『騎士団長は幼女に甘い(読み切りの短編連作)シリーズ』はここ♡
騎士団長は幼女に甘い〜あぶない朗読会〜
シリーズですがこのお話だけで読めます。読み切り短編です。
※第一話『お姉様の推しの騎士団長の壁ドンを見に行ってみたの』からお読み頂ければ効果倍増でございます!
↑↑タイトルの上のリンクから行けます^ ^
「ジェラルド騎士団長のどこがいいってやっぱりあのスパダリ感よ!」
「わかるわ! 包容力に満ちあふれていらっしゃるのよねえ〜」
「公爵家の長男という経済力もお有りよ。経済力はスパダリには欠かせないわ」
「頭脳明晰でつねに大人の余裕でいらっしゃるのも素敵よ。そして長い金髪に美しい青い瞳⋯⋯、間違いなく騎士団長はスパダリよ!」
ここはウィンザー侯爵家のとっても居心地がいいリビングルーム。
五人の姉妹たちは刺繍をしながらおしゃべりに夢中だ。
刺繍しているのはピンクや黄色の羽扇。
『ジェラルド騎士団長LOVE♡』などの文字を扇に入れているのだ。
ジェラルド騎士団長は彫像のようにハンサムな男性。
王都の女性たちの憧れのまとで姉妹の『推し』なのだ。
来週の騎士団の出陣式に姉妹は羽扇を持って応援に行く予定になっているのだ。
末っ子のリリアンも可愛いピンクの羽扇の隅っこに小さな子猫の刺繍を頑張って入れていた。
「ねえ、お姉様、スパダリってなあに?」
ごちゃごちゃになった刺繍糸を必死でほどきながらリリアンは聞いた。
心の中では「どうせお姉様たちは教えてくれないわ」とプンプンしている。
姉たちはいつも『あなたには早すぎるわ、まだ六歳じゃないの』と言うからだ。
だけど今日はどうやら違うようだった。
推しの晴れ舞台に行けるとあって姉たちのテンションは異様に高い。ニコニコしながらスパダリの意味を説明してくれた。
「スパダリというのはね、命懸けで女性を守ってくださる強くて逞しくて優しい男性のことよ。ジェラルド騎士団長は女性にお優しいからスパダリなの」
「そうなの? スパダリってすごいのね」
リリアンはちょっと前から騎士団長と知り合いだ。
たしかに騎士団長はとても優しい。
お菓子もくれるし白馬にだって乗せてくれる。
——騎士団長みたいな人を『スパダリ』って褒め方をするのね。
こんど騎士団長に会ったら教えてあげよう、とリリアンは思った。
姉たちは出来上がった羽扇をひらひらさせる。
「さあ、羽扇ができたわ!」
「私もできたわ!」
リリアンの子猫の刺繍もなんとか出来上がった時、姉たちは出かける準備を始めた。
これから朗読会に行くらしい。
朗読会とは紳士淑女の嗜みの一つだ。誰かひとりが声を出して本を読み、それをみんなで聞くのだ。
リリアンはまだ一度も朗読会に呼ばれたことがない。
楽しげに出かける姉たちを見送りながらとってもうらやましく思った。
「私も朗読会をしたいですわ⋯⋯」
ふと頭に浮かんだのは優しい騎士団長のハンサムな顔だ。
「そうだわ! 騎士団長様とふたりで朗読会をしましょう!」
というわけで、リリアンはジェラルド騎士団長のところに行くことにした。
**
「なんの本がいいかしら?」
階段を上って屋敷の二階の図書室へ。
図書室の壁いっぱいに分厚い本がズラーっと並んでいる。
リリアンは文字がやっと読めるようになったばかりなので、こんなに分厚い本はちょっとむりだ。
「もう少し簡単なご本がいいわ」
三番目の姉の寝室で自分にも読めそうな厚みの薄い本を見つけた。
さあ、本の用意ができたら次はおしゃれだ。
お天気がいいのでお気に入りのピンクのお帽子をかぶろう。レースの手袋も淑女にはぜったいに必要だ。
「そういえばお姉様が新しい手袋のプレゼントを婚約者の伯爵様からもらっていたわ」
二番目の姉の寝室にそっと入って新品のレースの手袋を引っ張り出す。ちょっと大きいけれど蝶々やお花の刺繍のすごく可愛い手袋だ。
用意ができたらさあ出発!
