【46】スペースボール
突然現れた謎の飛行物体、スペースボール。だがそれは魔物ではなく敵かどうかも判然としなかった。日常では啓子と真琴に魔界婚姻届けを出しに行くことを提案した。
遙が帰還し、我が家の住民はは久々に穏やかな日々を過ごしていた。勿論、遙たちは魔物対策を怠っている訳ではないし、俺は勉強に力を入れていた。そんなある日魔法少女全員で壊れた神殿の調査をしていると、謎の魔物情報を発見した。
「これはもう魔物じゃなくて未確認飛行物体なんじゃないか」
球形で金属で出来たそれは、もはやただの魔物には見えなかった。
「名前も無いんだよ。呼び方に困るね」
「スペースボール。見た目のままだけどこれでいいんじゃないか」
遙が困っていたので勝手に魔物の名前を付け、特性を探ることにした。
どうせまた宇宙戦になるのだろうと予測していた。ただこの魔物だけ今までの物と明らかに見た目が違う。戦闘になったら警戒度最大で当たるべきだ。
啓子は魔女のところに行き、年度末で引退をすると告げていた。
「高校生にもなって魔法少女は恥ずかしいからね。でも後一年後だから」
戦力がダウンは避けられないが、いずれみんなも後輩の魔法少女たちと入れ替わるのだろう。寂しいけれどと言ってみんなもそれは肯定的に捉えていた。
俊と誠二は毎日我が家の別宅に通っていたが、会ってもらえるのは三日に一回程度だった。俺が設定した期限まで後半月、元カノを取り返せるのか。
「お兄ちゃん、なんで啓子と真琴を見放すようなことを許したの?例えば真琴が俊さんの元に帰ると言ったらすんなり認めちゃうの?」
「全力で引き留めるけど?」
春香は兄と話が噛み合っていないと感じた。
「誤解をしてるみたいだけど、二人とも正式な彼女です。だけど俺は一人しかいないんだよ。春香の魔法で五体に分裂させられるか?それが出来るなら絶対に渡さない」
「そういう意味なのね...」
絶対に女の子を振れない兄、でも人数が多すぎて抱えきれない。だから苦渋の決断で学友二人に任せてもいいと判断したんだ。
「啓子、真琴、俊たちの訪問は迷惑か?それならもう来れないように玄関を潰しておくよ。元々二人を返す気なんてさらさらないし」
矛盾を孕む言葉に二人とも困惑した。
それなら最初から渡さないと言って守って欲しかった。
「迷いがあるんだよ。友達から寝取った罪悪感を抱えてしまって。だから期限付きで来ることを勝手に許したんだ。二人に相談をせず決めたことは本当に悪かった」
姿勢と正して深々と頭を下げて謝罪をした。
間違ったことをしているとは思えない。だが矛盾は酷いと思った。
「啓子、真琴。街に行かないか?婚姻届けを出しに」
「書いたんだから当然行くよ。これでもう守ってくれるのね」
「間違いなく無く守る、出さなくても守るけど」
先手を打った。これを出してしまえば俊と誠二の奪還作戦が非難されるものとなる。寝取ったという罪悪感も捨てていいはずだ。
了解得てすぐに二人との都市への旅行に出掛けた。
本当は郵送でも受け付けてくれる。わざわざ二人と出向くのは、事務的ではなく心を込めて提出したいからだ。
「魔界深夜バスがあるみたいだね。これを使おう」
二人は真剣な顔で頷いてくれた。
「旅は好きなんだ。前にも魔界列車で旅行したけど、あの時は啓子が辛い思いをしてしまった。今度は良い思い出にしよう」
返事を待つ前に啓子と唇を合わせた。
「明義さん、私にもしてちょうだい」
真琴を情熱的に抱きしめながらディープなキスをしてあげた。
「一時停車30分だって、この魔界道の駅で休んで行こう」
真琴にはココア、啓子にはカフェオレを自販機で買って渡した。
「幸せだよ、俺。二人のことは最初から大好きだったから。遙と付き合っておいて矛盾してるな。でも本当なんだ」
「なんで俊と私が付き合った時に止めてくれなかったのよ...」
「遙が居たから。当時は二股とか全く考えてなかった」
