【33】それぞれの想い
誕生月を迎えた我が家の四人。誕生日会を開催したがその場で問題が起きてしまう。誠二は明義に決闘を申し込むが、彼が勝てる見込みは皆無だった。
巨大彗星との戦いも終わり、二月になった。どういうわけか我々の家族は全員この月に生まれていた。なので四人同時に祝うことにした。しかし遙の誕生日の二月十四日に誕生日会を行うと言うと、他の家族から不満の声が上がった。遙だけ贔屓してるとかそういうのではなく、バレンタインデーだったからだ。
「チョコくれるならありがたいけれど、遙の誕生日でもいいんじゃないか」
この発言にもクレームが付いた。
早くイベントを終わらせたいので、女子の誕生日と重ならない二月十五日に開催が決定した。この日は俺の誕生日でもあった。
放課後学校の屋上から校門を見ると、啓子が誠二と揉めていた。しかし、頑なに啓子を拒否する彼は、啓子を置いて帰ってしまった。誠二が断る訳はわかっていた。
俺が完全に啓子をフっていないからだ。この件では100%俺が悪い。啓子にきちんと告白を断らなくてはならなかったからだ。しかし、俺が近づいたら必ず啓子は逃げた。変身して飛ばれたら追いつきようがなかった。
家に帰ると春香が野菜の収穫をしていた。冬がない魔界なので作物は作りやすかった。人間界の野菜でも作ることは可能だが、土壌の関係で魔界の物が適していた。
「魔界レタスと魔界白菜が良くできたよ。冬じゃないけど鍋にしようね」
ここで暮らし始めてから妹は家庭的になった。料理はイマイチだが。
具材を有希に渡すと、手際よく切り分け魔界鍋ができた。
遙と俺は食べるだけ係りだった。後片付けはするが。
「このサーモンっぽいやついいね。体力付きそうだよ」
元気に鍋を食べる遙を見つめていたら、自分の分が無くなっていた。
春香たちはもう一度野菜を収穫し、あんこうもどきを有希が釣ってきた。
あん肝もどきを食べながら、三人が仲良く連携している様に安堵していた。
「みんなが仲いいから俺は満足、家族だって実感してる」
裏を返せば争い事があることに怯えているの意だが、今夜は素直に喜んだ。
「誠二が啓子と揉めてるのは何回目だ?奴は頑な過ぎる」
俊は二人に呆れていたが、俺は罪悪感が酷かった。
「今の暮らしがダメになったら啓子の世話になると言ってしまったんだ。だから二人の責任ではなく俺に非がある」
「馬鹿かお前は。今の暮らしが順調なら啓子にトドメの一言は要らん。俺は真琴がお前に気があるのを知ってて口説いたんだ」
合理主義者の俊らしかった。理想論は語らない。
墨田川沿いに遠回りしながら帰途に付いた。そして啓子が可哀想だという情けの気持ちがあった。結局俺も遙と同じで他人の想いは叶えたい派なのだ。
誕生会の日を迎え、みんなでごちそうを食べた。
そしてプレゼント交換をしてから三人からチョコをもらった。ここまでなら順調なのだが啓子からもチョコと誕生日祝いをもらっていた。火種の発火点になりかねないので、これは俊の家で預かってもらった。
「やっぱり色々とまだ怖がってる。みんなと相談すべきだっただろうか」
そう考えていたら真琴からメッセージが入った。
『いい加減に啓子を楽にしてあげなさい。ちょっと可哀そうよ ~真琴~』
啓子は真琴に相談したんだ。俺をまだ好きなまま誠二に告白してることを。
急いで真琴と俊の魔界ハウスに行き、啓子からもらったチョコとプレゼントを回収してみんなの前で見せた。
「隠そうとしてごめん。これを啓子からもらったんだ。啓子は前から俺が好きみたいでずっとそのまま放置している。正直どうしていいかわからないんだ」
有希がそれを眺めながら静かに言った。