いつものようにそーっと屋敷を抜け出した。
本と羽扇を抱えてどんどん王都の道を歩いていく。
騎士団の陣営に着くとなんだかとっても賑やかだった。
門兵が「今日は出陣式前の男性だけのティーパーティなのですよ」とニコニコしながら通してくれる。
大広間には丸いテーブルがいくつも並んでいた。
騎士たちや王都の紳士たちが紅茶を片手に楽しげに語らっている。
リリアンが入っていくとすぐにジェラルド騎士団長が気がついてそばに来た。
今日はいつもと違って長い金色の髪を背中で一つに結んでいた。漆黒の騎士服姿で、広くてたくましい肩には団長の証の金色の勲章をつけている。
笑みをたたえた切れ長の目の奥は美しいブルーの瞳。誰よりもとびきりにハンサムでかっこいい。
「良い日にいらっしゃいましたリリアン様、美味しいケーキがたくさんありますよ」
テーブルの上にはたくさんのケーキが並んでいた。チョコレートケーキに苺のケーキ、それにシードケーキもあった。思わず大きな声を上げてしまう。
「わーっ!」
——まあ、私ったらだめですわ! これじゃあ淑女として失格ですわ!
慌てて威厳を保とうと頑張った。
「ご機嫌いかがですか騎士団長様?」
すまし顔で右手を差し出す。
騎士団長は軽く背を曲げてリリアンの手を取ると、手の甲にそっと唇を触れる紳士の挨拶をしてくれた。
「おかげさまで——。リリアン様はお元気でお過ごしでしたか?」
「はい、とても」
挨拶が終わるとさあケーキだ!!
持ってきた本と羽扇をテーブルに置き、急いで椅子によじ登った。
大きすぎて邪魔なレースの手袋をポイっと投げ捨てる。
騎士団長がお皿に取り分けてくれるのも待ちきれなくてパクパクと食べ出した。
「あ、そうですわ! 今日は騎士団長様が『スパダリ』だってことをお教えしにまいりましたのよ」
「スパダリとはなんでしょうか?」
「女性を命懸けで守る強くて逞しくて優しい男性のことですわ、褒め言葉ですわ」
と言いながら、
——もしかしてまた十年後って言われるのかしら?
と身構えた。
騎士団長はいつもすぐに「それは十年後に」とリリアンに言うのだ。
だけど今回は違った。
「なるほどそれならばわたくしはスパダリかもしれませんね、騎士団の隊長として王都のご令嬢の命を日夜守っておりますから」
「まあ、よかった! また十年後って言われるかもしれないと心配しましたわ」
「十年後? ⋯⋯ああ、なるほど。今回は大丈夫ですよ」
騎士団長が微笑む。
本当によかった。『十年後』と言われるのにはうんざりしているのだ。
ものすごく気分がいいので最高傑作の羽扇の刺繍も見せてあげることにした。
「私が刺繍しましたのよ」
ピンクの羽扇を広げて騎士団長の前にドーンと突き出す。
団長はちょっと考えながら、
「とても可愛い子豚⋯⋯」
と言いかけて、ハッとした表情になって言葉を止めた。
——子豚ですって!?
リリアンの可愛い顔がピクッと強張る。
騎士団長のハンサムな顔もピクッと強張った。
「⋯⋯子豚ではありませんね、これは⋯⋯カバ?」
——カバですって!!!!!
「カバのはずはありませんね⋯⋯、これはつまり⋯⋯、その⋯⋯子⋯⋯犬? ではなくて⋯⋯猫?」
騎士団長が『子猫』とやっと言ってくれたのでリリアンはパッと笑顔になった。
「もちろん、子猫ですのよ!」
騎士団長様ったら目が悪いのかしら?