それはそうねと真琴は納得してくれた。
「トイレは車内にもあるけどここで行った方がいいぞ。出発まで後10分だ」
そう聞いて二人ともトイレに急いだ。
今は午後零時過ぎだが、魔界市役所が開所する時刻までにはバスは着く。その間、何か所か停車した後に。
二人の寝顔を確認してから、深夜の三時に停車場に着いた。起こすのは可哀想だから一人でトイレに行こうとすると、啓子が手を掴んで来た。
「どうした啓子?またトイレに寄るか?」
啓子は首を振ったが手は放してくれなかった。
「真琴の時みたく抱きしめてキスをして、お願い」
甘い声でお願いされたので、他の乗客に見えない場所で強く抱きしめてキスをした。好きな気持ちが高まって少し胸にも触れてしまった。
「御免、勝手に触っちゃった。嫌だったか?」
「いいよ。なんならここで青姦したっていいんだよ、結婚するんだから」
その言葉が嬉しくてもう一度抱きしめた。
バスは出発し、もう自分も寝ないとまずい時刻だ。なので二人の真ん中に入り睡眠を取った。二人の夢が同時に見れるように。
何度も来た魔界の都市に着いた。二人の書類を出せば全員正妻になる。たかが書類だがされど公文書、頑張ろうと言う気持ちが漲って来た。
「同時には処理出来ないから一人づつになるよ。どっち先にする?」
迷わず啓子が手を挙げた。
二人の書類が受理され、大仕事を終えてホッとしていた。
帰りもバスは辛いので、昼まで公園や動物園を見学した後で二人に変身してもらい、交互に乗りながら帰路に着いた。
俺の部屋に五人の受理された婚姻届けを飾り、俊たちとの窓口になっていた玄関を封鎖した。五人とも面倒をみる、又はみてもらうという証しだ。
「明義さん、お疲れ様でした。一人で頑張ろうとしないで頼って下さい」
有希が心強いことを言ってくれた。
「私にも頼ってお兄ちゃん。揉め事があったら全部抱えようとしないで」
春香にも頼っていいらしい、遙の負担を減らしてあげられる。
旅行中の遙たちの調査で、スペースボールの正体が魔物ではない可能性が浮上して来た。地球外生命体の可能性があるようだった。
光速に近い速度、恒星を貫けるビーム、信じられないスペックが判明した。
「これ本当にヤバくないか?完全にラスボスだろう」
「う~ん、敵対すればそうなるのかな」
遙の意見でも最強クラスらしかった。
終りの無い戦いのエンドが見えて来た。と同時に、最大のピンチでもある。味方の魔物と魔女とも連携を取る必要があるようだ。
「仮に敵でも戦うべきじゃないねえ。勝てる相手じゃないじゃろ」
魔女の意見はお手上げのようだった。
「地球が滅ぼされても戦っちゃダメなの?」
「勝てるならいいんじゃが、お前は勝てると思うかい?」
遙の質問に母親は逆質問をして来た。遙は黙るしかなかった。
冗談ではなかった。やっと新生活がスタートを切ったのに、その瞬間全てを奪われるなんて理不尽にも程がある。私情をたっぷり入れて憤慨した。
とは言えまだ敵と決まった訳じゃなかった。
未知の脅威より現実の生活だ。俺は様々なイベントで遅れていた受験に標準を合わせた。A判定に復帰しなければならない。
「明義さんちょっといいですか」
「夕飯前とは珍しいな有希、何か用か?」
少しもじもじしながら話すのを躊躇う有希。
「自分から来ておいて言えないことなのか?じゃあ話さなくてもいいよ」
「じゃあ言いますね。生理が来ないんです」
現実の爆弾を落とされしばらく唖然としていたが、めでたいことだった。
「お祝いしよう有希、みんなにも言っていいか?」
「まだ受胎の確認は取れていません。それからでいいかと」
うんうんと頷き、産婦人科に行くことにした。
この年で父親になるとは考えても居なかった。だが童貞で無いと言うことは、常に父親になる可能性があるのだ。責任を取れる歳かは別にして、有希の子供が生まれるなら高校卒業と同時に就職する。
