【44】新しい家主
遙が去り真琴が来た。真琴は俊に返すのが正しいと思いつつ、彼女に惹かれてる自分に気が付く。そして俊と明義は決闘することになった。
真琴は魔界で暮すという難関を容易に乗り越えた。男と暮らすことも両親に言うように伝えたが、俊と俺、どちらの名前を出したのだろう。とにかく遙女王不在の中で最大のジョーカーが生まれようとしていた。
「隣の部屋なのね!やっぱり私を好きだと認めたのよね」
「違う、単にそこが遙の部屋だっただけだ」
事実だけはきちんと伝えよう。
そしてハニトラに引っかかることを避けないといけない。もはや自分の理性には1mmも信用していないので、この日から春香と寝泊まりすることにした。
「好きでもないのになんで同居を許したのよ。憐みなの?」
「それも違う、俺は誰かを振ったことがないの。遙には振られたが」
要らない一文を口走ったことで大きなダメージを受けた。
「この部屋とその部屋は繋がっていて鍵はない。出入りは自由だがおかしなことは企てないで欲しい。それとエロいこと禁止な」
真琴が暴走を止められるとは思わない。だが釘は刺しておかないといけなかった。
そして言わなくても近いうちに俊にはバレる。学校に行くことが憂鬱になった、と同時に俊の真琴への想いをしっかりと聞かないといけない。
「ペットはどこ?遊んでくるわね」
場所を伝え餌になりそうな物を一通り渡した。
「お兄ちゃんってもう真琴のこと好きでしょう。なんで気持ちを隠したの?」
あの現場を見たからなのか、身振りでバレたのかは分からないが真実だった。
「誰でも好きですって節操無さ過ぎだろう。それに真琴は俊の彼女だし」
今更なことを語ったので、春香が眉間に皺を寄せた。
「それにしても啓子よく出て行かなかったな。真琴が来たら逃げ出すと思ってた」
「お兄ちゃん観察力無さ過ぎでしょう。元から二人は仲が良いよ」
春香に言われてそんな気もしてきた。頭の中がパニック状態なのだった。
遙と真琴のトレードはどうだろうと、支離滅裂なことを考え出した。しかし成功すればこれまでと状況だけはあまり変わらない。
「春香、このボクシンググローブ付けて思いっきり顔面を殴ってくれ」
そう言って6オンスのグローブを手渡した。
「はあああ!歯ぐらい折れろ!!」
彼女はグローブを装着すると躊躇いなく俺の顔面を打ち抜いた。
「何なの、喧嘩なの?明義さんの鼻折れてるじゃない!」
庭まで響き渡る打撃音は流石春香だった。
真琴は心配して走り寄って来た。有希も啓子も騒ぎを駆けつけてやってきた。そして啓子がヒールをしてくれた。
「うん、明義っちはたまにはこういう目に遭うべきだよ」
自分でもそう思っていたので、彼女の言葉に大いに頷いた。
「真琴には食事当番の役割はまだなし。食べたら部屋に戻っていいぞ」
啓子と食器を洗いながら彼女にはそう伝えた。
「料理なら出来るわよ。何かやりたいわ」
そう言われても、料理長の有希が背中を丸めて威嚇する猫みたくなっていた。
「啓子、ここって明義さんのハーレムでしょう?毎晩アレとかしてるのかな」
「残念ながら滅多にないよ。忍耐し過ぎで遙は去って、明義っちもアパートに帰ったんだよ。初めから誰か一人を選んでおけば良かったのに。遙は大馬鹿だよ」
湯船に浸かりながら聞いた啓子の言葉に、真琴は少し納得出来なかった。
「春香、寝たふりしててくれ。真琴の部屋にちょっと行ってくる」
「頑張れお兄ちゃん」
小声で妹が応援してくれた。
「真琴、起きろ。大変だ」
棒読みで言い、彼女の身体をゆすって起きてもらった。
「なあに。Gでも出たの?」
「額の上にそれが居るから絶対に起き上がるな」
真琴は恐怖で身体が硬直し、身動きが取れないまま瞼を閉じた。そしてゆっくりと顔を近づけ彼女の唇にキスをした。
「好きだ真琴。騙してごめんな」
それだけ伝えるとまた自分のベッドに戻った。
翌朝みんなは学校に登校したが、真琴だけはまだ居た。
「俺は昼頃登校するが、真琴は何でまだいるんだ?」
「相思相愛記念に一緒に居たかったからなの」
告白はきちんと自分の気持ちを伝えたかったからだ。
