【40】有希
ゴーレムによって破壊された神殿。そのお陰で地下室が発見された。魔界図書館の蔵書にも載っていなかった恐ろし気な魔物が、数体壁に書かれていた。ファントム級かそれ以上か、戦ってみないと分からないのがもどかしかった。
新学期が始まり魔法少女たちと俊と俺は登校した。友達だった誠二とは目も合わせない関係になったのが辛かった。だが会話もできず逃げて来る男に啓子を渡したくは無かった。
「ヤったのか?ヤっちゃったのかロリ真琴ちゃんと」
からかうと豪快な小外刈りを喰らったので、俊は復活したようだ。
「春香ちゃん、英語教えて」
遙が珍しく勉強をしていた。
「いいですけど、兄のがずっと分かると思いますよ」
「それは知ってるけどね。受験の邪魔にはなりたくないんだよ」
彼女の中で変化が少しあるようだ。
今日は有希と待ち合わせをしていた。ホテルに泊まったのに何もしなかった彼女は最近機嫌が悪い。誰かと上手く行ってもそれだけじゃダメなのがきついところだった。
「え、湯島?いいけど変なこと企んでないよね」
そう言っても彼女は何も言わないので企てがあるようだ。
まずは上野の動物園に行き、湯島寄りのカレー屋に行くことにした。
「美味しいですね。フルーツの甘さが辛さを引き立ててくれています」
食事担当の有希らしい感想だった。
それにしてもここから歩いて五分で危険地帯に着く。魔界の宿屋ではなんの問題もないが、都内だと条例と言う壁がある。
「君たちまだ高校生だね?こんなところを歩いて何をしている。まさかラブホテルに入ろうとか考えてないだろうな」
流石警官の多い都内、あっという間に嫌疑を掛けられた。
「なんとか警察署には連れて行かれなかったが、諦めた方がいいぞ」
仕方がないので二人で喫茶店に入った。
「三番目と言うのは理解してます。でも啓子が入って四番目になるのは...」
「そう思わせたのなら謝る。他の三人と愛情は変わらないよ。むしろ理解が早いので、最近は雑用みたいなことをさせてごめんな」
やはり順番のことは気にしている。それは全員同じだろう。
「千葉方面に行こう。あの県は緩いから受付居ないところ選んでさ」
なんでそんなに詳しいのか尋問されたが、逮捕を避けたいからだと答えた。
「制服だから着替えは要らないね。下着ならこのかばんに洗濯済みが入っているから大丈夫」大丈夫じゃないことを言って有希を落ち着かせた。
こういう大人な場所は初めてなので有希はきょろきょろしていた。
しかしガラス張りの風呂は基地で慣れていたのでなんとも思わなかった。
朝は早く起きなきゃいけないので大の字になって寝てる有希を起こした。
充実した夜を過ごしても翌日は学校だ。遙はまだ俺の受験を応援しているみたいなので再ブーストを掛けることにした。
「また夜食を持って行きますね」
気が利く有希は大好きだった。
それでも魔物との戦いは気になる。遙の背に乗ってまた神殿に行った。新しい情報がないかと調べたが、魔物の名前すら分からなかった。
「また太陽に行こうかな。あそこが一番シールドがきつかった」
「今までで一番危険な場所じゃないか。無茶せず力を付ける方法はないのか」
彼女は指を咥えて考えていたが、どうせ無茶なことを思いつくのだ。
遙は高地トレーニングという新しい単語を手に入れ、生身で筋トレを行うことを考え付いた。魔法少女に必要かと言われたら甚だ疑問だが、やる気に水を差したくなかった。そこでゴーレムの居る山々の更に300km先の山岳地帯で合宿をすることになった。
「行ってもいいけどまた寒いんでしょ?暖房器具使えるかな」
そう言うと有希から無言でカトラを渡された。
「ファンとして誠二も参加させていいか?まだ未練があるようだが」
「・・・」
俊の言葉に俺は何も言わなかったので参加することになった。
啓子に関してはきっとまだ今の生活に馴染めないでいる。誠二が本気で取り返しに来たら危ない気がした。だが他に彼女を三人抱えてる俺に何か言う資格はなかった。
