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【50】雨の日

魔界に雨季が来た。明義はA判定に復帰したが真琴のことが忘れられない。そして魔法少女たちは強くなろうとしていた。

六月になり模試の結果が出た。久しぶりにA判定に復帰して、残り半年と少し頑張ればいいだけだった。彼女たちとの時間は減るが、長い目で考えたら重要なことだった。啓子を除き残りの二人は中学三年生だが、中高一貫なので受験を気にする必要はなかった。


「今日の夜食は牡蠣ステーキです」

有希はまだ子作りに拘っていた。

「ちょっと待ってくれ有希。お前の希望通り妊娠して出産したとしても、お前はその頃まだ高校一年生だ。高校生の出産とか良いことじゃないぞ」

「心配ありませんよ。学校は辞めますから」

彼女たちは魔法少女引退後に三億円程度もらえる、しかも非課税だ。

それを考えたらその後は子育てだけに集中できる。共稼ぎも必要ない完全な専業主婦になれるのだ。それだけでなく旦那を養うことも余裕だった。


「有希には他にやりたいこととかないのか?あるなら学校は出た方がいい」

「あったとしても学歴が不要なことをします。アニメの脚本とか」

確かにアニメの脚本家の学歴は低い。でも中卒ではダメだろう。


話しが噛み合わないので放置して勉強をしたが、T大に受かったとしても俺に頼らなくていい彼女たちに複雑な気持ちになった。


有希は眠くなり、俺の布団で寝ていた。今の全身に精子が循環している状況なら彼女の夢を叶えてあげられる気がした。欲情して一緒に布団に入って肩を揺さぶったが、彼女は起きてくれなかった。仕方がないのでまた勉強に戻った。


学校に行くと俊と嫌でも顔を合わせるが、何か言いたそうな彼を完全に無視した。まだ真琴を諦めていないからだ。

二人の関係性は壊れてしまったがこれでいい。友情復活とかどうでもいい。


「真琴を俊に返したことは称賛に値するよ。これからも彼女を減らすといいよ」

誠二が嬉しそうに話し掛けて来たが、啓子は返さないと言った。

「それでもいいよ。俺はもう啓子を追っていない」

あからさまな嘘だった。隙を見て啓子を奪って行く気満々に見えた。


「カリスト星に修行に行きます。暴走だろうと強くなりたいの」

春香の発言に言葉を失った。もうあの星には行って欲しくなかった。

「たぶんスペースボールは協力してくれるぞ、魔物退治に。無理することはない。そう言っても春香は発言を取り消さない。遙だけではなく彼女たち全員が戦闘民族だと言うことを思い知った。啓子を除き」


