【36】ゴーレム
列車は目的地魔界最大の都市についた。大きなビルもそれなりに立ち並び、今までの街とは違った。特別に観光したい場所は無かったので春香を連れて魔界国立図書館に立ち寄った。敵性魔物についての情報が欲しかったからだ。
昨晩は啓子を部屋に泊め、俺は誰もいない一般車両で寝た。身体は痛いが仕方がない、誠二のところに啓子を返すことはしなかった。
「このゴーレムって神殿にも載っていたし、有名な魔物なのかな」
春香の問いにたぶん大物だと答えた。
「どうも居る場所わかってるようだ。逃げないというのは自信があるんじゃ」
少し春香が考えていたようだが、たぶん同じ意見なのだろう。
「こっちから先制攻撃してもいいんじゃないかな。だだし強すぎたらすぐに撤退する、それと情報が少なすぎることも気になる」
そろそろ脅威は徹底的に排除したい。しかし無茶をさせるつもりは無かった。
「話しは全然違うけど啓子と誠二さんのことは...」
昨晩、啓子は我が家の子たちと一緒に泊まったが、今朝は戻ってもらった。
「啓子次第かな。うちだって受け入れ準備はしてるけど、俺から来いとは言わないよ。だた誠二の元に帰れとも言わない」
春香には兄の心が揺れてるのが分かった。
残りの六人は魔界タワーに来ていた。真琴と俊とは対照的に、啓子と誠二はぎこちなかった。遙と有希は気が付いてはいたが、そのことには関与しないつもりだ。
「魔界川が近くて壮観だな。誰か真琴との写真を撮ってくれ」
俊はごきげんだった。
二人の関係も初めから順調だったわけではなく、積極さと強引さで彼が攻略したようなものだった。真琴はそんな元生徒会長に惹かれた。
誠二は啓子の優柔不断さに戸惑っていた。自分から迫って置きながら、明義を諦めない彼女に怒りの感情すらあった。
「このコサージュ、啓子に似合いそうだから買ってあげるよ」
彼にとっては未練だったが、啓子は素直に喜んだ。
「ゴーレムの居る山はここから100kmしか離れていないな」
「みんなも先制攻撃に賛成したら行ってみましょう」
兄妹の意見は一致していた。
みんなと遅れて山根春香、明義の二人もタワーに着いた。六人は既に買い物に出ており、二人きりだった。
まるで昔からの恋人のように二人、長い付き合いだから当然だった。
俺はみんなに連絡を取り、旅行中だけど戦闘準備をして欲しいと伝えた。俊から攻撃をしてこない敵に対しての先制攻撃に難色を示されたが、我々はいつもやられてピンチに陥っていた。偵察を兼ねてという理由でなんとか納得してもらった。
ゴーレムは山の麓に堂々と鎮座していた。敵性魔物かどうかを確かめるために、有希と啓子が最接近してみると、恐ろしい速さで接近してしてきた。
「単に近寄る者を追っ払っているのか、敵意があるのかわかりませんね」
有希の言葉に一時様子を見ることにした。
「活火山魔物みたく、見た目は凶悪でも敵対しない魔物もいるよ」
遙は慎重だった。
これでは攻撃は出来ない。空を舞う魔法少女たちへ攻撃は一切して来なかった。魔物図鑑に載っているからと言って敵とは言い切れなかった。
「帰ろうよ。敵じゃないかも知れないなら意味ないじゃん」
啓子の一言で撤退を決めた。
旅の最終日に戦闘をさせてしまったことをみんなに詫びた。これまで通り暴れてる敵性魔物を退治することで取り敢えず意見は一致した。
その後宿に着き、疲れを癒すために部屋に入ってもらった。一人一部屋なので気楽に過ごせるはずで、人間関係を気にしなくていいはずだった。
「一人は寂しいな、明義の部屋行ってもいい?」
遙にそう言われたが、有希の部屋でゆっくりするといいよやんわりとと断った。
ラウンジには俊と誠二が来ていた。誠二とは顔を合わせたくなかったので、素通りしてホテルの外に出た。バーやパブといった飲み屋が多かったが、食事をできるところを探してそこに入った。すると偶然啓子に合ってしまったので相席した。
