④終わらない兄妹
魔法少女たちは順調に強くなっていた。しかし明義は実妹春香との問題を解決できないままだった。
今日はある目的で小屋にきていた。この小屋という呼び方をなんとかしたかったのだが、どう見ても小屋なので変えようがなかった。
「みんなの身長、体重とスリーサイズを測るので並んでね」
「ちょっと待って、なんでスリーサイズまで測るのよ」
ブルーに異議を唱えられたが世論の要求で仕方がないのだ。
もう既にメジャーを持った遙が準備していたので、みんなに拒否権はなかった。
「遙のはあんたが直にはかるんでしょう。いやらし過ぎる!」
イエローにそう言われたが、「私は部屋を出るし遙のは誰かが測ればいいだろう」と言ったらみんな納得した。
表に出ると何か嫌な空気が漂っていた。そろそろ敵が出るんだろう。
「出たわよ身体測定の結果」
それを見ながらイエローの方を見たものだから思いっきり殴られた。
ピンクの数値に驚きを隠せなかったことは顔にでないようにしないといけない。あと遙は小ぶりで良いなと悦に浸っていたら本格的に敵が現れた。
「いくよみんな」前回の戦闘から遙が掛け声を掛け先陣を切るようになったらしい。一人だけ超火力攻撃ができるので当然ではあった。
案山子型の魔物で掴みどころがなかったが、いきなり回転して空を舞った。
「はああああ」ブルーが蹴りを入れると反対方向に回った。ピンクのパンチも効果がなく、またイエローとレッドに任せることになった。
レッドが必殺の攻撃をしようとしたところでイエローが止めた。
「今回は私がやるわ」そういうと手を前に組んでから両手を大きく開いた。イエローのスーツは可愛らしい黄色のボディスーツだった。ちょっとスク水っぽいとこがチャームポイントだ。
両手を天に掲げ大きな電撃のようなものを溜め込むと、その手を敵に振り下ろした。威力は遙並みで、あっという間に案山子は燃えやがて黒焦げになった。
殊勲のイエローは私に抱きつこうとしたが、既に駆け付けていた俊の方を指さすと真っ直ぐそっちに向かった。
恒例のお菓子パーティをしたが、ブルーとピンクにはその横で反省会をした。
「二人ともいつまでも効かない物理攻撃じゃダメだ。せめて拳になにか魔法的なものを纏うとかしないとみんなの足を引っ張るぞ」
俊の言葉に二人はしゅんとしていた。
「どうしたらいいかな二人の強化」その前にイエローの強化したのは俊か?なら強化メソッドを作るのはお前がいいだろう。俺には洗濯がある。
「イエローにキスしたんだよこの間の海の帰りに」強化の道が示された。恋が彼女たちを強くするなら二人にもそうしてもらえばいい。
「難しいな、いや、無理かも知れない」そういうとブルーとピンクから不満が出たので、レッドとイエローが強くなった理由を言った。
二人はその理由を聞き肩を落とした。二人のスケコマシにはもう相手がいる。じゃあ自分たちはどうすればいいんだと憤った。
「どうする?諦めちゃうか」そう質問したら二人とも私の顔を指さした。
しばらくして意味がわかり俺は強く拒否した。
「遙ずるいんだよ。いきなり告白して受け入れられて。私たち二人とも狙ってたんだからね」思わぬカミングアウトに驚いた。遙が初めての相手なので俺は奥手だったからだ。それがもう二人も狙っていたとか信じられなかった。
「もう一人いるでしょう、妹ちゃんが。兄が不細工ならあり得ないからね」
ただのシスコンの下着好きがモテるなんて考えてもみなかった。ただ二人も強くなりたいと願っている以上叶えてあげたかった。
そこで俊と俺二人と疑似恋愛してやってみようかと言ったらイエローが猛烈に反対してきた。人の彼氏に手を出したら容赦しないと。
「遙、という訳で恋愛ごっこしてもいいかな?」もの凄く遙が嫌がったのでこれもダメだった。