「遙と有希が防寒着でスペースボールに交渉に行っていた。彼らも通常より遥かに強い魔法少女に関心を向けるようになっていた」

「来週みんなでカリストに行きます。明義さんの同行も認めさせたので行きますか?無茶はあなたが止めてくれればいい」

有希の報告で俺もあの星に行くことになった。


「食料は円盤の方々からいただけます。思い切り暴走しましょう」

不穏なことしか言わない有希のことが不安だった。

これなら母親になってもらった方がましだ。全身蒼い焔で纏ったブルー・オリオンはあの日を連想させて怖かった。自我を失っても尚俺を求めてくれた彼女のことだ。


暴走した他の魔法少女たちをレッド・ペガススはヒールしていた。その瞬間、彼女たちは正気に戻った。

「行きます、『サテライド・ソード!!』」

威力が上がった暴走ブルーの攻撃を、レッドは軽々と受け止めヒールした。

「これならどう?『リアルラブ・ジュピター!!』」

パープル・スターの攻撃もレッドが簡単に捌いた。


啓子だけは特訓に参加しなかった。彼女は引退が近いからだ。

「いい訓練が出来ています。しっかり食事をしてお風呂に入りましょう」

遙が上手くコントロールしていたのでわりと危険はなかった。


スペースボールが取ってくれた宿はかなり良かった。大浴場があり、部屋にも風呂が付いていた。ラウンジはゆったり出来たし食事も美味しかった。

「啓子、春香と有希は凄いな。もうかなり強いのにまだ強くなりたいと特訓している。啓子くらいでいいと思うのだが」

啓子と珈琲を飲みながらラウンジで雑談していた。

「みんな凄いよね、私には付いて行けない。真琴は遙への対抗心が凄かったな」


そこまで言って啓子は後悔した。真琴の話題はまだ禁句だからだ。

「そこまで気にしなくていいよ。だいぶ慣れて来たから」

慣れるどころか彼女がいた頃の想い出はどんどん増大していた。だが啓子にそれをぶつけても仕方がない。時間が経つのを待とう。


ここに参加している真琴のことを想像していた。ブリザード・レールガンももっと強くなり彼女の目標に近づいたかも知れない。だが真琴のことばかり気にしている場合でもない。残った子たちを大事にしなくてはいけないのだから。


「牡蠣が恋しくなりませんか?市場で買ってきましょうか」

せっかく牡蠣地獄から解放されたのに冗談では無かった。ここでは牛をたらふく食べるのだ。地球に帰ったらどうせまた牡蠣なのだから...

