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【53】真・リアルラヴ

遙と真琴に後れを取っていると感じた春香は新しい技を試したかった。兄の明義もそれに全面的に賛成した。

魔法少女たちの夏合宿も終わり、我々は同じ家に皆住んでいた。

積乱雲が怒涛のようにそびえ、夏らしく晴れた日だった。春香と共にいろいろな物の買い物に市場まで行く最中だったが、彼女から問いかけられた。

「私だけ実力が伸びないね。どうしたらいいのかな」

他の子の進捗が良過ぎるだけで春香本人はどこも悪くはない。

ただ素質が膨大にあると見込まれていただけに本人は取り残された気持ちだろう。放って置いたら春香本人がどんどん自信を無くしてしまう。


「次の戦闘で独断専行を許す。遙や真琴に負けないリアルラヴを叩き込め」

明らかに無謀な作戦だが、もし失敗しても他の魔法使いたちがきっとカバーしてくれる。

これで春香が結果を残せないのなら可哀想だがそこまでの実力だったってことだ。トリプル・レールガンを生み出した真琴やレッド・サンビームを持つ遙には遠く及ばない。


「ただいま、有希はもう夕飯の支度をしているの」

春香の問いに彼女は振り返って頷いた。

「お兄ちゃん、みんなに必要な物持って行ってあげて」

当然分かっていたので、デスクライトや辞書等の学習用具を届けに上がった。


有希と春香が夕食の用意をしている間は当然勉強だ。様々なごたごたに巻き込まれ、相当に遅れてしまっていた。自業自得とも言うが。


「あら、勉強しているのね。それじゃお邪魔かしら」

真琴が邪魔なはずはなく休憩がてら机から手を放し彼女に飲み物を渡した。

「冷蔵庫置いてあるのこの部屋だけだから、便利でいいだろう」

彼女はレモンスカッシュを俺はエナジードリンクを飲んだ。


「受験はどうなの?まさか落ちるとか言わないでよ」

真琴なりに迷惑を掛けたことは気にしているのだろう。

「舐めるなよ、普通の人間なら無理だが俺の異常記憶力を。大丈夫だ」

真琴の横に座り頭を撫でてあげた。

この子は俊を振って俺に乗り換えたという負い目がある。だからこそ心配を掛けたくはなかった。それにここからでも捲れると俺は信じていた。


真琴と小さなキスを数回重ねた後で彼女は部屋を出て行った。

また机の前でガリ勉をはじめようと考えていたら、心がざわついているのを感じた。静学館第一位で元生徒会長の俊。こんな形で友達ではなくなるとは考えていなかった。もちろん挨拶はきちんとしてくるしこっちからもする。だけどもう昔の関係には戻れない。


「ご飯だよ、明義」

遙に呼ばれ一階の食堂に急いだ。

「今日も勢力たっぷりの焼き肉丼です、それはそうと隣お邪魔しますね」

有希が夕食時隣のことは滅多になかった気がする。

「女はそもそも男を独占し束縛したい生き物です。だとしたらあなたを縛れない私たちは何なのでしょうか。答えは要りません、独り言です」

食事の際には相応しくないセリフを有希が語った。


有希は3番目の彼女ということに常々引け目を感じていた。

ぶっちゃけてしまえば有希に限らずここにいる全員がこの家を捨て、自分だけを愛してくれる男を探した方が幸せになれる気がする。

「たぶん違うことを考えていらっしゃるようなのでちゃんと説明いたします。束縛をお互いにして嫉妬と憎悪を抱える、ということがこの家ではほぼないということです」


有希の考え方は分かった。確かにハーレム屋敷で嫉妬する要素は薄い。

遙は一番の称号は欲しがったが他の女の子たちに嫉妬はしていなかった。彼女が望み始まったハーレム生活だ。しかし本当は俺と普通の恋人でいたかった彼女は苦しんだ。

「夜食時にまたお会いしましょう。ごちそうさまでした」

そう言って食器をキッチンに置き有希は自室に帰ってしまった。


有希の意見はしっかり聞いたし噛みしめた。ただ今は勉強が最優先だ。

風呂の順番は最後だから午後11時半ごろ一人で入ればいい。それまでは脳死で勉強だ。目の前にあるやるべきことをこなす。これが最低限やらなきゃいけないことだ。

5時間近く無心で勉強できた。みんなも気を遣ってこの部屋にあまり近づかないようにしてくれてるようだ。少し休んでと思ったところで有希が夜食を持って来た。

「有希は俺を独占して束縛したかったんだな」

「はい、だから毎日こうしてお夜食をお持ちしています」

立ったままの彼女を強くだきしめてキスをした。

「俺もそれが良かった。出来ることなら誰か一人を連れて逃げ出したい」

有希はその言葉を聞くと悲しさと悔しさが混ざったような顔をして部屋を出て行った。


その後2時間勉強をして就寝した。

翌朝学校にはめずらしく一人で徒歩で向かった。有希と啓子が変身して送ると言ってくれたが、一人で通うのが普通なんだ。

「お前のところは順調にやってるか?」

珍しく俊が声を掛けてきたが小さく首を振って返事はしなかった。

昼食を一人で食べて座ったまま昼寝をしていると知らない女子から話しかけられた。

「疲れてそうだね、あ、私は橿原恵ね。特進クラスは初めてなの」

うちの5人に比べると地味だが、整った顔立ちの女の子だった。眼鏡がよく似合う。


まだ時間があったので誘われるまま屋上に二人で向かった。

山根くんは毎日魔法少女たちが迎えに来てるね。彼女たちと付き合っているの?

