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【49】喪失

真琴との仲も順調な明義。だが最大のピンチが訪れる。現れた人型魔物、それは不吉の前兆だった。

「明義さん、これってどうなのかしら」

真琴がスマホに届いた俊からの大量の恋文メッセージを見せてくれた。

これはダメだ。愛を伝えるどころか完全なストーキング行為だ。ヘタレは治りつつあるのかも知れないが、根本的に間違っていた。


「俊を拒否リストに入れていいよ。本人には俺が注意しておく」

真琴と距離を遠ざけたかった。

だが、真琴を寝取った罪悪感はちゃんとまだある。そしてきっとそれは俺に飛び込んだ真琴にもある。そろそろ決着を付ける時期だった。


「真琴は後悔していないんだよな、俊を振って俺にしたことに。俺もこれで良かったとちゃんと思っている。いい加減な気持ちで婚姻届けを出したんじゃない」

「当たり前でしょ。もちろん俊には悪いと思っているわ。でもしょうがないの」

二人の気持ちがほぼ一致していて良かった。これで堂々としていられる。


スペースボールは頻繁に魔界の我が家上空に来ていた。その度にゴーレムを鍛えるとか要件を残していった。有希にサングラスを掛けさせ、防寒具で身を包ませて彼らの元に行かせ情報をもらった。それくらい彼らは女性慣れしていなかった。

彼らがやろうとしていることの理由が段々分かって来た。カリスト星には敵性魔物はほぼいない。だが地球に作ったレプリカでは大量に発生してしまった。環境に対応できなかった魔物が暴走したからだという。その責任を取りに来ていたのだ。


