【42】ドラゴン
強敵ドラゴンに対抗すべく、ゴーレムは人間界まで出て来た。魔法少女たちはゴーレムとこの魔物と戦うことになった。強いシールドとタフな肉体、過去最強級の敵に遙たちは苦戦を強いられた。
都心にゴーレムが現れ、人間界は大騒ぎしていた。彼の出現は既に知っていたので、魔法少女たちは落ち着いていた。ゴーレムを倒すどころかその背に乗り待機している彼女たちの姿が、人々により混乱を与えていた。決戦になる相手の登場を彼女たちは待った。
雨の雲から現れたそれは、蛇のような長い姿をしており、ドラゴンだとすぐに確認できた。魔法少女たちは一気に高度を上げ臨戦態勢に移った。
「今回はゴーレムさんは助っ人、私たちが倒すよ!」
レッド・ペガススはメンバーに大声で宣言した。
先制でゴーレムは強い光を目から放ち、ドラゴンに向けて照射した。だが俊敏な動きで躱されてしまった。続けてポルックス・イエローは特大のレールガンを放ったが、大きなシールドの前に無効にされてしまった。
「あのシールドは遙並ね。まず破壊しないとどうにもならない」
パープル・スターは冷静に分析した。
「どっちもシールド張ってるならごり押しするよ」
太陽核で見せた最強のシールドでドラゴンと超接近戦を彼女は挑んだ。
「この距離なら行っていいですか」
ブルー・オリオンの問いかけにレッドは否と答えた。
「行きます!『パープルレイン!』」パープル・スターは至近距離から攻撃し、ドラゴンのシールドに穴が開いた。
その瞬間を狙ってブルーが敵に剣を構え特攻した。
コスモソードはドラゴンの尻尾を削ぎ落し、明らかに敵の速度が落ちた。
「あたしが首を切り落とすから、その時は指示を出して」
ピンク・プレアデスは落ち着いてレッドに頼んだ。
「一旦引くよ。ゴーレムさんお願い」
ゴーレムの光線がドラゴンのシールドを全て破壊した。
「行くよ『大剣!』」頭を狙ってピンクの攻撃は的中し、ドラゴンにトドメを刺したかに見えた。しかしその瞬間に敵は電撃を放ち、彼女はそれを直撃した。
ゴーレムは素早く動き、落ちて来る彼女を受け止めた。
「ブルーはピンクを助けて。ビーム隊はここから行くよ」
レッドの号令で、パープル、イエロー、レッドが同時にドラゴンに攻撃をした。明らかにダメージは通っていたが、敵が倒れる兆しはなかった。
「レッド、ちょっと距離を取ってシールドをお願い」
パープルが指示を出してレッドは引かざるを得なかった。
日本刀を構えるパープル、イエローは止めたがピンクの攻撃で負傷している頭を狙い突き刺そうと狙っていた。
「ちょっと止めなさいって!動けないドラゴンの頭なら私が撃ち抜くわ」
珍しくイエローが仲間を制止し、特訓で得た最強の電撃を繰り出そうとしていた、「『ブリザード・レールガン!!』」
雪山を相手にした電撃はドラゴンの頭部を確実に捉えた。
信じられないことに、頭の半分を砕かれてもドラゴンはまだ生きていた。それどころか俊敏に動きゴーレムに体当たりをし、ゴーレムは吹き飛ばされ満身創痍になった。
「ゴーレムさんを助けるよ、ブルーも手伝って」
彼と一番親しいピンクは、何が何でもゴーレムを死なせたくなかった。
「チーム戦とか温い。私がトドメを刺す」
レッドが危険な賭けをしているのを見て、ブルーはヒールの手を止めミリオンカッターをドラゴンに打ち込んだ。夥しい血が敵から流れたが、それでも片目から電撃をレッドに放った。
「効かない。最強なら本気で来なよ」
髪の毛まで赤く染まり、レッドはとんでもないオーラを纏った。
「ああああ!『ローズ・ブリザード!!』」
「行きます『斬鬼!!』」
レッドが最強の技を出したその瞬間、パープルも満を持して日本刀を構え突撃した。
満身創痍のドラゴンにはこの攻撃は耐えきれなかった。大きな呻き声を上げて、東京湾に落下していった。しぶとさを警戒し、イエローはブリザード・レールガンをもう一度放ち、海の中を偵察し確実に死んだことを確認した。