でもこの子はまだ俊の彼女だ。真琴が俊と別れない限り彼女ではない。朝でぼーっとした気持ちだったので、抱いて寝とってしまえと頭の中で悪魔が囁いていた。
「寝間着かわいいでしょう。このキャラ好きなの」
S〇NーXのキャラクター寝間着を来た彼女は愛らしかった。
そして遙もこういうのが似合いそうだなと思った。もうとっくに気が付いていたが、俺は真琴に遙を重ねようとしていた。出て行った元女王彼女の代わりとして。
真琴はペットの中ではゴーレムが気に入ったようだ。少年がロボットのおもちゃを弄るように、真琴は彼を高くかざし、空を飛んでいる様に見立てた。
俺はトマトに指を噛ませて毒を注入していた。痺れた身体が心地よかった。ついでに麻薬のように脳内もハイになっていった。
「いつまでも寝間着じゃおかしいな。脱衣場でお互い着替えよう」
真琴の可愛い下着が見たかったのでそう言った。
普通に着替えてくれる彼女が愛しかった。だが躊躇いなく着替える彼女の姿に、またしても遙のそれを重ねていた。
「明義、屋上に来い。話がある」
「屋上は床がコンクリートで固い、体育館でマットを敷いて殺り合うか。どうせ話なんてないんだろう?」
無言で俊は頷いた。
グローブを付けないので殺してしまうかも知れない。だがそれくらいもう真琴が欲しくなっていた。だからお前は戦いではなく俺に土下座すべきなんだ。
「うちの学校にボクシング部はあったか?あったらグローブを借りて来い」
高圧的に俊に命じたが、無いと返事が来た。
決闘が始まってすぐにみぞおちに右のフックを入れ、あっさりと勝負は付いた。その瞬間レールガンで壁をぶち抜いて真琴がやって来て、俊を基地に連れて行った。
後を追って基地に着くと、啓子がおろおろしながら彼の折れた肋骨をヒールしていた。真琴は神妙な顔をしていた。
「俺はこういう血も涙も無い男だ。今からでも遅くはない、そこで伸びている男の元に帰るんだ真琴」
「嫌よ。二人が退学になるのが嫌だから治療しただけだわ」
勝手にしろと言って俺は家に帰った。
「彼ならもう家に帰ったわ。お別れもはっきりとしてきた」
俺は真琴に遙の姿を重ねただけだった。一緒に居る資格はない。
その日真琴は自室から出て来なかった。
自分を巡り戦い傷ついた俊のことを想っていた。天才のくせに喧嘩で決着を付けようとした二人に戸惑い、俊をヘタレと罵った自分を悔いていた。
俺はその晩は春香に自室に戻ってもらい、一人で勉強をしていた。
その日あったことを思い出して俊を殴り倒したことは悔いてはいない。だがはっきりと真琴は俊のものであるべきだと感じた。恐らく俊は俺の本当の実力を知っていて、命懸けの喧嘩になることを知って挑んで来ていた。
「お夜食です。明義さん」
おにぎりを頬張っていると、有希が珍しく傍から離れなかった。
「どうした有希?慰めてくれているのか?」
「はい。全身で泣いてるような感じがしましたので」
頭を撫でながら有希を抱きしめて、遙を忘れようと思った。
同時に真琴も俊の元に返さないといけない。二人から同時に手を放せば、負担は軽くなる。残った三人だけに愛情も注げる。
「え?帰らないわよ。居ていいって言われたんだもの」
ツンデレ娘は強情だった。俊への呵責の念は生まれただろうに。
「もし遙が帰って来たら魔法少女全員がここに揃う。それはおかしなことだ。俊とお前は俺とは関係ない理想のカップルだった」
そんなの関係ないと言って、真琴は朝食を頬張っていた。春香は複雑な気持ちでいた。相思相愛を確かめたのに真琴を突き離そうとしている兄が可哀想だと思った。遙が居ないのなら真琴が新しい家主に相応しいとも思っていた。
退学にはならなかったが、喧嘩の現場は目撃されていて二週間の停学になった。学校なんて往復の通学時間が無駄だと思っていたので、のんびりと休暇を楽しむことにした。
「ああなることを分かっていたのに止めなかった。私にも責任があるから一緒に休むわね。一緒に居たいからじゃないんだからね」
ツンデレ語を一生懸命使ってくる真琴が可愛かった。
午前中は勉強して、お昼を作ってくれると言うので一階まで降りて行った。
「スパゲッティ・カルボナーラよ。食べておきなさい」
簡単なパスタだが美味しかった。真琴が作ってくれたことも嬉しかった。
