギョッとして振り向くシーラ。
彼女の後ろにはエミル。
彼は呆れてため息を吐き、そしてシーラに冷たく言い放つ。
「まさか君がこんな女性だったなんて……父上に話して、援助を中止してもらおうか」
「な……待ってください、そんなことをされたら我が家は!」
「ああ、ついでに君との婚約も破棄させてもらおうよ。君みたいな人と一緒になるのはごめんだからな」
真っ青な顔のシーラにそう宣言したのはヴァーガス。
彼女の行動を一部始終見ていた彼はエミルの隣に立ち、軽蔑のまなざしをシーラに向けている。
「婚約破棄……それに援助までとめられたら、これから私はどうすればよろしいのですか!?」
「そんなことは知らない。自分のやったことの責任は自分で取らないと」
シーラの家系は経済状況が厳しく、エミルの家に援助してもらっている状態だ。
それを止められるということは、ほぼ破産が確定するようなもの。
どうしてもそれは避けたいシーラは、懇願するようにエミルに泣きつく。
「こんな小娘一人のことで、何故そんなことを? 別によろしいじゃありませんか」
「良いお嬢さんじゃないか。僕は気に入ったよ」
「私も気にいった」
「俺もだ」
「っ……クロト様まで」
クロトは教師を連れてこの場に登場し、強気な声でそう言い放つ。
彼が連れて来た教師は黒髪の美青年フィン。
状況はすでにクロトから聞いており、シーラの前に立ち、その瞳には怒りがにじんでいる。
「ファッショルブル嬢……やっていいことと悪いことがある。そんな判別も付かない年齢じゃないだろ、君は」
「は、はい……」
「だが現実としてあってはならないことが起きている。処罰は覚悟しておくように」
「待って……ヴァーガス様、話はまだ終わっておりません!」
「終わったよ。君との関係もね」
冷めた瞳のヴァーガスに、シーラは絶望の表情を浮かべる。
「いや……こんなことで終わるなんて嫌!」
「君は嫌だろうけど、私も嫌なんだよ。君の父上にはちゃんと通達しておくから心配しないでくれ」
「いや……いやぁああああああああああああああああああああああああ!!」
フィンに連れられ去って行くシーラ。
カエラは起こった出来事がまだ飲み込めず、唖然とするばかり。
「可哀想に。大丈夫だったか?」
「は、はい。ありがとうございます」
ヴァーガスにハンカチで顔を拭いてもらうが……全身が煤まみれになっているので、それだけでは追いつかない。
「仕方ねえな。寮まで送ってやる。感謝しろ」
「ああ、僕が送って行くので、クロトは食事をしているといいよ」
「何を言っている。私に任せておけ」
三人はカエラを前にして、火花を散らす。
その状況も理解できず、カエラは苦笑する。
だがそんな三人の様子が面白くなり、カエラは笑い三人に言う。
「ありがとうございます。何から何まで」
その笑顔に心惹かれていた三人。
ときめきを覚えつつ、そして親友たちを睨みつける。
「俺が貰うからな」
「まさか。彼女は僕がいただく」
「ははは。私の伴侶とすることをここで宣言しよう」
「てめえは婚約者と別れたばっかだろ!」
「でももう婚約破棄したし、私は自由だ」
ヴァーガス、クロト、エミルの言い合いの内容を理解できずカエラはそのやりとりを見て笑みを浮かべる。
そしてこの後、三人のカエラの取り合いは激しさを増していき、学園を震わせるほどの奪い合いが起きるのだが……それは少し後の話。
美形三人から求愛されることをまだ知らないカエラは呑気に笑うのみ。
その笑顔に、三人の心を奪うほどの魅力があるとは知らずに……
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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