「レッドとイエロー、こっち来てヒール手伝って」
ピンクの呼びかけに二人はゴーレムに駆け付けた。
手当が早かったため、ゴーレムは助かった。遙はゴーレムさんならとシールドに入れなかったことを後悔した。彼と一番親しい啓子はずっとヒールを掛け続けていた。
ゴーレムを家の前で休ませ、メンバーも我が家に直行した。
「お疲れ様みんな。とんでもない相手だったので今日は寝ないで警戒するんだろう?でもそれじゃみんな倒れるから二組に分かれた方がいい」
偏りがあるが、長距離ビーム隊と徒手格闘組に分かれ、まず有希たちから風呂に入ってもらった。後から駆け付けた俊と俺は食事係りだった。
「怖かったな。太陽核に潜んだブラックホール並みだった」
魚を捌きながら俊が言ったが、真琴を覗くべく俺は脱衣場にいた。
「貴様は死にたかったようだな、喰らえ頭突き!」
なんとか生き延びまたキッチンに戻ったが、真琴の裸はきちんと見てきた。
「真琴は春香と同室で、俊は俺の部屋な。因みに布団は無い」
俊はそういうのは全く関係なかった。鍛え上げられた男だ。
啓子はまだゴーレムの横に居た。夜なので少しは冷える、彼女の部屋から薄手のカーディガンを持って行き庭に降りて行った。
「啓子はゴーレムが好きなんだな。だけど不思議に嫉妬出来ない」
彼女は笑いながらゴーレムの手を触れていた。
「ゴーレムにはシールドがない。啓子、大シールドを手に入れたらどうだ」
「そんなことできるの?私たちの技って最初からあるものじゃん」
啓子の発言には間違いがあった。今使ってる技はの殆どは後天的に獲得したものだ。啓子の大剣も初めから持っていた訳じゃない。
「魔界樹のシールドを破れるのは今のとこ遙だけだ。だけど啓子だって練習次第で身に付くかも知れない。やってみるまでだよ」
啓子が小さく頷いた。
「お前と二人だとホモっぽくて嫌だな」
「爛れすぎたお前の生活は羨ましくはない、死ね」
湯船で俊に罵倒された。
「そんなことはどうでもいいんだけれど、遙にはハラハラさせられる。命張って戦う姿は格好いいが、いずれ殉職してしまうんじゃないかと思っている」
俊もウムとはっきりと頷いた。
「俊にベッド貸すからここ使っていいぞ。俺は遙の部屋に行く」
この屑がと小さく聞こえたが気にしなかった。
遙の部屋に行くと、疲れすぎて熟睡している彼女がいた。
(お前はいったい何者なんだ?このままだと確実に死ぬ)
起さない様にベッドの端に頭を伏せ、泣いている俺がそこに居た。
「明義が来ると起きちゃうんだよ。なんで泣いてるの?」
死ぬとか言う言葉は縁起が悪いので、遙は頑張り過ぎだと注意した。
このあどけない幼い少女は何を目標にしているのだろう。俺に取っては一緒に居られるだけで十分だが、遙に取って俺は十分ではない。悔しさでまた涙が出て来た。
「戦いが終わったら明義の元に帰るんだよ。心配しないで」
フラグを立てないでくれ。いつの間にか号泣に代わりベッドに顔を押し付けた。
「キャミと下着だけで寝てたのか。なんか大人みたいで遙っぽくない」
「遙もあと一年で高校生なのだよ。当然もう大人なんだ」
大人は主語に自分の名前を使わない、そう言い掛けて止めた。
そして俺も疲れたので、遙の横で眠った。
その夜夢を見た。遙と二人で結婚して生活している夢だ。今と同じでまったく家事ができないので、俺は忙しく掃除と洗濯をしていた。仕事で忙しいのに何も出来ないダメ嫁をもらっても幸せだった。この子はただ居てくれるだけでいいのだ。
翌朝ゴーレムは自分の山に帰って行った。啓子は変身して見送りしていた。
今回の戦いの反省はいくらでもあるはずだ。だけどきっと彼女たちは乗り越えてくれる、それだけの成長を短期間で成し遂げたのだ。
「真琴と俊も帰るんだな。学校なんて昼行けばいいんだぞ」
「元生徒会長がそんなことできるか。それに真琴も優等生だ」
微笑ましい二人を手を振って見送った。