学校にみんな行っているので二人きりの時間を楽しみ、今は俊の元に帰れとか、彼女が悲しむことは言わないことにした。
「ちょっとだけ一緒に居てもいいかな?」
言葉遣いが変わった時の彼女が本当なのだろうか。
だとしたら俺はまだ彼女のことを全く知らない。エロいことはしなさそうだったので隣にいることを許可した。
問題集を解き終え、ちょっと休憩にすると彼女は紅茶を淹れてきてくれた。
「ありがとう真琴。いつもは珈琲だから新鮮だよ」
感謝されて嬉しそうな彼女を見るのは幸せだった。
しかし俊の犠牲の元で成り立つ幸せは苦い。せめてもっと早くにきちんとした形で出会いたかった。遙よりも早く。
『明義、俺は真琴を諦め切れない。返せとは言えない、だから譲ってくれ。お前には他に癒してくれる女が沢山いるだろう ~俊~』
彼の言うことにも一理はある。俺には妹や有希、啓子がいる。遙を失ってもまだ愛され過ぎていた。なので考えておくと返信しておいた。
「あ、勝手にスマホ除くな。見せたくないことだってあるんだよ」
「失礼しちゃう、譲れとか人を物みたく扱って。絶対にそうはならないわよ」
少しは態度を軟化させていた真琴が怒っていた。そして何故か俺はホッとした。
寝ながら彼女は絨毯の上で見ていたので、こっちからはパンツが見えた。その黄色い物が見えない様に何も言わずタオルケットを掛けた。
疲れたので昼寝を一時間することにした。嫌でも遙を夢に見てしまうが。
「そんなに遙が居ないことが寂しい?」
当たり前だった。想い出は一年だがそれ以上に感じる程の絆がある。そう思っていたのは俺だけだったのかも知れないが。
「人の心の中を読むな。俺がどう願っていても遙は去って行った。忘れるまでには何年も、いや一生忘れない。だけどもう過ぎたことといつかは必ず割り切るさ」
自分に向けて俺は言った。
「言っておくが遙を迎えには行かないからな。遙のあの症状はうつだ。それでもまだ明るくしているのなら危険だ。医者に行く様真琴から言ってくれないか」
「あんたたち不器用にも程があるわね。いいわ、そう言ってあげる」
遙は気を遣い過ぎておかしくなってしまった。また戻って来いなんて言えないのだ。
翌日の天気がおかしかった。春なのに雪が降り、突然真っ暗になり星が見えた。
「真琴、行くのか?無理して戦う理由なんてないんだぞ」
「魔法少女を舐めないで。戦うために生まれてきたのよ」
そう言って彼女は変身した。そしてポルックス・イエローは空に飛び立った。
基地に向かうと俊がいた。俺たちは無言のままモニター前に座った。
「ペーガソス、つまり遙の名前を持った魔物だな」
彼女と名前が一緒だということに戸惑った。しかし相手はただの魔物だ。
「レッド程じゃないけどシールド張るよ。念のためゴーレムさんも呼んだから」
今回はレッド・ペガススを抜いた初めての本格戦闘になりそうだった。
「試しに行くわよ『レールガン!』」
イエローの先制攻撃を威力が同等のビームを口から出し相殺した。
そしてペガサスが翼を広げて飛び掛かって来て、シールドを足で踏むと奇蹄目の足の裏の形にそれが破れた。
「レッドだったら破れなかったのかなあ、弱くてごめんね」
ピンク・プレアデスはみんなに詫びたが、今居ない存在を口に出しても意味はなかった、「さっきのはお試し弾、次は打ち抜くからおびき寄せて」
イエローはみんなに指示を出した。
ブルー・オリオンがペガサスを追いかける。そして敵を捕らえた彼女は、大技は出せそうもないのでパンチとキックを繰り出した。一つひとつが重い一撃だ。
結界維持を諦めたピンクも向かった、「行くよ、『大剣!』」
翼を狙った一撃は躱されたが胴体にダメージを与えた。
その後も効率よく打撃で追い詰めて行く二人に春香も続いた。
「行きます、『リアルラヴ!』」
以前とは比較にならないほどの威力で光線を放つと、それが本体に直撃しペガサスは苦しみ出した。と同時に翼を広げイエローの元に飛翔した。
「トドメよ、『ブリザード・レールガン!』」
至近距離から放った電撃がペガサスを粉々に破壊した。
ゴーレムが駆け付けた時には既に勝敗は決していて、彼の手の上にピンクは降りていた。どうもゴーレムはピンクの尻が好きな様だった。
