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⑧ありえない決断

窓側の席が煩かった。俺は黒板を写すのに必死だったが俊が寄って来た。

「さっきから少なくとも三人からはナンパされてる。行かなくていいのか」

俊の言葉で窓から下を眺めてみたら春香がいた。

「もっと早く言え俊!」

春香なら当然だ。小学生の時からラブレターを破り捨てるのが俺の仕事だった。


授業を放棄して階段を下り校門へ向かい春香と合流できた。

「どっからどう見ても美男と美女のお似合いのカップルだ。運命は残酷だな」俊は小さな声でそういうと自分の席に戻った。

「来るなんて言ってなかっただろ。焦って授業さぼったんだぞ」

「お兄ちゃんに会いに来たなんて一言も言ってないよ。彼氏を待ってたのかも知れないよ。嘘だけど」

嘘と言ってくれて助かった。本当ならそいつを探してとっちめるところだった。

「変わらないね、遙に言い付けちゃうぞ」その心配はない。春香と帰るってメッセージ入れといたから。


「急な用でもメッセージくれると助かる。特に校門前なんて危険だ」シスコン全開で春香に注意を促していた。

「お兄ちゃんがそれじゃ兄離れできないよ。それはお互い様か」恋人がいる身ながら、相変わらず妹LOVEが強すぎて言い返せなかった。

「兄離れ、したいのか春香は」春香は空を見上げながら聞こえないふりをした。

「すまない、俺に恋人がいるんだから春香も恋人を作る権利が確かにあるな」

そういうと春香はにこにこと笑って手を組んで来た。俺が恋人なら心配しないで済む。どうしてそれがダメなのか神を呪った。

「お兄ちゃん、遙の言うこと真に受けちゃダメだよ。お願い」二人で喧嘩でもしたのかと言うとその反対と春香は言った。

「仲良くなり過ぎて遙の言う幸せな未来を信じてみたくなるよ」何のことだかわからなかったが、二人が仲良くなったことは素直に嬉しかった。

「遙呼ばないか。三人のが楽しいだろう」そういうと春香はまた今度ねと言った。


妹として心配することもある。だが今みたく二人きりだと恋人のようにどきどきしてしまう。その美しい横顔は俺をいつも狂わせていた。

「デートしようお兄ちゃん」兄とはデートとは言わないと俺は言った。

「じゃあ今日一日だけ恋人になって。遙と同じように扱われたい」同列の扱いはしているのだが不満なのだろうか。春香の提案を受け入れデートすることにした。

「春香、手を繋ごうか」そういうと嬉しそうに手を握ってきた。

昔と同じだ。小さな俺たちは誰よりも仲良し兄妹だった。

「UFOキャッチャーはもうやめよう。あれは詐欺だ」景品を取るのに5,000円使って俺は落ち込んでいた。遙との生活費が減ってしまった。

それでも春香はものすごく喜んで、何かのアニメのぬいぐるみを抱えていた。二人は近すぎて家の中で会うことが殆どで外出はあまりなかった。


「恋人のキスをして」前に遙の入浴中に初キスをしたが、二回目でもどきどきしていた。人通りの少ない道に春香を連れて行きキスをした。

「恋人だな俺と春香は、間違いない」今日にも訪れるかも知れない別れを思い、いつの間にか涙が流れていた。それを彼女はハンカチで拭いてくれた。

「やっぱり私振られるんだねお兄ちゃん」春香の目からも涙が溢れていた。


「なんでなんだよ畜生!二人とも好き合っててこんなことってあるか。なんで同じ親から生まれたんだ?嫌がらせじゃねえか」

幼い頃から二人が思っていたことを大声で叫んだ。

「だから無理して会わない方がいいって言ったんだよ」誰かと思えば遙がいた。

「両手に華で今から家に帰るからね」遙は俺に二人を引っ張るよう命じた。


家に帰ると遙が風呂の支度をしていた。春香のパンツなら兄の机から見つけたので心配ないよ。そう余計な事を恋人は妹にばらした。

「私と春香が先に入るからお兄ちゃんは待機ね」遙がこの場を仕切っていた。

「ちょっとお兄さん!妹さん大変だから見に来て」何がだ!?と聞きながら急いで風呂の扉を開けると春香がシャワーを浴びていた。 胸やだいじなところが丸見えだった。春香が悲鳴を上げたが構わず凝視したので思いっきり頬を叩かれた。