俺の部屋でお腹を大事そうに摩る有希。誰よりも子供を欲しがっていた。
階段をもの凄く丁寧に降りて行く有希。他にも激しい運動を明らかに控えていることが誰の目にも明らかだった。
「明義っち、おめでとう!パパになるんだね」
啓子がフライングで祝福して来た。
「明日、病院に行って確かめるよ。検査薬ではどうもよく分からなかった」
背中をバンバン叩かれ祝福された。
「有希が一番なんてね。次は私の番だから覚悟なさい」
真琴もフライングだが、いきなり二人目はきつい。
どこで嗅ぎつけたのか、魔界民から哺乳瓶や赤ちゃん遊び道具が送られて来た。嬉しいがまだ分からないのだ。
有希の部屋に行き度々お腹を摩ってあげた。この子はまだ幼い。だがいつそうなっても産むと最初から宣言していた。
「良かったですね。想像妊娠です。子供なのに遊び過ぎはダメだよ」
産婦人科医の言葉に二人は絶句した。
有希の落ち込み方は本当に酷かった。その日の晩はずっと付き添ったが、まだ枯れないのかと言うくらい有希は涙を流した。
「有希、残念だったな。俺も無念だ。また頑張って作ろう」
そう言うとやっと泣き止んでくれた。
頑張って作ってはいけないのだ。だが今はそう声を掛けてあげるしかない。今のご時世だと二十歳でかなり早いが、同棲が早いのだから十代でいいだろう。
「有希ちゃん残念だったね。あんなに落ち込んで慰める言葉もないよ」
「早すぎるから半分はホッとしたんだけど、有希は前から欲しがってたから辛いよ。こうなったのも避妊のミスだから気を付ける」
遙の子供も欲しい、でもやっぱり若過ぎる。
落ち込んでいるのに料理長の仕事はきちんとこなす有希。責任感が強い子だった。
「今日から毎日牡蠣鍋です。精子の量を増やしましょう」
まるで俺の種が薄かったから出来なかった様に言われた。
そもそも有希とは二、三回しかしてない。そんな簡単に出来てたまるか。
「赤身の牛肉、鶏肉、納豆、鶏卵、牡蠣、うなぎ。ふんふん」
真琴まで精子を気にしていた。
「真琴の小さすぎるアソコからじゃ子供は産まれないの!」
つい、極秘事項をばらしてしまいレールガンを撃ち込まれそうになった。
「みんな静かに!」
いち早く遙が異変に気が付いたが、敵性反応はなかった。
「明らかに何かがおかしい。みんな、調査に行くよ」
遙の指示に従い、全員が変身して調査に乗り出した。
俺の元に入った情報では、魔界樹、活火山魔物、ゴーレムが次々と襲われ瀕死状態だという。力強い仲間たちが同時にやられたのは信じがたかった。ヒールが出来ない春香だけ家に戻り、他のメンバーはそれぞれヒールで彼らを全力で治療を行った。
「お兄ちゃん、これだけのことができるのってやっぱり」
「スペースボールで間違いないだろう。しかも我々の仲間だけ狙い、こちらには何もして来ない。明らかな威嚇だ」
宣戦布告と捉えていいのだろうか。
しかし相手は仲間の魔物たちにトドメは刺さなかった。我々を手玉に取るのは簡単だと言わんばかりだった。
『魔界樹さんのヒール完了。ゴーレムさんに向かいます ~遙~』
『活火山魔物のヒールを完了。ゴーレムに向かいます ~有希&真琴~』
しばらくしてゴーレムの無事も確認、犠牲者は出なかったようだ。
夜中に帰宅した彼女たちは疲れ切っていた。風呂は明日にして寝る様伝えた。
翌日は全員に学校を休ませ英気を養ってもらった。
それにしても敵対関係にあるのか謎な攻撃だった。敵なら仲間の魔物にトドメを刺したはずだ。何かが腑に落ちなかった。
しかしその翌日スペースボールは姿を現した。しかし攻撃する訳ではなく、人間界と魔界を威圧するように飛行し去って行った。出撃した魔法少女たちは敵対反応がないので、そのまま見送って帰還した。
「強大な相手だと言うのは分かっています。ですが手を出せば負けるような気がするので手が出せない。歯痒いです」