「啓子、誠二が見に来る。反対したんだが俊に押し切られた」
俺が反対出来なかったことには触れなかった。
「そっか、うんいいよ。謝らなくちゃいけないし」
揺れる乙女の啓子を、短い間だったとは言え元カレには会わせたくなかった。元さやに戻るのが最適解だとしても、もう手放したくはないのだ。
高地トレーニングについては春香が調べ、長距離走を中心にメニューを組み立てた。身体がなまっていた男どももやることになった。
遙たちは元々体力がないので、例外の春香が鼓舞し頑張っていた。
男の方はと言えば、俊と俺は体力の塊だったが、受験と魔法少女支援活動で相当に訛っていた。誠二は論外な程軟弱だった。
「真琴はわりと頑張ってるな。胸の抵抗が少ないからかも知れないな」
受験で訛っていた俊の攻撃は簡単に躱せた。
それより筋トレすらしたことがない誠二は問題だった。超進学校にはわりと多い、背が小さく勉強だけできるタイプだった。
「走るのはしんどいな。明義、格闘をしよう」
俊がそう言うと思っていた俺は上半身裸になった。
「一応オープンフィンガーグローブだ。これなら五分に近いな」
誠二が取り敢えず審判役だが、戦う二人で辞め時を決めることになる。
上半身を掴めないと柔道家はわりときつい。離れて隙を狙う俺はコツコツとローキックを決め、俊の膝から下は腫れあがっていた。
「これ以上やったら折れる。止めるぞ俊」
悔しそうだったが、本当のことだったので勝者は俺になった。
「紫色になるまで耐えるなんて男ってほんとバカ」
啓子が心配してヒールに駆け付けてくれた。
そしてその姿を誠二は見つめていた。明らかにまだ好きな目だ。
「誠二さんお久しぶりです。なんかいい加減なことしちゃったね、ごめん」
啓子らしい謝罪だったが誠二は黙っていた。
雰囲気が良くない気がしたので、俺は啓子を連れて女子チームに向かった。
四人も彼女が居て一人も手放したくないというのは天罰級の我が儘だとは思った。それでも今の我が家に馴染み始めている啓子を手放したくなかった。
小石を投げながら俺は女子チームのトレーニングを見ていた。どこで買って来たのか、有希が用意したブルマがとても似合う五人だった。
「一人余るからストレッチ付き合って」
啓子に言われて途端に元気になった。
両手を頭の上で組んで引っ張り合うストレッチは楽しかった。いや、啓子に声を掛けられたのが嬉しかったのだ。
昼はキャンプをして夕方家に帰る。受験生の俊と誠二に泊まり込みは無理だ。
高地トレは長期でやらないと効果がないからまだ続けるという。男三人は休日のみ参加というところで折り合いを付けた。
「俊、誠二を連れて来た理由を教えてくれ。チャンスをやるのか?」
「それもあるんだが、啓子を見ててまだ未練があるかも知れないと思ったんだ。そんな状態はお前だって嫌だろう」
考えていることは同じだった。啓子のためにもはっきりさせた方がいい。
啓子のことばかり考えている訳にはいかない。張り切り過ぎる遙の暴走も止めないといけない。だが彼女はリーダーとは言え何故ここまで頑張るのかが分からなかった。魔女の血を引く宿命なのか他に理由があるのか聞かないといけない。とは言っても本音は隠す遙だ。簡単には本音は引き出せないだろう。
「有希、お前が魔法少女のリーダーだったら遙ほど責任感を持って頑張るか?失礼な言い方だが遙はちょっと常軌を逸してると思うんだ」
「私は与えられたことをやるだけの下っ端がいいです。どうも先頭に立ってみんなを引っ張るタイプではないです。だから遙のことはわからない、ごめんなさい」
そう言われ有希が謝罪する必要は全くないと伝えた。
「お夜食お持ちしました」
最近は勉強してることが少なかったのだが、始めると聞いて有希はまた来てくれた。こう言う律儀なところは本当に可愛い。