「遙ちゃんのバカ!見られちゃったじゃん」半泣きで春香が言うので、今まで見せたことないの?と遙が質問したところ小学生まではあると春香は答えた。


「良かったね見れて」まったくその通りなんだが見られた春香が落ち込んでいた。悪いことをした自覚はあり、深々と頭を下げ彼女に謝った。

「これより全然大きいよね」気が付くと遙が何も着ていなかったので慌てて脱衣場に放り込んだ。


「遙ってあんなにバカでエロい女の子だったっけ」春香が訝しんだ。

「最近ああなった。勘違いしてもらっちゃ困るが彼女はまだ処女だ」

遙のお陰でさっきまで兄妹で泣いていたことはすっかり忘れ去った。たぶん遙はわざとやってる。エロくなったのは間違いないが、我々の深刻さを目撃しピエロになってくれているのだ。それと春香との友情もあるだろう。


今度はパジャマで帰ってきたので兄妹でホッとしていた。

「お遊びはおしまい。本題入るね」遙の一言で緊張が走った。

「あなた方は付き合いなさい。私は身を引く」あまりにも突拍子もなく突然だったので俺は反論もできずに固まってしまった。

遙は意志はもの凄く強く固い。言い出してしまったら止めることは不可能だ。だから止めないで解決する方法を教えてくれと俺は懇願した。


「そうだね。一カ月以内に両親と縁を切って、君たちが恋人同士になれたら出て行くのを考えてあげる。他の案は却下する」

執行猶予一カ月だが遙はまだ居てくれる。無理難題を課されたが譲歩を引き出し遙に認めてもらおう。遙と別れるのは絶対に嫌だ。


翌日塾を終え城に行くと有希を除いたメンバーがいた。

「流石に成績やばいから有希は塾行ってるみたいだよ」啓子はそう言った。

ここで教えてあげてもいいんだが、とんでもない課題を遙から与えられ余裕はなかった。遙がどうしてああいう極端な考えに至ったのか知りたかった。

狼狽する俺とは違い、春香は厳しい顔つきに変わった。あの課題のあとは何も喋ってくれなくなり、妹が何を考えているのかわからなかった。


「春香、他校の男子からラブレター来てたけどどうする」真琴がそう言うと遙が飛んできてそれをびりびりに切り裂いた。

二人のハルカが目で何かを確認していたが俺にはわからなかった。

啓子が勉強を教えて欲しいと言うので見てあげた。名門校に受かっただけあって救いようが無いほどではなかった。まずはきっちり暗記に励めと言って激励した。啓子にはキスされたことがあるので近づくと非常に照れる。

「やっぱ、明義さんかっこいい」そのNGワードに二人のハルカは二人を離した。

「おいおい、勉強中だぞ」そういうと春香が来ててきぱきと教えた。

二年生に教わることになった啓子だが、春香の頭の良さに驚いていた。

「前より仲いいね、春香と」遙にそういうとにっこり微笑んだ。

二人でタッグを組んで昨日遙が言った課題に取り組むのか?そしてあれは遙に取っては良い内容ではない。兄妹をくっ付けてどうするつもりなんだ、遙...