「円盤は馬鹿だったのね」

真琴は一刀両断した。確かに間抜けだった。

「それはそうと彼らの母星には言ってみたいわね。光速どころではない移動が出来るんでしょ?興味あるわ」

真琴は好奇心を持っているようだが、俺は嫌だった。

NTRの可能性は極力減らしたいからだ。自分が外道だから他人もそうだと思ってしまう。自分勝手だがこれで押し通して生きるしかないのだ。


「物理法則とは...」

物理の勉強をしていたが、スペースボールを見てそれを軽々と超えるものを目撃していた。だから勉強は趣味であって学問ではないと決めつけた。

「お夜食なのよ」

今日は何故か有希の代わりに真琴がおにぎりを持って来てくれた。


「毎日会ってあげられなくてごめんな。来てくれると助かる」

「大所帯なのは分かってるわよ。押しかけたのだから我慢もするわ」

我慢させていることに胸が痛んだ。これは皆にも言えるのだ。

真琴はそのまま最近手に入れた大きなソファに寝転んだ。有希と違って本を読む訳ではないので暇そうだった。


「TV付けていいよ。魔界TV」

そう言ったが勉強の妨げになるからダメだと彼女は答えた。

何もせずに足をパタパタしている方が実は妨げになる。可愛くて押し倒したい気持ちになるのだ。本人には言わないが。

「自分の勉強に疲れたから真琴をみてやるよ。教材持って来て」

そういうと嬉しそうに部屋にそれを取りに行ったが、この子は俊にも勉強を見てもらっていたのだと思い出すと、複雑な気持ちになる。


「流石ね、良く分かるからためになるわ」

ここで何人も見てあげてるから俊より教えるのは上手いかも知れない。

その後は二人並んで自分の勉強をした。意識はするがそれ以上に受験勉強に集中した。三年生になり本当の受験生だからだ。


「午前二時だ。真琴はそろそろ寝なさい」

そういうと自分の部屋には帰らず俺のベッドに潜り込んだ。

「俺は午前四時までやるからね。ちゃんと寝てくれ」

そう言うまでもなく寝息を立てて真琴はすぐに眠った。無理をしていたようだ。


集中力を少し欠いていたので、春香の部屋に向かうとまだ明かりが点いていた。

「何してるんだ?そろそろ寝ないと」

「お兄ちゃん?来てくれるの珍しいね」

妹だから甘えて後回しにしていたかも知れない。それは反省した。

「真琴が来てたんだが寝ちゃったんだ。勉強もちょっと飽きたんで来てみた」

ふぅんと言う顔をして妹は俺を見た。


「正直飽きられちゃったと思って悲しかったんだ。ありがとうね」

ここでも巡回不足を痛感させられた。

だがこれが限界でもあった。遙ですらそんなに会っていないんだ。無茶な生活で彼女たちに負担を強いていた。


春香の部屋を出て自室に戻ると真琴が起きていた。

「眠れなかったか?それじゃココアでも淹れてくるよ」

そう言ったが負担になるので自分が行くと言う。

その言葉に甘えて彼女に行ってもらった、「珈琲淹れて来ちゃった。眠れなくなるから他の飲み物と変えた方かいいかしら」

まだ起きてるからそれでいいと言った。


「皆に迷惑掛けてるな。一緒に暮らしてるのになかなか会ってあげられない」

「その方が楽な場合もあるでしょう?気にしちゃダメよ」

真琴のその優しさにしばらく甘えてみることにした。


「お風呂の時間が空いてますね。その時間をみんなに充てるべきです」

有希の提案は大変魅力的だったが、以前のように湯船を白濁液で汚す可能性がある。悩んだ末それはたまにと答えた。が、却下されてしまった。


「え、私と一緒に入りたいの?別にいいわよ」

了解を得たので、皆が風呂に入った最後に一緒に行くことにした。

「今夜は真琴が懐妊するよう、牡蠣の量を増やして置きました」

一緒に風呂に入っただけでは妊娠しない。有希は何か暴走気味だ。


「垂直に立ってるけど気にしないでね。最後とは言え湯船に出すのはまずいから」

本当は真琴で出したい。けれど彼女に手コキをさせるのに抵抗があった。

「分かったわ。じゃあ寝る前に会いましょう、私を抱きなさい」

直接の依頼だ。これは断る訳にはいかない。


勉強は約束した深夜零時まで集中してすることにした。

真琴を抱くことに浮かれてはいたが、勉強はむしろいつもより捗った。

有希は何も言わずに生牡蠣を置いていった。妊娠に拘り過ぎだ。

「ごめんね、敵が来ちゃったわね」

まさに行為寸前に敵が現れた。これほど魔物を憎んだことは無い。


現れた敵は東京タワーの上に立っていた。

実際には空中に浮かんでいたのだが、屹立しているように見えた。そして外見は人間に酷似しているというより人間そのものに見えた。


「手を出していいか迷う相手だね。シールドの中にみんな入って」

レッド・ペガススはどうしていいか迷った。

明らかに敵性反応を見せていたが、人間なら殺す訳にはいかない。人間が魔物化するという話は聞いたことがないが、ないとも聞いてはいない。


敵はシールドを張ってそのままレッドのシールドに向かって来た。そしてそのまま彼女のシールドに浸食しようとしていたが、それは余りにも堅牢な檻なので崩すことが出来ない。手で殴ってもびくともしないので彼は引いた。