今日は寝転んで本を読んでいた、ミニスカートで。中身が見えるので勉強に集中できない。丸い絨毯を逆さまに回しても、すぐに体制を変えて見えるようにしてしまう。この子は俺の子供が欲しいのだった。あからさまに誘惑してことに及ぼうとする気概のある女の子だった。
「千葉で出来たかも知れないだろう。気が散るから見えない様にしてくれ」
そう言うとお腹を摩り始めた。いくらなんでもそんなに速くは出来ない。
有希は読書に飽きたので春香の部屋にペット三匹を取りに行った。新ペットゴーレムは強いからこれまでのペットを虐めるかもしれないと心配したが、むしろ二匹を可愛がっていた。トマトに噛ませ、カトラに噴火されてもまったく動じなかった。
「成績どうなのですか。私たちのせいで成績が落ちたと聞きましたが」
「そりゃ落ちるよ。パンツが後ろに見えたら勉強どころではない」
すると部屋に行ってスウェットに着替えてきた。
「見えてたものが見えなくなって悲しくて勉強できない」
するとスウェットの上下を脱いでしまったので、上だけシャツを着せた。
「結局見えた方が良いのでは?」
答える代わりに股間を固くしながら親指を立てた。
この子は親御さんに『T大合格濃厚の優良物件』と言ってここに来た。有希のためにもう一度頑張ろうと思い、彼女を自分の布団に仕舞い徹夜級の勉強をした。
寝顔が可愛かったので小さくキスをしたら有希は起きてしまった。寝ぼけながら彼女からもキスをせがまれ何度もした。
「四時に起こしてしまい悪かった。俺は二時間寝るから起こしてくれ」
そう言って気絶するように俺は寝た。
目覚ましで午前六時に起こされた。有希はきっとキッチンで朝食の支度をしているのだろう。この子と二人だけで過ごした半月を思い出していた。順従で大人しいが、やるべきことは言われなくてもやる彼女が好きだった。
キッチンに行くと有希におはようと挨拶し、眠気が取れないのでシャワーを浴びた。有希は地球上で五番目以内には可愛い女の子で、俺の三番目の彼女だった。
「お前は啓子以外とは本当に順調だな。真琴に振られそうになったからそのことは尊敬している。なにか秘訣でもあるのか?」
「俺はへたれ野郎じゃない、それだけだろう」
言葉のボディブローが俊のみぞおちに入り、彼はしばらく動けなかった。
「また始めたよ勉強。来月の模試でA判定に復帰する」
目指すではなく堂々と言い切った。
本気で勉強したことないのに、つい最近までこの超進学校で三番目だった。本気に目覚めた今なら確実だと信じていた。
「お、今の三位が来たぞ。こっちだ誠二」
無視する訳には行かないので挨拶だけはした。
「明義すまない。未練がましく思うだろうがまだ啓子が好きなんだ。譲ってくれとは流石に言わない、チャンスだけはくれないか」
「言う相手を間違えている。啓子は逃げないから直接メッセージでも入れとけ」
啓子を放棄した訳じゃない。彼女の意志の確認でもある苦渋の決断でもあった。
食事を終え啓子と二人で洗い物をしていた。少し触れ合う距離が良く、二人は凄く仲が良くなったように感じる。手放せ?殺してでもそいつを止めてやる。
「何、明義ちゃん怖いよ?何かあったの」
まだメッセージが届いていないのだろうか。
「誠二が啓子を奪い返しに来ている。殺してでも止めたいがそうはいかない。だから卑怯だがお前に選択を委ねた」
「私まだ信用ないのかな。逃げそうに見える?」
「そうは思わない。だが啓子が好きなのは誠二ではなく一対一の普通な恋人関係だ。それについてはまだ変わってない様に見える」
言っちゃいけないのだろうが、避けて通れないので直接言った。そして誠二を逃げ道に出来ない様に楔を打ち込んだ。呪いの釘だ。
「遙、有希ちゃんを譲って。今日は一緒に彼女と風呂に入りたい」
二人で湯船に浸かりながらチラチラと彼女は俺を見た。
「珍しいですね、独占欲みたいなものを感じました。でも勘違いはしていませんよ。私にはそれだけの魅力はないですから」