執行猶予中だからか、家に帰っても遙との会話は少なかった。随分と仲良くなったつもりだったのに勘違いだったのだろうか。春香と仲が良すぎるから見捨てられたんだろうか。いずれにしろ悲しい気持ちで過ごすようになった。

春香を遊びに来るよう誘っても来てくれなかった。どうしようもないので、俊の家に泊まりに行くことにした。


「同棲彼女より男のがいいとはな」俊らしい切れ味だった。

進学校の学生らしく、ここまでの経緯を隠し立てすることなく俊に話した。意図するところやあわよくば模範回答を出してくれるかも知れない。

「お前、妹を恋人にして更に結婚できるか?遙が言ってるのはそういうことだぞ。それが前提条件で彼女も引き続きお前と付き合う。それしか考えようがないだろうが」

「それ以外ならなんでもできるが結婚は法的にできない。それにだ、春香と付き合ったらいつかSEXする。子供への責任はどうなるんだ?無責任過ぎだ」

「だが遙の求めはそれだ。無理ならどっちも諦めろ」

「諦めるか。妹を諦め恋人も諦める、それしかないならそうする」


翌日は家庭教師と塾があって、遅れて夜に帰宅した。

「おかえりなさい明義さん」遙はいつもの声で返事をした。


「たくさん考えた。だが遙の要求は飲むことが不可能だ。残念ながら」

遙は続きの言葉を待った。

「だからさようなら。愛していたよ、遙」

泣きながら荷物をまとめ遙は出て行った。


追う?追いたいよ。だけど無理難題を持ちかけたのは誰だ。

初めから縁が無かった。だから俺は...

玄関を開けダッシュで追いかけた。遙が出て行くことを考えてなかったから家も知らない。間抜けなことにスマホも忘れた。

駅までもうすぐというところに小さな公園があった。数人の男に囲まれた少女がいた。遙だった。喜々として走り出し男たちに掴みかかった。勉強しかできねえと思ったかくされヤンキーども、すべてに於いてお前らより上なんだよ!そして血まみれの公園に俺は立っていた。


「遙、お前だけ走って家に帰れ」そう言って鍵を渡した。

「間もなく警察が来て俺は捕まる。お前も家に帰される。だから逃げろ!」


部屋に戻った遙は明義が忘れていったスマホを覗き見た。そこには自分と春香の写真がフォルダに分けられきっちり整理されていた。その写真の数に如何に二人とも深く愛されていたのかを知り静かに泣いた。


「お兄ちゃん!」久しぶりに実家に帰ると春香が抱きついてきた。無罪の主張のため両手を上にあげていた。冤罪はごめんだからな。

「春香!お兄ちゃんが困ってるから離れなさい」母に気圧され妹は引いた。

「なんでまた喧嘩なんて...独り暮らしでストレスでも溜まっていたの?幸い喧嘩相手は半ぐれもどきだったからお説教だけで帰れたのよ。何か困ったことがあったら親に頼りなさい。いいわね」

「じゃあお願いを一つきいて欲しいんだけど、春香と付き合っていい?」

ひとり暮らしをさせた意味が全くなかった。そしてがっかりした母親はどこにでも二人でいきなさいと言ってしまった。その言質を取り妹の手を取って二人は走り出した。


「いいか春香、ここからがスタートだ。気を引き締めていくぞ」

「うん、お兄ちゃん。ありがとう、そして格好いいよ」

「ただいま」兄妹で偶然ハモった。

「お帰りなさい」春香まで連れて来ちゃうとは思わず遙は嬉しくて涙が出た。


「この公園で遙が襲われ掛けたんだ。春香もちょっと強いからって危ない場所に近づいちゃダメだぞ。お兄ちゃんだって一緒にいつも居られるわけじゃない。というかその時は変身しちゃっていいぞ。自分でやっつけるんだ」

そういうと二人ともうんうんと納得してくれた。


「女二人連れとはたまげたな。さすがだ明義」俊の家には真琴も遊びにきていた。

「親御さん公認ってなんかいいな。見ていてほっとする」真琴の顔が真っ赤になってて可愛かったので見ていたら、二人の彼女から冷たい視線を浴びた。

「ごめんって、二人とも愛してるから許せ」謝ったので即許された。

「愛してる、なんて言われてみたいな」小声で真琴が言った。

俊は言うタイミングを逃し慌てていた。友の珍しい動揺を見ることができた。

「だがこれからだな。乗り越えるべき壁があまりにも高い。協力はするがやるのは明義だ。武運を祈っているぞ」そういう俊とがっちりと握手をした。




















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