「一対一が普通というなら我々は異常です。これを明義さんに渡すのは卑怯です」
異常と言う言葉だけが頭の中を貫いた。正常なのは啓子の方なのだ。
「お兄ちゃん、啓子は誠二さんと二股しようとしてるんだよ。だから失敗して当然だと私は思うよ」
このことに関して遙は一言も発しなかった。
誕生会の日なのに、妙な雰囲気にしてしまった。解決策を見出そうとしたが、謝罪することしか思いつかなかった。
『啓子プレゼントとチョコをありがとう。前に言った今の家庭が上手く行かなかったら啓子の世話になると言う話、あれは反故にする。例え家庭崩壊しても啓子とは付き合えない。本当にごめん。 ~明義~』
このメッセージ以降は絶対に啓子に関わらないと心に誓った。
「表に出ろ明義」
シンプルでわかり易い決闘を誠二が挑んできた。
喧嘩の順でいうと俊≧俺>>>誠二だった。だが決闘を申し込まれたからには全力で受ける。それが相手への敬意だと考えている。
初めから一方的に俺が誠二を殴っていた。流石に押し倒して殴りはしないが、拳の威力が違いすぎた。俊が立ち合いしているから、大きな事故は起こりずらい。それでも誠二は全身ぼろぼろになりながら食いついてきた。
「勝負はそこまでだ。誠二、お前じゃ明義には敵わん。俺にバトンタッチするというならしてやるが」
そんなことはしない誠二への俊の気配りだった。
俊は誠二を真琴に頼んで学校から離れた病院に運ばせた。こんなことがバレたら三人とも退学処分になるからだ。真琴はヒールを当てながら彼を運んで行った。
「俺は帰る。真琴も啓子にこのことをメッセージしたら俊と帰ってくれ」
戦ってボロボロに負けた男をみっともないとか野蛮だとか思うのは自由だ。だがその程度の気持ちなら啓子に誠二をやることはできない。
たぶんこの問題はこれで終わった。自分のせいと思うのはもうやめた。
その後誠二を校門で見掛けると、啓子を追い返すこともなく、二人で楽しそうに歩いていた。誠二の決闘は無駄な気もしたが一応報われた。
「明義、入っていいかな」
「わざわざ外から来なくても俺たちの部屋は繋がっているぞ」
そういうと遙は照れ臭そうに笑った。
「こういう解決策もあるんだね。啓子ちゃんが好きなのはずっと明義だったから、それを叶えてあげたいと思ってたんだよ」
「無理なんだよそれは。詰め込み過ぎて家庭がビッグバンを起こしてしまう。誠二を好きになった啓子の気持ちは本物で、二番目とかそういうのはないんだよ」
うんうんと遙は頷いた。
「お邪魔でしたか?また来ましょうか」
有希も来たので一緒にお茶をして、それから成績がダメな二名を徹底的に鍛えた。
二時間ほどで二人がバテたのでベッドに寝かし付けた。その間に春香を見に行ったが、流石は我が妹、ほぼ完ぺきに問題を解いていた。
「春香は本当に優等生だな。問題児だった春香もまた見たいな」
「またレスリングしたいんでしょう。お兄ちゃんはエッチ過ぎるよ」
それがしたいのは確かだが、求めていたのは昨夏の我がまま春香だった。
「あれは何と言うか独り占めしてたお兄ちゃんを、遙に取られそうになった焦りからなんです。だからもうああはならないよ」
じゃあ遙に抱きついてレスリングしてくると言ったら、腕を怪力で掴んでレスリングをしてくれた。春香はやっぱりチョロかった。
家にいない時有希はたいてい庭でペットと遊んでいる。
彼女自身が猫みたいなので、それを思うと見ている方はほっこりできた。
「平和ですね。ですが平時じゃなくても私はいつでもウェルカムです」
意味不明な有希語録は無視して、カトラの噴火を弄っていた。
「明義さんが平穏を願うのは知っています。遙と末永くお二人で居たいことも。だから、そろそろ私を捨てますか?」