「人間が火を吐いたりしないだろう。だから攻撃魔力は持っていないかも知れない。引き続きシールド内から敵を眺めよう」

ポルックス・イエローは同意しつつ、いつでも電撃を放てるようにした。

「剣を出して来ましたね。ならば私が行きます」

コスモ・ソードの準備をしてブルー・オリオンは敵に向かって行った。


「敵にはシールドがある。気を付けてね」

援護の攻撃を視野に入れパープル・スターはそう言った。

ピンク・プレアデスも大剣を持ってブルーに続いた。レッドは人間型の魔物にシールドごと近づいて行った。

「殺してしまわない様に攻撃力は抑えてね。何かあったら私が行く」

レッドはそう言って二人を見つめた。


出力を抑えた攻撃を二人は敵に放った。だが敵のシールドもかなり硬かった。

「敵が剣を抜いたら本気でコスモ・ソードを打ちこみます。殺してしまうかも知れませんが許可して下さい」

レッドの許可を待つ前に敵が剣を真っ直ぐに突こうとしたので、有希はコスモ・ソードを放った。それはシールドを破り敵の胴体に届いた。


「これで死なないなら人間じゃないね、『大剣!』」

頭の上からそれを振り下ろし、人型魔物は活動を停止した。

「たぶん死んではいません。ですが一旦引きます」

ブルーとピンクは再びレッドのシールド内に戻った。


「動かないけど本当に死んではいないの?」

パープルは状況を確かめたかった。

すると敵は回復し、戦闘継続の意思を見せた。再生能力を持った魔物は今まで居なかった。だが強くはない。一同は困惑した。


「一旦帰っておいで。明らかに敵は弱い。放っておいてもいいだろう」

そう言って彼女たちに撤退を進言した。


彼女たちは基地に向かったので、俺もそっちに走って行った。ついでにおにぎり用にごはんも持って行った。

戦闘を終えた彼女たちのために、せっせとおにぎりを握った。有希も手伝ってくれて、五人分の夜食はすぐに出来上がった。


「よく分からなかったよ、今夜の敵は」

遙はおにぎりを頬張りながらそう言った。

「魔法少女に恨みを持っている人間が魔物化したのかな。戦ってる感じがしなかったし、不気味な相手だったね」

春香は心情を吐露した。


魔法少女に恨みを持った人間に心当たりがあった。正確には彼女たちにではなく俺にだ。真琴も気が付いたのか動揺していた。


「明日、学校で確かめてくる。だからそんなに落ち込むな」

家に帰って真琴を慰めた。

しかし俊の姿は学校にはなかった。朝になれば戻ると思っていた目論見は外れた。再び奴の登場を待つしかないのか?