「そんなに子供欲しいなら生でやる?」

失言だったが願望でもあった。


ベッドに入って有希の服を脱がせた。旅での解放感からめちゃくちゃにやってみたかった。だが大問題が起こった。アレがぴくりとも反応しないのだ。

「有希、ちょっと待って。おかしいんだ、反応しないなんて」

「無神経でした。明義さんの心の問題を考えるべきでしたね」

心因性の勃起不全。大人しく服を着て断念した。


カリスト星での魔法少女たちの特訓は見ないことにした。どうしてもポルックス・イエローの姿をそこに探してしまうからだ。俊に返したことは取り返しが付かなかった。


「私も特訓やるね。どうしようもなかったら明義さんが止めて」

啓子の依頼なら受けなくてはならない。そして暴走ならたぶん止められる。

謎の液体が入った注射を、彼女の腕に刺した。痛みには強いのか簡単に出来た。後は暴走するのを待つまでだ。

紅い焔がピンク・プレアデスを包み込んだ。とてつもないオーラだ。そして彼女は剣を抜いた。これまでと違い炎を纏っていた。


「俺に撃ち込んでいいよ。死なないから」

暴走したピンクは躊躇なく魔物になった俺に突進して来た。大剣を振るわれたらシールドは持たないだろう。でもそれでもいいのだ。

『アイリス・ソード!!』

啓子の新しい必殺技は、俺を真っ二つに切り裂いた。


「明義さん?誰か助けて!」

正気に戻った啓子は叫んだ、「大丈夫だ。再生までぐろいけど待ってて」

俊と同じように俺は再生した。


「魔法少女は人間を殺せないんだよ。だからどういう形であれ俺は助かる。だから啓子の攻撃受けたんだ」

俊の不自然な復活を見てそれは確信できた。人間の味方である彼女たちは、人を傷つける兵器にはなれないのだ。

「最初からそう言ってよ。死ぬほど驚いたんだよ」

そう言って彼女は強く抱きしめてキスしてくれた。


説明しなかったのは悪かったと思う。ただ確かめてみたかったのだ。人間界での戦闘において今までの死者は0人だった。あれだけ暴れているのに不自然なのだ。


カリオスでの特訓は実りあるものとなった。そして円盤に乗り込み帰路に着いた。

「ゆっくり飛んでもらうと景色があるね。小惑星群が素敵」

春香は外を眺めていた。次の火星にもわくわくしていた。

「申し訳ないが火星は通過するよ。流石に早く帰りたい」

受験生なのでのんびりはしてられないのだ。またいつか春香と来よう。



六月も中旬を過ぎ、魔界にも雨季が来た。梅雨ではないのだが時期的にそう言って差し支えなかった。そして雨の魔界は静かだった。

週末は月一回の定例会議だったのだが、俺は欠席した。真琴と俊が来るからだ。彼女の不在に慣れるまでにはまだまだ時間が掛かるようだった。


「ただいま。雨が降ってるから変身しちゃった」

レッド・ペガスス姿で遙がそう言った。徒歩15分程度なのでいかがなものかと思った。たぶん変身したいお年頃なのだろう。

「スーツが濡れてるからお風呂入っておいで、俺はもう済ませた」

子供らしく彼女たちは走って風呂場に向かった。


「明義さんには言えないけど、真琴と俊さん仲良さそうだったね」

啓子の言葉に春香は頷いた。

「本当はどうなんだろう。帰って行く時泣いているように見えたよ、真琴が」

「強引に俊さんを振って家出したんだから苦しかったと思うよ。だけど今上手く行ってるのなら、明義さんが連れ帰ることは出来ないね」

啓子の言葉を聞いても春香は腑に落ちなかった。

なので湯船を出てシャワーを浴びて先に出た。


遙たちが風呂に行ってしばらくすると真琴と俊が訪ねて来た。が、俺は追い返した。復縁順調報告なんて要らないんだ。早く記憶から去って欲しかった。


「会ってあげないと真琴ちゃんが辛いんじゃないかな」

そんなことは分かっている。ただ今はまだ見たくない。それに、多重交際推進派だった遙から言われることは癪だった。以前なら取り返せって言ってただろうに。

「記憶、心の傷は時間が要るんだ。でも今回はヒールは要らない」

きちんとその傷と向き合っていたいんだ。喪失感という傷と。


「魔の木?あれは雑魚魔物なのに何故今更出てくるんだ?」

「雑魚じゃないよ。誰かがカリストから持って来て異常繁殖しちゃったみたい」

レッド・ペガススと音声だけで交信した。

「あんなの私が倒してあげるわ、喰らいなさい!」

ポルックス・イエローの声がしたので即座に交信も切った。


責任はスペースボールにもあったので、彼は銃口を魔の木に向けた。だが特訓の成果を試したい魔法少女たちは援護を拒んで臨戦態勢に入った。


「行きます、『リアルラブ・ジュピター!!』」

出力を増したパープル・スターの攻撃だったが分厚いシールドに阻まれた。

「叩きます、『サテライド・ソード!!』」

ブルー・オリオンは特攻したがやはりシールドに少ししか傷が付かない。


「無理な感じ?じゃあレッドがやっちゃうね」

仲間の戦闘を見ていたレッドだったが、苦戦しているのを見て言った。

「私に任せなさい!『ブリザード・レールガン!!』」

ポルックス・イエローが放った電撃は過去最強だった。

敵のシールドを難なく破り敵の幹を真っ二つにして、新魔の木は火炎に包まれ消失した。仲間は驚愕してその光景を見た。イエローはこんなに強くはなかった。彼女の突然の覚醒に言葉を失っていた、レッド以外は。