これだけ大切にしてても分かって貰えないのだろうか。
「独占したいの、有希の全部を。お前がここから逃げたら死ぬ、確実に」
ゆったりとした優しい表情になって有希が頷いた。
「たまには遊びに行こう。この前の雪山がいいな」
すぐに有希に乗って6000mのかまくらを目指した。
極寒のデートとは馬鹿げたことだが、吊り橋効果で有希との仲がもっと良くなるかも知れない。ペット三匹を檻に入れて二人は飛び立った。
「ゴーレムのこの光暖かいんだな。雪が溶けちゃうかも知れないな」
カトラでお湯を沸かしながら快適な雪山デートになった。
暖かさで気が緩んだのか、有希はうたた寝を始めた。無理に起こす理由はないのでそのままにして置いた。身体を寄せ俺を信用し切ってる彼女が可愛い。
魔法少女の戦闘スーツはかなりエロい。変な気持ちになって来たので外に出た。おしっこはが瞬時に固まる危険さだが、今は刺激が欲しかった。
戻ると有希はもう起きていた。顔が真剣なので聞いてみると敵性反応を感じたという。しかもこの山岳地帯で。前の特訓で怒った山でも居たのだろうか。
「まだ大きな脅威は感じません。ですが本気で向かってくるなら潰すまでです」
「分かった。だけど有希だけの単独行動は絶対にダメだ。その時は遙を呼ぼう」
せっかくのデートに水を差されたが、頭の中は寒さで冴えていた。
そう思う間もなく遙たちがやってきた。それ程の敵性反応だったのだろう。俺はかまくらに戻り、みんなの行動を見守った。
「カトラ?悪い山も居るのか?」
ペットに話し掛けたが彼は悩むだけだった。
この山では散々暴れた。お陰でここの標高はもう6000m無い。それに脅威を感じた雪山魔物が居てもおかしくはなかった。
轟音がして山が噴火した。ここに居ると危険だということで麓まで有希に降ろされた。流石に6km先の夜の彼女たちは見えない。
「やはりここでも危険でした。基地まで送ります」
「いいけど超超距離無線には出てくれよ。そしてお前は無茶するな」
そう言うと有希は頷いた。基地が近づいたので胸を触ると緊急着陸をした。
「お前も来たか。真琴に呼ばれてここまで連れてこられたんだ」
俊も待機していた。
彼女たちと一緒に居て、魔界の入り口はすぐに出せるようになった。同時に敵意に関しても分かるようになってきたのだが、それを今回は感じなかった。
「遙、こっちからの敵対行動はするな。カトラと同じタイプかも知れない」
遠距離無線でそういうと遙は納得してくれた。
「レッド・ペガススは付いてきて。私が説得する」
一番魔界語を理解する啓子が動いた。
レッドのシールドは山の噴火如きではびくともしない。最接近して山頂に降り立ち啓子は説得を試みた。活火山魔物はわりとすぐに収まってくれたからだ。
カトラもそうだが、山型の魔物は目が吊り上がっている。この雪山魔物も同じだったので、顔の部分を伝って目の下辺りまでレッド・ペガススは下降した。
「この間はこの辺で暴れてごめんね。悪気はなかったんだよ」
この一言だけで雪山魔物は噴火を止めた。
後から駆け付けた三人も一緒に謝罪をして、彼は納得してくれた。ただし壊した山を元通りにしろという要求を突き付けられ、これは呑むしか無かった。
「あの、子供さんはいらっしゃらないのですか?」
有希は聞いてみたが居ないと言うことでがっかりしていた。
取り敢えず戦わずに今回は済んだ。仲間になれるかはわからないが、言葉が通じる魔物は貴重だった。深夜に差し掛かっていたので基地に戻り、そのままシャワーを浴びて寝ることにした。最近有希に甘えてる俺は彼女と寝ることにした。
「若過ぎる気がするけど子供本当に欲しいか?」
すると彼女は興奮気味にうんうんと頷いた。
それでもやっぱり若過ぎるのでその日は何もせず先に寝た。
一回だけで出来ることもあるので、この間出来たかも知れない。ただ危機回避と言うのは可能性を低めることだと言い訳して有希の夢を見た。