「恨みや嫉妬で魔物になれるはずがないでしょう。なる方法はあなたも知っているはずよ。魔界樹が願いを叶える樹だって」

遙の母親は淡々とそう言った。

「魔界樹も昔は暴れていたらしいの。だけどそれに意味がないと感じた彼は、人の願いを叶えてあげる善性を持った樹になったのよ」


遙の母の言葉を聞き、ただちに魔界樹に向かった。


「お夜食です。って何なのですかその格好は」

魔物化して勉強しているところを有希に見つかった。

「昨夜の魔物は俊なんだよ。剣の握りが剣道のそれだったんで分かった」

へえと言う顔をして魔物俺におにぎりをくれた。


「あの、せっかく魔物になったところで申し訳ないのですが、決闘は許しませんよ。あなたは五人の嫁を持つ夫なのですから」

有希からすぐに釘を刺された。正論だし仕方がない。

「魔物俊は口が利けないようだから実は意味がないんだ。だけど気が済むまで殴ってもらおうと思っていたんだけどね。やめるよ」


「真琴、ちょっといい?」

見た目にぎょっとしていた彼女だったが、声で俺だとわかったようだ。

「悪いのは全部私だわ。こうなった以上彼の元に帰るわ」

彼女は辛そうな顔でそう言った。

「許さない。今度は俺が化けて出る」

見た目が魔物なので彼女は噴き出して笑った。


「でも解決策はそれしかないじゃない。原因を作った私が帰るべきなの」

真琴は意志が強い。決めてしまったことを覆すのは困難だ。

「じゃあこうしよう。俺と俊をもう一度きちんと比べて、あいつのがいいと思ったら元サヤに。俺のがいいと思ったらここに残ってくれ」

シンプルにこれしか解決策はない。真琴の意志に全てを委ねた。


「戦う必要はないわ。私が言ってケリを着けるわ」

再び現れた人型魔物に向かってポルックス・イエローは飛んで行った。

「こんなになるまで私を想ってくれていたのね。それならもう帰るしかないじゃない。あなたは天才じゃなくてただの馬鹿よ」


冷静に姿だけ変わった俺と違い、魔物俊は人間の意志を殆ど失っていた。それを元に戻せるのはもう真琴しかいない。

俊の元に帰ることを決めたのは真琴だ。冷静に二人を比べて決めた。だから未練なく俺は真琴を俊に返せる、未練なく。。。


気が付いたら魔物の姿で大粒の涙を流していた。

嫌なんだ、真琴を手放したくない気持ちが強すぎ動揺して自我を失いつつあった。気が付いたら獣のように叫び魔物俊に向かって行った。


二匹の人間型の魔物が対峙し、その真ん中に真琴がいた。


「明義さん、来てくれなかったらどうしようと思った。でもこれで思い残すことはないわ。今までありがとう」

泣きながらポルックス・イエローは俺にキスをしてくれた。

離れるとイエローは俊の元に行き、手を振りながら消えて行った。



「朝から栄養は必要です。サンドウィッチをしっかり食べてください」

有希に言われた通りしっかりと食べた。

今まであった席が一つなくなった。増えることはあっても減ることはなかった我が家の人数が減っていた。喪失感が家全体を覆っていて、皆の悲しみを増幅させた。


学校に俊は来ていた。前は俺が彼に気を遣っていたが、今はその反対だった。

真琴を寝取り寝取られた。前と同じ状況に戻っただけだ。だが寝取られた意識の方が強く、俊に対して殺意に近い感情を抱いた。以前と同じように決闘をしたら手を抜かず殺してしまうだろう。だがそれは真琴を悲しませる。失意の中で教室の椅子に座っていた。


校門に遙と有希が迎えに来てくれていた。

「大袈裟に心配してくれなくていいよ。わりと元気だから」

そう言ってもすぐに嘘だとバレてしまうくらいまだ動揺していた。

魔物俊が現れる直前まで真琴といた。彼女は体を委ねるくらい親しい関係になっていて、その点では俊に遅れは全く取っていなかった。


真琴が俊の元に帰ることを選んだのは二者択一ではなかっただろう。我が家は一夫多妻で俊ならまともな恋人関係が築ける。最初から奪うんじゃなかった。


魔物出現で魔法少女たちは出撃して行った。

だが俺はそれをモニターで見なかった。ポルックス・イエローを見るのが辛すぎたからだ。見ない代わりに取り寄せた魔界離婚届を書いた。後は真琴にも書いて貰うだけだ。


「やっほ、遊びに来たよ。って勉強中だね」

戦闘は遙の一撃で終わり、帰って来た啓子が部屋を訪ねてきてくれた。

「気にしなくていいよ。そのうち有希の差し入れがくるから休もうと思っていた」

慰めに来たのだろうか。それとも真琴同様出て行くと言いに来たのだろうか。


「約束の結婚デートは少し遅くなっちゃったけど今週行こう」

「まだ動揺してるでしょ?そんな状態で無理しなくていいよ」

啓子は気遣ってくれていた。一緒に結婚届けを出した真琴を失ったことに。

「顔だけで皆にモテていたなら、魔物人間で一生暮らそうかな」

「あれでもなかなかイケてたから無理だよ。モテ男は辛いね」

あれがいいという啓子の見る目がおかしい。


有希のおにぎりは二人で分けて食べた。そしてお互い何かぎこちなかった。

「あのさ、真琴取り戻さなくて本当にいいの?あの子は仕方がなく戻っただけじゃん。自分の好きな人から離れて可哀そうだよ」

「部屋はそのまま残してあるし、明日から真琴の椅子もキッチンに戻す。いつでも彼女が帰って来れるように。それでも帰って来なかったら考えるよ」

そう言うと安心したように啓子が抱きついて来た。


寝取り寝取られて元さやに戻った真琴だが、最後のキスが忘れられなかった。取り返しに来て欲しいなら望むところだ。だけど今は彼女の決断を尊重する。これは俺の問題であると同時に俊次第でもあった。真琴の心を完全に捕まえられるのか、それはあいつ次第だ。



































真琴と別れた明義。彼だけではなく家族にも動揺が走った。そんな彼に啓子は、彼女を取り戻す気があるのかと詰め寄った。

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