有希が心情を吐露した。
他のメンバーも大方意見は同じようだったが、遙だけは牙を剥く準備をしていた。
「深く考えるのはもう馬鹿馬鹿しい。専守防衛で敵対行動を取ってから動こう」
未知の敵に考えるのを放棄した。
「魔界樹さんたちはやられたんだよ?敵なんじゃないかな」
仲間を傷付けられたことが遙は何よりも許せない様子だった。
人間界ではイージスシステム稼働を検討し、爆撃機は都内を飛んでいた。しかしそんなものではアレには歯が立たない。
「こんな時こそ落ち着く必要があるわ。ハーブティ淹れてあげる」
真琴はリラックス効果があると言われる紅茶をみんなに配った。
「判明したスペックが本当だったらどうしようもないよ。あの強いゴーレムさんが一瞬でやられちゃうなんて」
啓子はやや投げやりになっていた。
その数日後、またスペースボールは姿を現した。人間界だけだった。
敵はイージス艦から放たれた巡航ミサイルを難なく躱して撃墜して見せた。やはり軍隊ではどうにもならない。魔法少女たちには待機させた。無謀に挑んでも仕方がないからだ。しかし遙だけは出撃した。巨大なシールドを展開して、スペースボールと真っ向から対峙した。
「対峙だけだレッド・ペガスス。こちらからは動くなよ」
「無茶はしないから安心して。敵か見極めたいの」
最強のレッドには最も慎重であって欲しかった。早く引き上げて欲しい。
五分ほど対峙した後、消えるようにスペースボールは彼方に飛び去った。
「ただいま。訳がわかんないよ」
単独行動を取った遙を叱りたいが、ムキになるので何も言わなかった。
「遙っち、お疲れ様。お風呂入っておいで」
啓子ら待機組は既に入浴は済ませていたので入っていないのは遙だけだった。
「遙、アレは嫌な感じがするが攻撃はもうしないと思う。ミサイルは墜としてもイージス艦は無事だった。だから相手にするのはもうやめないか」
「まだ分かんない。突然牙を剥くかも知れないよ」
彼女を抑えるのはロデオの騎手みたいなものだ。無理したら振り落とされる。
神経が尖っている遙の肩を揉んであげた。リラックスして欲しいから。
「気持ちいい。あと腰回りもお願いね」
理学整体師にされてしまったが、こちらも気持ちいいので従った。
「背中もついでにやってやろうか?なんか凝ってそうだ」
「おっぱいが潰れちゃうからダメ」
潰れる程ないよと言い掛けてやめた。失言は減らしたい。
スペースボール出現の翌日魔法少女会議で、アレに関しては手を出さないと言う方針が決まった。どうにか出来る気がしないからだ。遙も渋々従った。
「危機感が高まると受胎し易いらしいです。今日は好機なのでやりましょう」
有希が迫って来たが、好機じゃなくてそれは危機だ。
「好機じゃない時にヤりたいかな?具体的には生理前」
そういうと彼女はあからさまに嫌そうな顔をした。
(子供は欲しいけどもっと後がいいんだよ有希)
「じゃあ好きに悪戯してください。構われたいんです」
そういうことなら大歓迎なのでお胸のマッサージを念入りにした。
やり過ぎたのかピクピクンとして有希は動けなくなった。その姿を見て欲情が暴走仕掛けたが、危険日になどやるものか。
「話しは変わるけど、スペースボールの目的はなんだと思う?」
そう言うといきなりきりっとして俺の目を見て有希は言った。
「ズバリ、遙が目当てです。明らかに興味がありそうでした」
驚愕の発言に言葉が出なかった。
やっと取り戻した遙をまた奪われる?そして俺には何も出来ない。絶望感で動悸がしてきて俺は床に這いつくばって懸命に呼吸をした。
有希は想像妊娠だった。彼女は酷く悲しむが、再度の子作りを迫る程逞しかった。スペースボールの襲来に対しては遙が取り決めを破り出撃してしまった。無事に彼女は帰還したが、有希の勘ではアレの目的は遙だと予想していた。明義はまた遙を失うことになるかも知れないと動揺した。