「帰ろう。お腹が空いたよ」

レッドの一言でみんなも戦闘を止め帰路に着いた。


全員帰還したので戦闘の詳細は聞かなかった。勝てばそれでいい。

魔界の雨音を聞きながら、部屋で黙々と勉強を続けた。真琴喪失の逃げ道が受験勉強と言うのもアレだが、集中できるものならなんでも良かった。

大音量で音楽を聴いた。

Sum41とか軽いアメリカンロックだ。真剣になって聞く必要が無いので楽だ。


「まだまだダメだったよお兄ちゃん、軽く攻撃弾かれちゃった」

湯上りの春香が訪ねて来た。

「遙相手に特訓すればいいだろ?たぶんそれが強くなる一番の近道だ」

「味方に攻撃を向けるのはちょっと...」

妹の意見は正論だ。だが遙の力は桁違いなので問題ない。


「そんなことよりせっかく来てくれたんだ。冷蔵庫にあるコーラあげるよ」

春香は笑顔で頷いた。そして覚醒した真琴が倒したことは伏せた。

「今の世代の魔法少女たちだけで殲滅しなくてもいいんじゃないかな、魔物を。啓子は来年引退する。数年後にはみんなもやめることになるんだし」

少女じゃ無くなってまで戦う必要はないのだ。無理して欲しくはない。


「あと数年か。すぐ終わっちゃうんだね」

その通り。少女時代は短いのだ。

「今更聞くのを許してくれ。本当に俺でいいのか?もっと違う未来が春香にはある気がするんだ。兄に拘る必要は無い」

最大出力ビンタを俺は喰らった。そして泣きながら春香は出て行った。


「何してるのです?追って下さい」

有希に言われ急いで春香の部屋に行ったがドアは鍵が掛かっていた。

「魔力で壊します。後で直してください」

彼女は変身して手套でドアノブを破壊した。


「ごめんな。言っていいことと悪いことの区別が付かなくなっている。真琴を皮切りにみんな出て行ってしまうんじゃないかと不安なんだ。お前に当たって済まなかった」

「いいよ。真琴のことで苦しんでいるの知ってるのに泣いちゃってごめんなさい。でも私はもう決めてるから。決して逃げたりしない」

大きくなった妹を抱きしめた。この子はずっと俺だけなんだ。


「敵を倒したのはたぶん真琴なんだろう?お前がダメなら彼女しかいない、遙は手を出さないだろうし。強くなったのが俊の元に帰ったことが原因だとしたら、もう俺は真琴を追わない。それが一番いいんだ」

決めつけている兄の弱さに憤ったが、彼女が強くなったのは確かだった。


自室に帰りしばらくベッドから天井を眺めていた。

キッチンの真琴の椅子は元に戻した。一人足りない喪失感を忘れないためだ。いや、いつでも受け入れると言う意味だ、本当は。だが女の子は決闘で奪うものではない。口説こうにもメッセージは拒否られている。どうしていいかわからないんだ。


「お悩みだね、明義」

隣室に居ながら滅多に来ない遙が来た。

「分かってると思うけど真琴ちゃんが凄かったんだ。とても強くなった」

「らしいな。俊のお陰だ。俺は役立たずだった」

自虐が最近の癖になっていた。


「本当はお前だけ居てくれればそれで良かったんだ。いつの間にか贅沢に浸っていた。もうすぐ立ち直るから待っててくれ」

小さな唇の感触があった。嬉しくてこちらからも唇を付き出した。

「無理して立ち直らなくてもいいよ。真琴ちゃんは必ず帰ってくる」

皆が言おうとして言えない禁句だ。だが遙だけには許される気がした。


「こんな時間にお客さんだね、明義行って」

俺も気が付いていた。微弱な敵性反応があるが、客人は丁寧にノックしていた。


「俊、またその格好か。解除しないと話にならないだろう」

魔物化した俊が深夜に訪ねて来たが、人間に戻ってもらった。

外は雨なのでバスタオルを渡し、暖かいココアを淹れてあげた。

「すまんな明義、お前にはもう関係ないかも知れないが、真琴が心を開いてくれない。不甲斐なさ、やるせなさで押しつぶされそうなんだ」


「・・・」

相談に乗ってあげる義理はないので無視した。

滅茶苦茶な方法で連れ戻したんだ。どうにかする責任は俊、お前にあるんだよ。できないなら今すぐここに返してくれ。


「お前がもう二度と付き合わないと言えば真琴は諦めてくれる。この通りだ」

俊は額を床に当て土下座をして頼み込んだ。

「無茶の上塗りで恥ずかしいを通り越してるよ。帰りな、俊さん」

盗み聞きしていた啓子が彼を突き放した。


話しを聞いてくれてありがとうと彼は言い、丁寧に挨拶して帰って行った。


苦しんでいるのは俺だけじゃなかった。連れ戻した俊も大きな傷を負っていた。

「いい人なんだけどね。真琴は最初から明義さんしか見てなかったからね。そういう意味じゃ彼も被害者なんだけどさ」

「俊が苦しんでいると言うことは、真琴はもっと辛いんじゃないか?」

「そうかもね。でも軽々しく行ったり来たりできるものではないでしょう」


真琴には拒否されてたはずだが、メッセージを送ることが出来た。


『帰って来い』

一言だけ書いて送信した。





























真琴は覚醒した。だが俊と明義はそれぞれ苦しんでいた。もっと苦しんでいるだろう真琴に帰ってこいとメッセージを明義は送った。

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