【34】魔法少女の進路
啓子と誠二は交際を始め、みんなそれぞれ上手く行っていた。戦闘のやり方について怒る俊だが、今後を思ってのことだった。弱敵は来るが比較的平和な日々が続いていた。
活火山魔物への温泉旅行を終えて、そろそろ学年末を迎えようとしていた。もはや受験まで一年を切り、学校よりも自宅学習を重視していたが、遙たちには進級が待っている。しかし人間社会とはどんどん離れてゆく彼女たちは、日々、狩りや釣りをしていた。
「もっと真面目に勉強しないと、高等部の勉強に付いていけなくなるぞ」
有希と遙にはそう脅したが、学校を卒業する意味をあまり見い出せないと言う。
これについては同感だった。俺も受験勉強する意味を完全に見失っていた。人間社会で暮らすには学歴は多少必要だが、魔界のエリートになる気はさらさらないので無意味に感じるのだ。
誠二と順調に行っている啓子は、高等部進学と同時に魔法少女を引退したいと申し出ていた。人間社会でしっかり地に足を付けていきたいので、魔物退治はもう卒業したいのだという。彼女は魔法少女活動で学業が疎かになっていたことも告白した。
「誠二さんって明義さんと同じでエリートじゃん。私も頑張らないと捨てられちゃうかも?なんて少しは思っているんだよ」
啓子には誠二に絞らなくても引く手あまただと思う。
それでも今の彼氏に付いて行こうとする気持ちは素晴らしいし、何より以前より前向きになったことが嬉しかった。
啓子を引き留めるべきか否か、魔法少女会議が開かれていたので飲み物やお菓子を差し入れた。そして、わりと意見が割れてるらしかった。
「戦力としても優秀だし、何より仲間がいなくなるのは嫌だ」
遙は寂しがり屋だ。誰かがいなくなるのは耐えられないのだ。
「啓子の代わりは私が埋めます。彼女が普通の女の子になりたいなら応援したい」
有希は同じ徒手格闘チームの同僚がやめることを後押しした。
春香と真琴は複雑な顔をしていた。啓子の望みを重視するべきだが、仲間との別れがきついからだった。
「引き留めるなら遣り甲斐を与えることかな。賃上げを要求してみる」
正直に言って彼女たちが東京都の最低時給で働くのは間違っている。
賃金を決めていたのは、やはり遙の母親の魔女だった。彼女たちの働きに見合った報酬を要求すると、中学生に大金を与えていいのか悩んでいたと言う。
「大金を稼ぐと人間は天狗になるものじゃ。だから現役魔法少女には最低の金額しか払っていなかったんじゃ。じゃが退職金は稼働年数にも依るが年間三憶円じゃぞ」
金銭感覚が変過ぎて、流石は遙の母だと思った。
「え?そんなに貰えんの!?んじゃまだやる」
啓子は即決した。年間三億円はスポーツスターにも匹敵するので魅力があった。
俺としてもこの金額は妥当かむしろ安すぎると思った。スポーツ選手を通り越して、〇ーロンマスク並みの収入が相応しいとも思った。
啓子の卒業式の日が来たが俺には出席する資格がない。だが彼女には誠二が付いていた。式が終わると彼は肩を彼女の肩を抱いた。最も中高一貫なので形だけだが。
記念の日なのに、魔物は空気を読まずにやってきた。
もはや魔法少女たちとの力の差は明らかだ。何故まだ襲ってくるのかが謎だった。
「ほぼ姿を現さない敵なので、私が目になるからそこに攻撃して」
レッド・ペガススが魔眼に集中したので、他の四人はその目に頼って一撃を放とうとしていた。ただパープル・スターには敵が見えそうな気がしていた。
「今だ。撃って」
そうレッドが言う前にパープルはリアルラヴを繰り出し敵を包み込んだ。
もはや丸見えのウサギのぬいぐるみ魔物に、ブルー・オリオンはコスモソードを叩き込んで勝負はあった。終わってみれば楽勝だが、決して弱い敵ではなかった。
「みんなが強くなって敵を倒せた。おめでとう」
基地で見ていた俺と俊、そして誠二が勝利を祝った。
「楽過ぎる戦いだったけど、また宇宙戦があったらこうはいかない。彼女たちが慢心しないように技の研鑽に励ませるべきだな」
小声で俊に言って、彼も頷いた。