「生徒会長の俊は厳選した男だったんだよね。学校に他にいい男いるかどうかはわかんないや」遙と帰宅しながら俺は言った。
「愛情で強くなるなら、なにか情熱的なものでもいいんじゃないかな」
遙の意見に頷きながら、パッションを高める方法を模索することにした。
静かに考えたいので、この謎空間を歩いてみることにした。ただどちらかと言うと情熱とは正反対の癒しのスポットが多かった。
「要塞!これは燃える場所ではなかろうか」そうして中を除くと、中世の生々しい戦闘の跡がたくさん見つかった。こういう場所で沢山の戦争が行われ兵は死んでいったのだろう。隅々まで眺めて使えそうだと感じた。
「ブルーとピンク対イエローとレッドの演習を行いたい」
そう唐突に言い放つと、特にブルーとピンクが弱気な発言をした。二人には敵うはずがないともう決めつけていた。
「籠城戦ならなんとかなるはずだ。二人には銃を持ってもらう。それにお互い出力を抑えるので死ぬことはないやって見る価値はあるぞ」
人質は私だった。イエローとレッドに攫われたら負け。イエローとレッドを倒したら勝ち、制限時間持ちこたえても勝ちという条件で無理矢理戦闘訓練をした。
「明義さん、正直二人の火力が怖いよ。本当になんとかなるの」
「君たちは絶対に死なない。でも生身の俺は死ぬかも知れない。だから守ってくれることを期待している」
そのことを聞いて二人は血の気が引いた。だけどもう演習は始まってる。覚悟を決めて二人は敵二人に対峙した。
ブルーのマシンガンが二人の侵入を阻んでいた。ピンクはパンチでイエローとレッドの攻撃を凌いでいた。レッドの必殺技がやってきた。ピンクは拳に赤いオーラを纏いその攻撃を凌ぐパンチを放った。
「ブルー、イエローの攻撃が来るからパンチで跳ね返して見せろ!」
青いオーラを纏ったそのパンチはイエローの攻撃を粉々にした。
「よし時間終了。君たちの勝ちだ」そういうと二人とも嬉しそうな顔をしたが、戦闘のプレッシャーで倒疲労困憊だった。
滅茶苦茶な演習だったが、ブルーとピンクは打撃にオーラを纏うことに成功した、「明義さんやり過ぎなんだよ。私たちが負けてたら死んでたんだよ」信じていたから大丈夫。だから危ないとは思ってなかった。
この演習の危険さをを聞いて遙にビンタを喰らった。謝罪したが涙を流していたので許されなかった。「自己犠牲はやめなさいよね。周りに迷惑を掛けるだけよ」イエローには常識的な説教をされた。俊はこいつはおかしいからと言った。
しかし勝ちは勝ち。ブルーとピンクを連れて食事に行った。あまり食べたことがないイタリアンを奢ることにした。
「明義さん、みんなを攻略しようとしてるの」ピンクがそう言ったが首を振った。みんなが戦闘で死なない様に特訓しただけと伝えた。
「明義さんって人の言うこと聞かずに突っ走りますよね」
「それについては否定しないが、妹との問題を早く信頼に変えたいんだよね」
そこまで春香ちゃんの問題で苦しんでるとは遙は思わなかった。なんて言ってあげたらこの人は安心するんだろう。その答えが見つからず悔しかった。答えが見つからないまま手を繋いで歩いた。
塾にも行かなければいけないので特に夏休みは忙しい。
「春香ちゃんより遙ちゃんだろ、そこだけ間違えなければいいよ」
俊の言葉はいつも完結だ。だが毎日春香には会うんだ、避けようと必ず会う。その問題がどれほど大きいかお前にはわからないだろう。
模試の結果が出たが結果は良くなかった。魔法少女たちの手伝いと勉強の両立は極めて難しい。だが俺は俊を抜くと決めてるんだからそれもやる。
「俺を抜くのも結構だが、大事な事の順番を間違えるなよ」心を読まれまた忠告を受けた。ただ有難い友だ、俊は。
「ん、春香か。迎えに来てくれたんだなありがとう」肩を抱いて塾を後にする姿を見た俊は、確かに簡単ではないなと納得した。