本当に昼登校予定なので、有希と一緒にペットと遊んだ。他の二名はもう登校した。
「有希はいいのか?遅刻とか気にしないタイプか」
有希は不思議な顔をした。そうだった、この子は全て俺に合わせてくれるのだ。
水色のワンピースが似合っていた。白に染めた髪はそのままでも、違和感はまったくなかった。入籍は啓子以外とはしているのだが、この子が一番嫁っぽかった。
「魔界ガラの滝に今度行きたいな。二人きりとみんなと一緒、どっちがいい?」
相当悩んだ結果みんなで彼女は答えた。苦渋に満ちた顔だった。
「休日で真琴と俊も合う日を選ぶよ。学校で言っておいてくれ」
敬礼をして彼女は了承してくれた。
魔界の春は暖かい。体感で30℃近くあるのでみんな薄着だった。
「啓子はサマーフリルキャミワンピか、ピングが良く似合うね」
「気合入れて来たんだよ。惚れ直していいよ」
もう充分惚れてるからその必要はなかった。
妹はどういう訳か制服だった。だが夏服の破壊力は抜群だった。
「裸かこれかなって、好きでしょう?こういうの」
間違いなく好きだ。って裸ってなんなんだ。
魔界ガラの滝は、人間界のそれより迫力があった。水量が桁違いなのだ。自然のままに保っているので浸食スピードは速いらしいが、魔界遺産登録されていた。
真琴は啓子と話していたので俊は一人だった。一人で見ている遙にでも話し掛ければいいのに、ヘタレ評価はまだ外せない。
「俊さん、おにぎりとお茶です。ぼっち同士一緒に食べましょう」
有希は気を利かせて俊に近づいた。
「も、申し訳ない。本来は明義のなんだろうがいただくよ」
何をどもってるんだ元生徒会長。有希の好意をきちんと受け取れ。
「真琴の白ワンピも可愛いな。見せブラの評価が高い」
すかさずセクハラで会話を始める。その後普通に話せばいい。
「透明なやつしてきたのに見せブラとは言わないでしょう、変態」
「そうだな。そんなの関係なしに真琴は魅力的だしな」
真琴の顔が赤らんだ。有希が足止めしてる間に攻めてみよう。
真琴は最初からツンデレを演じていたので最初は引いていた。ただそれがコミュニケーションが下手なことを克服する手段だったことに気が付いて見直した。どういう形であれ努力は大事なのだ。俊は公的な場では強いが、こういう場では弱すぎた。
「真琴は俊ががっちりとガードしてるから話したことあまりなかったな。俺はずっとお前と話したかったぞ、嫌か?」
「そんなことある訳ないでしょ。憧れの人だったんだから」
本人から直接威力のある言葉をいただき、攻められなくなった。
「ありがとう。小さいけれど芯は強いってすぐわかったぞ、俊をよろしくな」
そう言うと俊と有希に割り込んだ。
「あの明義さん、俊さんてシャイなのですか?」
「普段は俺に死ねとかしょっちゅう言ってくる、ようはヘタレ野郎なんだ」
俊は眼鏡が曇っていて、壮大な魔界ガラの滝は見えそうもなかった。
みんなが交流する中、遙は孤独だった。こういうタイプでは以前はなかった。家でも戦闘でも責任感を感じ過ぎて行動に制限が出来てしまった。
お昼はお弁当あるからこの滝を見ながら食べよう。
「遙、弁当だ。お前の好きなソーセージもあるぞ」
厳しい顔で滝を見ていた彼女の顔が急に幼くなった。でもきっとこれは演技だ。
「遙おかしいかな?みんなを守ろうとするのってダメなのかな」
「春香はもうお前に近い戦闘力がある。一人でやろうとしないで皆にも任せろ」
気を遣わずに言いたいことを彼女にぶつけた。
「そう思ってはいるんだよ。だけど最近の敵は強すぎて」
「悪いことじゃないぞ。お前が一番強いんだから、でもやり過ぎだ」
明らかにしょげた顔をしていたが続けた。
「家庭の管理も俺しか出来ない。だから遙はぼーっとしててくれ」
魔界ガラの滝から戻るとみんなそれなりに疲れていた。俊にはチャンスだから行けと後押しした。俺は遙に強く言い過ぎたので、彼女の部屋で参考書を読んでいた。