戦い終えてみんなは基地に向かった。
真琴が部屋に入ると俊は彼女に戻って来て欲しいと土下座をした。しかし彼女は目も合わせずに無視をした。
「真琴、少しだけでいいから話を聞いてやれ。無慈悲過ぎる」
俺の言葉で仕方なく真琴は俊と話し合いをした。
「真琴は俊さんと何の話をしたんだ。誰にも言わないから教えて」
啓子の問いかけに迷いながら彼女は答えた、「明義さんを好きなままでいいから帰って来て欲しい、今までだってそうだっただろ、ってそう言われたわ」
身も蓋も無いけど確かにそれは今まで通りだと啓子は思った。
俊は俺にも土下座をした。決闘で負けたのに女々しいかも知れないが返してくれと。どうにも答えようが無いので、真琴を口説き落とせ、俺は一言だけ言った。
俊の物だから俊に返すのが正しい。しかしそれを決めるのは真琴なんだ。
「真琴、入るぞ」
そう言って彼女の部屋に入った。彼女はベッドの中にはいたが起きていた。
「俺の部屋には来てくれないんだな。俊の元に帰るのか?」
直球で俺は聞いた。
「今行くわ。ちょっと待っててね」
複雑な気持ちがわかるだけ辛かった。
「お夜食です。明義さん」
いつもの有希便が来た。
そして直ぐに部屋を出て行こうとする彼女を俺は引き留めた。遙に続いて真琴にも振られ出て行かれる。そう思うと身体が震えた。
「来たわよ。あら、有希もいたのね。まあいいけど」
有希が怒って飛び掛かろうとしたので手を掴んで止めた。
「勘違いしているようだけど私は出ていかないわよ」
その言葉で救われた。今はまだ振られない。
「なんで夢が叶ったのに手放さなきゃいけないの?魔法少女全員がここにいるのに私だけ悪者なの?間違ったことはしてるけど後悔だけはしたくない!」
真琴が感極まって泣いてしまったので涙を指で拭いハンドタオルで拭き取ってあげた。有希はぽかんとした顔で見ていた。
「夢が叶ったというのは明義さんの寵愛を受ける権利があるのですね。だったら真琴と私は同じです。もう邪魔はしません」
有希はそう言い残して部屋を後にした。
涙顔の真琴も可愛かった。手放したくないなら無理矢理でもやれ、俊に散々言ってきた言葉だった。だから俺がやる。
泣いてる真琴を抱っこしてベッドに寝かせた。誰かより軽かった。
パジャマのボタンを一つづつ外していっても真琴は抵抗をしなかった。ズボンを脱がせて俺もベッドに入った。いつかと違ってハニトラに掛かった訳ではなく、自分の意志だった。後悔しないようにゆっくりと顔を近づけキスをした。
小さなブラをほんの少しずらして乳首を舐めると、真琴の身体がぶるっと震えた。優しく乳房を撫でてあげると気持ち良さそうに小さな声をだした。
「憐みとかじゃないからな。勘違いするなよ」
そう言いながら手をパンツの中に入れた。
「おもらししたみたいに濡れてるぞ真琴」
「変なこと言ってないで早くして」
真琴の言葉どおり早く入れようとしたが、予想以上にアソコが小さい。
それでも彼女の願い通りに一つになり、ゆっくりと動かした。
「痛かったら腕を噛んでいいぞ」
そう言うと本当に強く噛まれた。
痛みで快感どころでは無さそうだったので、小さく動かして俺は真琴の中に射精をした。避妊具は付けなかったので危ないかもしれない。無責任で自分勝手なSEXだった。
「あの、こういうの二度目なのですが」
啓子に頼めば良かったのだが、信頼と実績の有希にヒールをお願いした。
「こう言っては何ですが、遙はもう帰っては来れませんね」
もともとそのつもりで真琴を抱いたと宣言した。
有希の部屋を出てお姫様抱っこで寝ている真琴を自室に運んだ。起きた時に一人じゃ寂しいだろうから一緒に身体を寄せて寝た。
真琴が隣にいるのに有希の言葉がナイフのように突き刺さった。遙とはもう会えない、その事実に向き合うことは余りにも辛かった。自分の行動が間違いの上塗りだらけだった。しかしそれを後押しした遙はもういない。真琴を抱いて満ち足りた気持ちと、遙を失った喪失感でぐちゃぐちゃになっていた。
俊の嘆願にも拘わらず、真琴を手に入れた明義。しかし遙を失ったことを埋められた訳ではなかった。