「旅行はどうだった?啓子」
「分かってるくせに聞かないで。誠二さんの期待に応えられなかったんだから」
彼女は誠二と楽しい旅を楽しむつもりだったのだろうか、なら俺は邪魔者だ。
二人で食事をしている間はお互い無言だった。言いたいことはあったが、重い話なので切り出しずらかった。
ホテルに戻ろうとしたら啓子に袖を掴まれた。
「ちょっと魔界の都市の夜を見て回ろうか」
そうして二人は危険が少ない場所を散策した。元々啓子がいるだけでほぼ無敵なのだが、女の子を守りたいので明るい中央通りを歩いた。
「もう店はだいたい閉まってるようだな。会社の明かりはけっこう見えるが」
啓子は頷いて腕を組んで来た。
相当な距離を歩いて、魔界の高層ビル群まで来てしまった。
ここは明かりがかなり灯っていて、まだまだ仕事で残っている社員が多いことが分かった。夜なので夜景がとても綺麗だった。
「今度ちゃんと遊びに来いよ我が家に。見るだけでいいから」
自分からは誘わないつもりが啓子を呼んでしまった。
啓子は帰ったらすぐ行くと言ってくれた。一対一の普通の関係を啓子が求めているのは知っている。だけどちゃんと我が家を見てもらうのはいいだろう。諦めるきっかけになるかも知れない、あるいは...
帰りは深夜になってしまった。啓子は部屋に来てもいいかと尋ねたが、それについては断った。二人きりの恋人じゃないんだから。
精神的に疲れたので、ラウンジで缶珈琲を飲んだ。
「明義のハーレムに啓子を入れるのか」
振り返ると誠二がいた。
「俺が異常なことをしてるのは知っているだろう。こっちから啓子に声を掛けられるわけが無いだろう」
「そりゃそうだ。それで俺に声掛けて来たんだよな、啓子は」
自虐的になってる誠二だったが、慰めもしないし励まさない。
ただなんでもっと押さないのかが気になっていた。話が会わないからうちの列車の部屋にたびたび来たり、逃げてるのは誠二だと思った。
「ゴーレムがこっち向かってるよ、行ってくる」
遙がレッド・ペガススに変身していた。
魔法少女たちは次々飛び立って行く。深夜とかそういうのは彼女たちには関係ない。魔物から守るために存在してるのだから。
「攻撃はまだ絶対ダメ。昼間近づいたのが原因かも知れないから」
パープル・スターが仲間に指示を出す。
徒手部隊も空に飛び、夜空からゴーレムの様子を探った。するとゴーレムはこちらを見上げるが何もしてこない。こちらが攻撃を仕掛けないことで、月夜を眺める余裕すらあった。
「元居た山に返して来る」
ピンク・プレアデスはそういうとゴーレムに接近し、帰るよう促した。
一番初めに魔界語を習得しただけあって、魔物とも意思疎通ができるようだった。ゴーレムは何度もこちらを振り返ったが、敵意がないことを確認するとそのまま帰って行った。
やがてピンクが帰ってきて、山の麓までゴーレムを連れ帰ったと報告した。
「攻撃されることを恐れてただけだったみたいよ」
彼女はそう言って真っ先にホテルに戻った。
警戒していた大物魔物は敵対するつもりはまったく無さそうだった。先制攻撃などといった迂闊な作戦を立てたことを悔いた。彼らには彼らの考えがあるのだ。
「ゴーレムは都市から近い山に居て街を攻撃をしたことがない。むしろこの魔界を守っているのかも知れない。今後も注視しないとだな」
その可能性が大だった。魔界樹みたいな味方魔物かも知れなかった。
「ゴーレムの子供が取れるといいですね」
魔物ペット愛好家の有希が言った。小さければ可愛いと思う。
チェックアウトまで我々は寝ることにした。いろいろあって目は冴えていたが、無理矢理ベッドで横になり就寝した。
ホテルを出ると、俺は遙、俊は真琴、誠二は啓子に載って基地まで帰った。