「私はダメな子だったんだね。みんなの言うことに従うよ」
「ダメじゃない。魔法少女は一人じゃない。みんなで戦うんだ」
一人称が変わってしまったので相当凹んでるようだった。
「魔法少女だからって無理することはないんだ。怖い時は引いていいはずだ」
「うんそうだね、ちょっと力み過ぎてた」
誰かが言わなくちゃいけないことだった。
遙がリーダーだからといってすべてを背負う必要はない。そのために春香がいる。真琴も相当強いし、啓子と有希は進化した。
「そんなことどうでもいいから温泉行こう。活火山魔物に」
小さく遙は頷いてくれた。
今日はどういう訳か服を脱ぐのを躊躇っていた。距離を感じてしまったか。
「変身していいぞ。遙の裸見たくて来た訳じゃない。リラックスしてくれればいい」
言われた通り遙は変身して湯船に浸かった。赤の淵に白いレオタード。それを間近に見れるだけでも興奮が止まらない。が、遙のために見ないで目を瞑り湯に浸かった。
「脱いでいいんだっけ?明義との距離感も分からなくなった」
レオタードの肩紐をに手を掛け遙が悩んでいた。
「俺は見たい。でも遙の気持ちが大事だ。分かんないならそのままでいい」
ここの温泉は暗いからあまり良く見えない。だから真琴と俊も最初はここにしたんだろう。俺と遙は無邪気に全裸で入っていた。それすら覚えていないのか。
スーツの上を遙は思い切って脱いだ。薄暗くてよく見えないが、とても見慣れた裸体で乳房だった。しばらくすると彼女は全部脱いだ。
「こうだったね。忘れててごめんね、頭が他のことで一杯になってた」
「見せてくれてありがとう。きっともっと思い出すよ」
そう言って遙の裸体を上から下までしっかりと見た。
俺だって彼女が四人も居て、どう対応していいのか分からなくなることがしょっちゅうある。当たり前だが無理が有り過ぎた。遙と俺はたぶん同じだ。みんなを纏めることに精一杯で、自分がどうしたいとかそういうことを見失いがちになるんだ。
「ここに居たんですね。探しました」
そう言って超速で有希は全裸になった。
有希はぶれない。それは性格もあるが、背負ってる物の大きさが違うからなのかも知れない。無邪気に湯に浸かる彼女が微笑ましかった。
のぼせてしまったので、そのまま活火山魔物ホテルに泊まることにした。三人になったが俺には特に問題はないが、今の遙は気にするかも知れない。
「下手だが卓球やろう。負けたら脱ぐ」
明らかに有希は下手にプレーして、遙が優勝してしまった。
「イカサマは禁止、だから有希は負けね」
どっちみち負けだから実質有希の策の嵌ってしまったが。イカサマは脱げないという項目を追加した。有希は不満だった。俺も不満だった。
「有希、遙が自分を見失い掛けている。俺も頑張ったが限界なんだ。お前からもいろいろ言ってやってくれ」
祈りを込めて有希に託した。
「以前は二人はとてもよく似ていた。いつの間にか遙だけが変わってしまった。また三人で狭いアパートに居た頃に戻って欲しいんだ」
「遙、もしかして明義さんを好きな気持ちまで忘れてますか?」
有希はいきなり核心に突っ込んだ。気が付いていたんだ。
遙は言葉が出なかった。春香、有希、啓子を応援しているうちに自分の気持ちを抑え過ぎて分からなくなっていた。
「それではあの家には居られませんよ。早くその奇病を治してください」
変な表現だと気が付いていたが、遙は小さく頷いた。
いつか家庭の危機が訪れることは知っていた。だけどそれが遙だとは思ってもいなかった。啓子に心を砕き過ぎたのが悪かったのだろうか。確かに遙はいろいろと後回しになっていた。俺の責任も明らかなので、遙が家を出る時は俺も出ると有希には宣言した。
難敵ドラゴンを助けたあとで、魔界ガラの滝の滝に行く少女たち。そこで深刻な問題が浮き彫りになる。自分を犠牲にし過ぎた遙の精神が崩壊していた。明義は彼女に気を遣わなかったことを後悔し、彼女を元に戻す決意をする。