最もみんなはまったく慢心はしていなかった。まだ見ぬ敵の情報は神殿で見つけていたが、登場はしていなかったからだ。
「このゴーレムみたいな魔物ってかなり強そうに見えるね。しかも情報がほとんどないのが気になるよ」
遙はファイルを見ながら気を引き締めていた。
情報がないのは、魔界に来た先人はこれに負けたのではなかろうか。だからその姿しか情報が無いのかも知れない。他にも数体気になる魔物は記してあった。
「有希は戦闘で困っていることはないのか?怖いとかそういうのも含めて」
「いつも怖いですよ。でもみなさんを信じているから特攻できるのです」
いつも健気な有希の頭を撫でた。
春香はどうも一段階上に覚醒しそうだ。素質が開花してきているのを感じた。
誠二と一緒に今まで集めた魔物の情報を整理してみた。これまで倒した魔物のうちで、ブラックホール型だけが記載がなかった。
「未知の魔物はまだいるかもだな。どんどん強くなったらまずいな」
啓子の身を案じてるからこそ、誠二は真剣に資料に見入っていた。
「飲み物どうぞ。真剣に考えていただきありがとうございます」
有希が差し入れをしてくれ、丁寧に誠二に挨拶をした。
「まだやってんの?こっちには無敵の遙様がいるから平気だって」
啓子の無責任は発言に誠二はチョップを頭にした。
「お前が一番弱いんだから、少しは努力しろよ」
「はあい、努力します。三億円で誠二を養うために」
啓子の発言で俺はもう働く必要ないんじゃないかと思ったが、女に養ってもらうことには抵抗があった。かと言って年間三億円は俺には無理だ。
「お兄ちゃん、誠二さん、夕飯ができたのでよろしかったらどうぞ」
妹が料理を頑張ってくれた。どうせ殆ど有希がやったんだろうが。
「ちょっと痺れるな。毒だと思うが平気なのかこれ?」
当たり前の質問を誠二がしたが、慣れたら普通に美味いと答えた。
庭でトマトとカトラ遊んでいたら、誠二が質問した。
「お前は本当にこっちで生きていくのか?俺には想像もつかん」
「俺は三股クソ野郎だからな。人間界では受け入れられない。だから魔界で生きて、こっちで幸せを掴むんだ」
「その理屈だと啓子と一緒でも良かっただろう。何故そうしなかった」
誠二が食い下がったので、「彼女は一対一の普通の関係を望んだ。だからこちら側に誘ったことは一度もない」
そう言うと誠二は半分納得した顔をした。
またしても謎の魔物が人間界を襲ってきた。
全身を砲で覆っていて、強い殺意を感じた。重装備な分動きは遅かったが、立派な装甲とシールドを持っていた。
「両手のガトリング砲がやっかいだ。迂闊に敵に近寄るな」
基地にいる俊が少女たちに指示した。
「大艦巨砲なら上から攻撃を繰り返せばいいだろう。時代遅れ過ぎる」
そういうとブルー・オリオンはミリオンカッターを長距離から繰り出した。
一撃の打撃ではないが、確実に敵の体力を削っていった。
「長距離ビームチームさんには悪いけど決めちゃうよ」
ピンク・プレアデスが一気に降下し大剣を振りかざし敵を真っ二つに切り裂き、敵は轟音と共に爆発した。
「あれはダメだ啓子、迂闊に近寄るなと言っただろう。敵の残弾はまだあったはずで、返り討ちになってた可能性もあったんだぞ」
俊の怒りに触れ、彼女は泣きそうになっていた。
確かにあのケースは長距離ビーム部隊に任せ、その後から有希と啓子が出て行くのが正しかった。ただ目の前の勝利を見ていたらダメなんだ。
「遙はあの啓子の攻撃をどう思った?」
「なんとかなるとは思ったけど、私たちが遠距離から撃った方が安全だったかな。今度はちゃんと指揮を取るよ」
やはり彼女から見てもあまり良くない戦闘だったようだ。
チームワークを深めるために、街から魔界鉄道の旅に出ることにした。
どうせみんな四月までは休みだ。それならゆっくりと遠くまで旅をしたかった。魔法少女たちと俊、誠二も賛成してくれた。
かなり高級な部屋を取ったが、魔法少女なのでお金は要らないと言われた。夜行列車なので四人の部屋を二つ取った。
「新婚さんたち部屋の四人はお楽しみください」
煽ったら俊に袈裟固めされた。