春香の部屋で珈琲を飲んでいると彼女は言った、「小学生の頃から恋人みたく過ごしてきた。最近はツンデレ混ぜてごめんなさい」
そのせいで春香には嫌われてると思っていた。だから片思いシスコンなんてやってたんだ。だが真相は彼女は俺が春香を好きなこと以上に俺が好きだった。
「済んだことだからいいんだよ。気が付かなくて本当に済まなかった。早めに気が付いていたら接し方を変えることもできたんだから俺が悪いんだ」
「もう一度やり直したいお兄ちゃんと。今度は素直になるから捨てないで」
「兄妹だから捨てる捨てないはないんだよ。だけど実妹を愛することはできない。俺は自分が思っている以上に普通だったんだ。済まない」
そう言って俺は自分の部屋に行き、部屋の鍵を閉めた。
これで終わった訳じゃない。春香の気持ちを折らないと先に進めない。
お台場海浜公園で遙とデートしていた。
「この隙間にカニがいるんだぞ。上手くやれば棒で釣れることもある」
今日は親からわりと大金のお小遣いをもらってきたので、デート後彼女をホテルに誘うこともできる。だがそういう無謀な考えは捨てなきゃならない。健全な付き合いって何だろうと考えていた。
「ブルーとピンクも強くなったし、しばらくは安全だな」
無難な話をして話が重くならないようにした。
「食事前に変なものが現れたな、自信を持って戦ってこい」
既に着替えてる彼女は笑顔で飛び立っていった。
今度の敵はまるで闘牛士みたいに赤いマントを持っていた。レッドが飛び込んで失敗しないといいが、そう思っていたらレッドが掴まってしまった。
最近付けた無線で彼女たちと交信ができた、「イエローの技は使えなくなったので、ブルーとピンクの徒手格闘が有効だ。行ってこい!」
二人は間合いを詰めて、敵に格闘戦を挑んだ。色の問題でマントには捕まらなかった。躱すだけの敵にブルーの青い焔の拳が炸裂し、捉えられていたレッドは解放された。後はイエローが決めるだけなので後の三人は隠れ、イエローの電撃が敵を砕いた。
「わりと楽勝だったね」戦闘からデートに戻った遙に言った。
「いえ、何故か突撃して囚われた私のミスです。みんなに迷惑掛けちゃった」
「赤だから突っ込んじゃうのは仕方なかったんだよ。鍛えたブルーの拳が炸裂してよかった。まあこんな日もあるよ」
遙は納得していなかったが、仲間が無事でほっとしていた。
「そんなことより今日は楽しもう。電車で葛西臨海公園に行きたいんだが」
遙の了解を得て東葉線で東に向かった。
「マグロの回遊よかったね。他にもたくさんの魚がいたし」
「ペンギンが可愛かったです。また見に来たいですね」遙は嬉しそうだった。
「次はディズニーランドで遊んで映画を見ようよ。あっという間に一日が過ぎちゃうくらいに楽しいよ」俺が抱えてる問題から逃げてるように遙には見えた。
「聞きたいかやっぱり。春香とのことを」遙は頷いた。
「あいつはまだ俺のことが好きだ。もう一度やり直したいと言ってきた」断ったが毎日顔を合わせなきゃならないので苦痛だ。考え方を返させるのできない。
「例え独り暮らしをしてもあいつは付いてくる。いや、今よりもっと求めてきそうで怖いんだ」遙は聞き入っていたが問題の根が深すぎて解決策がわからなかった。
ここまでだ。我が家の問題で遙に辛い思いさせてごめん。必ず解決させるから待っててくれ。信用できないかもしれないが。
「待ってるよ」そう言って彼女はキスしてくれた。
「それはそうと今度魔法少女たち四人と俊と俺とでまた出かけたいんだ。これは誤魔化しや逃げじゃないから信用して欲しい」
「お兄ちゃん待ってた」下着姿の春香がそこにいた。無理なんだ、諦めてくれ。じゃないと親にこのことを言う。
春香が泣いたので俺はベッドに彼女を押し倒した。すごく長い時間そのままでいたが、理性で自室に戻った。
深刻すぎる問題に理性だけで戦う明義。解決することはできるのか。