有希らしく無さ過ぎる言葉なので動揺が酷かった。二回も二人で過ごした有希を手放すことだけは考えられなかった。
「い や だ。一生傍に居てください」
土下座して有希に頼み込んだ。
「はい。わかりました」
有希のこの言葉に、この一連のやりとりはなんだったのだろうと考えた。
良い悪いという価値観は、おおよそ所属する社会や言語に縛られる。だから三股をずっと気にしなくてはならなかった。しかし魔界は重婚可能だし兄妹婚すらも受け入れてくれる。こちらの社会で暮せばきっといつか慣れるものなんだ。
「家もいいんだけど、活火山魔物の温泉に行かないか?」
そういうと全員一致で賛成してくれたので、トマトとカトラを連れて徒歩で行くことにした。魔法少女たちは飛ぶのに慣れていたので体力が無かった。
「辿り着けそうもないので野宿するよ。一応テントは持ってきてるし」
初めて見る大きな湖のほとりでキャンプをした。
食料は狩りや釣りで得るという逞しさをみんな備えていた。魔界の街で住むなら必要ないと思うが、家がド田舎なのでこういうことは必要だった。
朝になるとみんなを起こして今度こそ目的地に向かった。
一日目ほどみんなバテなくなり、持参した食料と水でどんどん進んで行けた。活火山魔物に出会うと挨拶をし、山道にトマトとカトラを置いた。
そして山が推薦する山道を歩いた。岩山歩行のようなものだが、山頂から吹き出るマグマ、そしてそれが山の麓に流れて行く様は圧巻だった。
「この洞窟の一番奥に温泉があるらしい。みんな先に入ってきていいよ」
すると三人に手を引かれ、温泉に着くとみんな一斉に着ている物を脱ぎ始めた。
慣れてきてるのもあるが、それを見ても興奮はそれほどしなかったので、俺も裸になって湯に浸かった。
三人の恋人を持ったのだから慣れないといけない。だが流石に三分しか持たなかった。
「ムリムリムリ。俺出るよ、いや出ちゃうよ」
そう言って慌てて温泉を出た。
欲情なんて家にいてもしょっちゅうなのに、温泉でしないはずがない。走って山の表に出て綺麗な空気をたくさん吸った。
「!?俊と真琴か?なんでこんなところに」
俊の眼鏡が曇り、真琴の顔が真っ赤になった。
どうやら二人で温泉に入るつもりらしかったので、我が家の慣れた三人は素早く譲ってあげた。俺が覗こうとしたので春香は危険な首絞めを実行した。
正直初々しい二人が羨ましかった。けど彼らもいつかは慣れる。我が家のみんなは少し(かなり)早過ぎただけだ。一緒に住んでいるのだから当たり前のことで恥ずかしいことじゃない。
温泉の後はカトラに案内されて宿泊施設に向かった。
四人の和室を頼み、みんな浴衣で過ごした。色々な場所が噴火しており、普通に考えたらもの凄く危険だが、山が噴火を制御しているので安心だった。
「灼熱かと思ったらそうでもないんだな。水冷されてるから快適だ」
魔物の中とはとても思えない安心感があった。
雇われの仲居さんが、魔界ステーキと刺身が乗った夕食を運んでくれた。我が家には好き嫌いをする者はいないが、美味しさには心を奪われていた。
翌朝も早目に出るつもりだったので、早目にみんなには寝てもらったのだが遙がいなかった。宿のある洞窟を出て山道を見上げると彼女はいた。
俺の顔を見ても優しく微笑むだけで、彼女は何も喋らなかった。
(二人だけで来たかったのか?)そう言い掛けたがやめた。
これまで築き上げた家庭を壊す気など二人にはなかった。諍いが起こっても話し合いで解決すればいい。幸せそうな有希と春香を思いながら二人で星を眺めた。
啓子と誠二は無事付き合うようになった。我が家の四人はカトラの親、活火山魔物の温泉に行くことになった。そこで改めて明義は遙の想いを知る。