「食堂車は時間があるから気を付けてね。それからずっと車内泊じゃなくホテルの日もあるからね。それからシャワーは各部屋一つだから時間の調整してね」
説明を終えると、二階の寝室に行きすぐに寝た。俺に取っては日頃の疲れを癒す旅でもあった。それからみんなとの親睦を深めることも目的だ。
春香と有希を連れて食堂車に行った。
魔界サンドと魔界サラダが美味しくて、つい食べ過ぎてしまった。連れて来た二人もそんな感じで、食い倒れの三人で部屋に帰った。
「遙はシャワー浴びた?まだなら行くといいよ。みんなは動けない」
遙がそれを聞くと脱衣場まで待たず服を脱ぎ、全裸でシャワーに向かった。
夜の車窓を眺めると、ぽつりぽつりと村らしき所から民家の明かりが見えたが、基本的に真っ暗だった。有希と一緒にそれを眺めていた。
「誠二さん、胸触る?明義さんも触れたことないよ」
「上に俊たちがいるのにそういうこと言うな」
当然触りたいに決まってる特大の胸、だけどそれは今じゃないと彼は思った。
案の定俊と真琴が上から覗き込んでいた。温泉イベントを超えた彼らが少し先輩だった。誠二はタオルを投げつけて野次馬を追っ払った。
「ところで俺はシャワーまだ浴びてないんだ。覗くなよ」
俊の言葉を誠二は完全に無視した。それよりも目の前の巨大な胸から目が離せなかった。彼はこれまで色々な女子と付き合ったが、そういうことはまだだった。
隣の部屋の我が家は色々と進み過ぎていたが故に、夜行列車の旅を普通に楽しめた。有希も最近はあまり求めて来なかった。この家族が長く続くことを確信したのだろう。春香も妹の枠を完全に乗り越えていて、妙な遠慮はしなくなった。そして遙も葛藤をすることをやめた。二人のことを大事に思っているからだ。
「俊、誠二、寝てないなら食堂車にいかないか?少し話がしたいんだ」
もう営業時間は過ぎていたが、サービス残業をしてくれていた。
「まず頼んでしまおう。魔界スープとパンでいいか」
二人ともそれでいいと答えた。
「黒い太陽、彗星の破壊、彼女たち魔法少女はそれすら乗り越えた。そしてこれから来る敵にも勝ってみせるだろう。彼女たちは戦い終えたら普通の少女に戻れるのだろうか。それが知りたいんだ」
「そうするしかないだろう。どんな進路を取るかは自分で決めることだが」
俊の言葉に既に答えは用意していた。魔界に残るなら街の公務員、人間界なら進路を自分で決めることになっているようだと。
「こっちに住むなら公務員か。安定してていいな」
誠二の言葉に、公務員と言ってもⅠ種だぞと付け加えると驚いていた。
「みんなどっちの世界も選べるが、お前たちは人間界なんだろう?」
決めつけて言ってみたが、二人とも答えは用意していないようだった。
「彼女たちが決める。それでいいじゃないか、俺たちはおまけだ」
俊が名言を残した。
部屋に戻ると三人がまだ起きていた。
最後の戦いが終わった時にどうするか、聞いて見たかったがやめた。今はひとつひとつ目的を果たすべき彼女たちに、将来を聞くのは早い気がした。
一階は有希と春香、二階に俺と遙が今日のベッドの振り分けだった。
「遙、嫌じゃなきゃこっちおいで」
小さな声で話し掛けた。
もぞもぞと俺のベッドに入り毛布を掛ける遙に欲情していた。後ろから抱きしめてパジャマのボタンを外してゆきブラを上に上げた。
「珍しく積極的だね、明義クン。好きなように悪戯するといいよ」
お言葉に甘えて胸に触り、パンツの中に手を入れた。
「悪戯までだよ。下に二人いるから恥ずかしいし」
「下じゃないよ?横を見てみたまえ」
遙の言葉で横を見ると、食い入るように春香と有希が見ていた。
遙の衣服を直し、すぐに反対を向いて寝たふりをしたら彼女に噛まれた。これからもこういうことはあるんだから堂々としていなさいと。
冗談じゃない。エッチなことをしてる姿を見られるなんて恥ずかし過ぎる。この感覚には一生付いていけそうになかった。
先の戦闘で啓子がスタンドプレーをしたことで、親睦を深めるために魔界鉄道の旅に出ることにした。それぞれのカップルたちの想いが夜行列車で伝わるのか。