啓子のことがあったので、楽しい旅にはならなかった。これは誠二のせいではなく、俺と啓子の問題だった。
「上の部屋でみんな風呂に入ってるぞ。誠二も覗いてくれば?」
俊が見つかって以来誰もやろうとしなかったことだが、誠二は果敢にチャレンジしてやはり見つかった。特に真琴の怒りが凄かった。
「レールガン撃っていいわよね」
流石にそれでは命が無いので、我々三人で謝った。
「男ってどうして女の裸見たがるのかしら。清い交際できないじゃない」
真琴の言うことはまったくもってその通りだが、清い交際じゃ物足りないんだ。
「遙、春香、有希、みんなが帰ったらここで風呂入らないか」
誰も反対しないので四人でガラス張り風呂に入ることになった。
俊と誠二に覗かれないように、春香からもらった銃で入口を溶接した。四人とも一緒に入るのは慣れていたのでスムーズに風呂に入った。
「久々に背中洗ってあげるよ」
遙の言葉に甘え洗ってもらった。有希と春香は隣で身体を洗っていた。
ここに啓子が混ざるのは難しいと思った。彼女は普通の女の子だからだ。
湯船に入ると有希が寄ってきたので、肩を揉んであげた。華奢な身体でか弱そうに見えるが、意志はとても強かった。
まだ遙が湯船に入ってこなかったので、洗い場で頭を洗ってあげた。いつもは全身を洗うことを要求するのだが今日はこれだけだった。
「遙、何か悩んでることでもあるか?」
「いつも遙は悩んでいるんだよ。馬鹿なりに」
そうだった。そういう女の子だった。
「春香のおっぱい揉んでもいい?」
直接的な要求をしたが断られてしまった。春香も悩みがあるらしい。
風呂から出ると、買い置いてあった瓶の珈琲牛乳を三人に配った。
温泉や旅行じゃなくてもなかなか良い感じだった。
その日はずっと啓子からの連絡を待っていた。しかしメッセージはこなかった。無理もない。この特殊環境に彼女が慣れる気はまったくしなかった。なら信頼が置ける誠二に頼みたいのだが、奴は度胸がなかった。そして悶々としながら朝まで過ごした。
いつの間にか寝てしまったが、ベッドの中には春香がいた。昨日断ってしまったからそのお詫びと言われたが、啓子のことを考えすぎていたので断った。
その後庭でペットと遊んでいたが、活火山魔物の赤ちゃんが成長しないことに気が付いた。この子は山になる気がないのだろうか。心配して少し大きめの檻に入れた。
作物の成長が悪かった。大彗星の時に、魔界樹が地中に毒を流したからだ。あれしか魔の木を倒す手段がなかったので仕方がなかった。
「どうもゴーレムが暴れているようだね。様子を見に行こう」
遙の一言でみんなが出撃した。
「コウモリ?空を暗く覆うあれはなんなの?」
パープル・スターが訝しげに言った。
「とにかく魔界の首都まで覆われてきている。まずはこっちからね」
『レッド・ウィング!』レッドの広範囲攻撃でコウモリの数が一気に減った。パープル・スターもリアルラヴを繰り出し空は明るくなってきた。
「みんな逃げて!ゴーレムの凄い攻撃が来るよ!」
ピンク・プレアデスの一言でみんなは建物の影に隠れた。
ゴーレムの攻撃は空を覆い、毒を使ってコウモリを駆逐していた。
敵だとしたら強敵だったが、我々に敵意はなく、むしろ共同攻撃に参加してくれた。街を守る魔物、それがゴーレムの正体だったようだ。
「ありがとうね。街を救うことができたよ」
ピンクの一言にゴーレムは頷いた。ゴーレムはそのままピンクを抱き上げた。
「啓子の彼氏はゴーレムでいいんじゃないかな。異種結婚可能だったと思うが」
誠二へのディスリだった。男らしく啓子を攫うなら俺はもう手を出さない。
ゴーレムによって、魔界では魔物同士の抗争があることがわかった。我々が手出ししていいのか、それについて考えさせられた。