すぐにわかってくれなかったのがとっても不思議だと思いながらまたケーキを食べ始める。
「⋯⋯間違いなく可愛い子猫ですね。素晴らしい刺繍です、お上手です」
騎士団長が胸ポケットからシルクのハンカチーフを出して額の汗を拭いた。
ちょうどその時だった——。
「お暑いのですか、団長?」
黒い騎士服を着た銀色の髪の騎士がそばに来た。神秘的な紫色の瞳をしている。騎士団長と同じぐらい背が高く、とっても美男子だ。
——誰かしら? とってもきれいな瞳をしていらっしゃるわ。
ケーキを食べる手を止めてじーっと見上げていると、騎士団長が紹介してくれた。
「副団長のロベルトです。こちらはウィンザー侯爵家のリリアン嬢だ」
「はじめまして、リリアン様。ケーキはおいしいですか?」
「はじめまして。ええ、とってもおいしいですわ」
——この人がロベルト副団長様なのね。
ロベルト副団長のことは姉たちの噂話で聞いたことがある。
ジェラルド騎士団長が唯一背中を任せる人物——らしい。
背中を任せるというのはものすごく信頼しているという意味らしい。
たしかに騎士団長と副団長はとても仲がいいようだった。
三人で楽しくおしゃべりしながらケーキを食べていると、ジェラルド騎士団長がテーブルの上の本を示した。
「ところで、この本は?」
「騎士団長のためにお読みしようと思って持ってきましたの。姉たちが朗読会に行ったので⋯⋯。もちろん、ご迷惑でなければですけれど」
「迷惑などとんでもない。リリアン様が朗読会をしてくださったらみんな喜びますよ」
というわけで、リリアンは大広間に集まったたくさんの騎士と紳士たちの前で朗読会をすることになったのだった。
***
ジェラルド騎士団長が椅子の上にクッションを二個置いてくれた。
リリアンはその上にちょこんと座る。
高い位置からみんなを見下ろしながらさあ朗読会のスタートだ!
「それでは読みますわ」
広間に集まった騎士と紳士たちはリリアンのまわりに椅子を集めて座っている。
みんなニコニコとと微笑みながらこっちを見ている。
リリアンはたくさんの人たちの前で朗読できる自分をとても誇らしく思った。
騎士団の出兵前のパーティで役に立てることもすごく嬉しい。
「えっと⋯⋯」
表紙をめくると、最初に作者名が書いてある。
——オリヴィア・ウィンザー?
オリヴィア・ウィンザーは三番目の姉の名前だ。
どうやらこの本を書いたのはリリアンの姉らしい⋯⋯。
——お姉様、いつのまに作家になったのかしら?
首をかしげながらタイトルを見ると『騎士団長と副団長』と書いてあった。
——騎士団のお話なんだわ、この場所にぴったりだわ!
きっとみんな喜んでくれるだろう。
リリアンはウキウキしてきてジェラルド騎士団長とロベルト副団長に向かって小さな手をブンブンと振った。
団長と副団長はハンサムな顔に笑みを浮かべて手を振り返してくれる。
さあいよいよリリアンの人生初の朗読会の始まりだ!
こほん、と可愛い咳払いをして読み始める。
「⋯⋯その夜、騎士団長は寝室の扉を開けながら副団長に言った。『来い。意味はわかっているな』 副団長は黙って頷いた。もちろん意味はわかっている。これからふたりだけの熱い秘密の夜が始ま⋯⋯」
「ストップ!!」
ジェラルド騎士団長がものすごく大きな声で叫んで椅子から立ち上がりこっちへ走って来た。
——騎士団長様、空、飛んだ?
本気でそう思ってびっくりしたほどの速さで来た。
「リリアン様! その本をお読みになってはいけません!」
もしかしてこれっていつもの⋯⋯?
リリアンは嫌な予感を感じた。可愛い顔をしかめる。
騎士団長がリリアンの手から薄い本を取り上げてパラパラとめくって読んだ。そして「まいったな⋯⋯」と呟いてからこう言った。
「十年後にお願いします⋯⋯」
あーあ!
やっぱりね!!
〜終〜
というわけでリリアンが持ってきた本は姉が趣味で書いているBL本(薄い本)でした! 十年後の約束が三つになってしまいました(汗)十年後のふたりも必ず書きます!!(書いた瞬間にこのシリーズが終わるのでもうちょっとだけお付き合いを!⋯⋯すいません)
どう思われたか下の☆☆☆☆☆の評価とブクマへの応援で教えて頂けると次話の参考と反省になってすごく助かって嬉しいです!
お読み頂きありがとうごましました^ ^