「付き合ってはいない。面倒をみてくれと頼まれ一緒に住んではいる」

無難な答えしか返せない。異常な関係を築いてしまったことくらい自覚している。

「そうなんだ。みんな彼女たちは山根君の恋人か愛人だって噂してたから」

「そう見えても仕方がない。彼女たちとはずっと一緒なんだから」


当たり前の返事しかできない。それほど俺がやっていることは異常だからだ。

この日は春香が迎えに来る予定だ。どうせ窓際に人だかりができる。


「ん?お兄ちゃん」

「ああ、出たようだな。相手によっては一撃をぶっ放せ、お前の力を見せてくれ」

春香はパープル・スターに変身して空に向かって飛び出した。

遙の摩眼があれば敵を捕捉するのは容易いがあれは彼女だけのものだ。

やがて他のメンバーも駆け付け周囲の様子を探った。

「あれね、ミリオンカッター!」

一番先に見つけたブルー・オリオンが無数の刃を敵に向けて放った。


「手ごたえは多少あった。けれどかなり硬いようね」

ブルーはミリオンカッターからコスモ・ソードに装備を変えていた。

「危ない!ビーム攻撃よ」

敵が放つ前に遙はシールドを張ってみんなを守った。

「動きは遅いようです。ならコスモ・ソードで行ける」

有希が必殺の槍を繰り出したがパープルがそれを制止した。


「貫いて『真・リアルラヴ!』」

パープルが放った7色の光線は一直線に敵に向かっていき、その灼熱で敵を溶かした。

「最大出力よ、燃えて!」

真リアルラヴをさらに太い光に変え敵を焼き尽くした。

念のためピンク・プレアデスとブルーが敵の残骸を確認しに行くと敵は完全に溶けていた。

これまでのリアルラヴより遥かに強い光線が固い敵を一蹴した。


殊勲の春香がみなに祝福されて基地に入って来た。そして兄妹として彼女にハグをした。

「先ずはお風呂入っておいでここの使っていいから」

そうなのだ。5人を彼女にした俺がいても問題はない。覗きにならないのだ。

もちろんいつでも見れるものをわざわざここで見る必要はない。

持って来た参考書をなんとなく眺め彼女たちが出てくるのを待った。


基地から家までは近い。変身せずに歩いて向かった。

「春香強かったな。最初から自信があったのか」

「自信というか、できるかなぁっていう感じがあった。上手く行って良かった」

魔法少女になってから、というより恋人になってから春香は戸惑っていた。その枷が彼女の力を鈍らせていたのならやっとふっきれたのだろうか。


「有希も疲れてるだろうから今夜はカップ麵にしよう」

在庫は相当数確保してあったのでみんなには好きな物を選んでもらった。


「お夜食お持ちしました」

いつもの有希の夜食差し入れだった。

「昨日のお前の言葉よく考えた。だからちゃんと検討するよ」

「あっ」

有希の目から涙がぽろぽろ零れ落ちた。

「お前を選ぶ可能性だって大きい。ただもうこの家族維持は無理だと思ったんだ」

涙を指で拭いながら彼女にそう言った。

深夜二時半、ベッドに入り深呼吸をして考えた。

普通に考えたら遙だがあいつはこの家族崩壊に猛烈に反対しそうだ。春香は実妹ということに負い目が有り過ぎる。だから有希、お前の可能性が高いんだ...


有希、途中まで一緒に行こう。変身はなしで。

登校に有希を誘ったのは初めてかもしれない。有希は落ち着かない様子だ。

「話題が少なくてすいません。ちょっと変な子ですよ私は」

「好きな本の話しでもいいよ。なんなら何も喋らなくてもいい」

気持ちは大きく有希に傾いていた。だから隣にいてくれるだけで十分なんだ。

「うちの学校の始業まで時間があります。だから静学館前まで一緒に行きたいです」

その気持ちを反故にする理由は何もなかったので一緒に正門前まで行った。


「有希と一緒の登校というのは初めてみたぞ。何かあったのか?」

俊はちゃんと見ていた。それなら崩壊するハーレム家庭も見届けてくれ。

「真琴を取り返すチャンスが来るかもな。それは逃さない方がいい」

俊は俺が嘘を言わないことをよく知っている。緊張感が彼に走っていた。

あの家族を請わせるかどうかはわからない。しかし我慢して維持させてきたのは疑いようがない。放棄すると言ったらパニックになるだろう。


「お前壊す気なのか、あの家庭を。たいそう歪ではあったが幸せに見えたぞ」

「幸せだよ今でも。ただ長持ちはしないと分かってるのなら破壊する」

俊は黙った。何も言えないのだ、あの家で男一人で暮すということを。

「お前は誰か一人を選んで逃げる。そしてそれは真琴じゃないんだな」

誰にするかはこれから決めると言って立ち去った。


大きな岐路だった。幸せな家庭を壊すということは。だが殺されても俺はやり遂げるつもり、そこまで覚悟ができていた。あの大家族の発端を作った遙以外の誰かを選ぶ。これだけは決めていた。そして考えを変えるとつもりはまったくなかった。






























































有希の独占し束縛したいという言葉に明義も同意した。誰か一人を選び家庭を壊す。その決心はもう出来ていた。

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