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EXtra Episoder  春香

クリスマス前、平和な家庭がそこには確かにあった。しかし春香の苦悩とそれに対する有希の回答で明義の心の何かが崩壊した。人間界に戻り独り暮らしを再開した明義。有希だけがそこに付いていく決心をした。

有希と籍を入れたことで家族計画は一歩先に進んだ。ただ重婚が重くのしかかるので、特に春香の思いには気を付けなくてはならない。遙と有希とも相談しながら慎重にいろいろなことを進めなければならなかった。


「飾り付け終わった。あとなにかすることあるか?」

明日のイヴの準備を前日からしていた。

主役は俊と真琴、俺と有希だと言う。真琴たちはともかく、我が家ではまだきちんとなっていない問題が山積だったので気が重かった。


「一人でも出せたから籍入れちゃったよ」

遙がさらっと口にした。

「それでは遙さんと明義さんが主役ということにしましょう」

遙と有希の言葉に、俺は訳が分からないと言う顔をしたが、必要事項すべて記入していたので当然だった。

「遙が俺の奥さんになったんだよね?」

彼女はVサインをして笑っていた。


春香は深刻な顔をしていた。何か声を掛けてあげたかったが出来なかった。

「春香いいですか。お話があります」

有希が春香を連れ出して部屋には遙と二人っきりになった。

「今夜が初夜だけど。遙がいいなら...」

有希は断るが遙にはとことん理性が無くなる俺だった。しかし、今夜は忙しいから寝るよと言われ血涙を流して諦めた。


「春香、あなたがきちんと決めないから明義さんが困っている。酷なことを言うようですが、婚姻届けに書いた以上、責任はもうあるのです。いい加減決めなさい」

有希の直接的な言葉に春香は動揺した。

「いいのかな、私も...」

兄妹という逃れられない呪縛を春香と明義は抱えていた。敢えて厳しいことを言ったのは、有希なりの激励でもあった。


「あなたは一緒にここで暮す前は、強引で先のことなど考えてなかったはずです。兄に甘えるのはいい加減にやめなさい。」

有希は夏の海での春香の行動を覚えていた。だから今の彼女が歯痒くて仕方がなかった。もっと我がままな彼女に戻って欲しかった。

「覚えてるよ以前のこと。だけど有希も遙も居るのに実妹の私まで要るのかなって、どうしてもそういうマイナスなことを考えちゃってね」

「それならば私が引きますか?それとも遙が引きますか?二人ともいなくなれば万事解決するのですか?」

有希も遙もそれくらいする。それくらい優しい。それは悔しかった。


「書類で悩んだり簡単に俺から手を引いたりする程度ならアレは破棄だ。そんないい加減なものだとは思わなかった。俺は降りる」

盗み聞きしてた俺は堪忍袋の緒が完全に切れた。

「重婚している俺に負い目があるのは明らかだ。だけど公的書類まで書かせて悩むとか手を引くだとか馬鹿にしている。こんな壊れやすい家族なんて要らない」

二人の前で宣言すると、離婚届を街まで取りに行った。


「何やってるんだよ、二人とも。ああ見えて頑固だから明義」

遙が軽率な二人のことを叱った。二人はうなだれた。

遙も以前春香と付き合わないなら別れると明義を脅したことがあった。そういうものが全部積もって明義は三人を完全に嫌いになったのだろう。そう考えるとこれはもう修復不可能な問題に見えた。傍から見たら欲張りな三股男に見えるかもしれないが、すべては自己犠牲によるものだった。


クリスマスを完全に無視した明義が帰ってきた。そして三人に離婚届を渡した。まだ提出してない春香には不要だったが。

明義は魔界を捨て墨田区内にワンルームを借りて出て行った。瞬く間に築き上げた関係が全部なくなってしまい遙たちは呆然としていた。


寂しくないはずはない。あの生活を維持するためにどれほど奔走したか。

だけど今は普通の高校生に戻っただけだ。慰謝料を請求されたら払える範囲で払う。もうそういうことを考えるほど気持ちが冷え切っていた。


「いくらなんでもキレすぎじゃないか明義。嫌われた訳じゃないんだろう?」

「不可能な関係を維持するのにどれだけ苦労したか。肩の荷が下りた気分だ」

今の明義に何を言っても無駄だ。真琴に相談してみようと俊は思った。


「おい、ラブレターまた来てるぞ明義」

学年五位で前は生徒会にいた男がそう言った。

いつもは捨てるそれを胸に仕舞って、放課後その女の子に会ってみることにした。

「初めまして、山根明義です。お付き合いは断言出来ないけどまず会うだけなら」

難攻不落と言われていた俺が、OKしたことに驚きながらその子はお辞儀をした。


「受験まで一年ちょっとだからあまり会えないよ、うん、それじゃ」

普通の付き合いっていいじゃないか。空から女の子が降ってくる方が変なんだ。

必死であの三人を忘れようとしていた。どうあがいても歪な関係になるのなら、しかもあれだけ脆弱ならば今後続けてはいけない。そう自分に言い聞かせた。


「どうなってんのよあんた!絶対に守るんじゃなかったの?」

真琴が校門にいたので挨拶して素通りしようとしたら、俊じゃなく俺に用事があったようだ。だがその件は終わったこととして帰ろうとすると食い下がられた。

「あの三人はすっかり元気なくなっちゃって、お願い、戻ってあげて」

真琴の友達思いは素晴らしかったが、気持ちが切れたと言って俺は去った。


あの三人はいつまであの家にいるんだ?帰る家があるんだから魔界なんて捨てて帰ればいい。魔界に住むことを決めたのは異常な関係を維持するために必要だったからだ。それも全て終わってしまったんだから住み続ける意味がない。


新学期が始まると彼女候補とよく出かけるようになった。

「あの、このデニムとトップス似合いますかね」

普通に可愛かったので褒めておいた。

本当は魔界の家に戻りたかった。癇癪を起して出て来たが、彼女たちが愛しい気持ちはまったく変わっていなかった。ただ俺がいつでも捨てられるゴミ扱いはもう嫌だった。みんなモテるんだから初めからやり直せばいいだろう。


「うは、みんな可愛いじゃん。明義のやつこんなに少女たちを囲ってたんだ」

学年五位の宇藤誠二は遙たちを見渡した。

「みんなにも聞いて欲しいが最近彼女らしき女と明義は交際中だ。一刻も早く手を打たないと本当に関係が終わってしまうぞ」

俊は厳しい顔で言った。


「本当に手が早いわね、あいつ。ともかくそうらしいから急いで」

真琴が簡潔に言った。

三人は顔を見合わせたが、それぞれ明義に嫌われることをした自覚があったので悩むだけだった。その中で春香だけが発言した。

「私が行きます。今回問題を起こしたのは私だから」

顔には苦しそうな胸の内が描いてあるようだった。


「無理だってやめなよ。みんなで嫉妬しあったりするんでしょう?平等に三人なんて無理無理。ジャンケンに勝った一人だけ明義と付き合う。それしかないって」

誠二は笑いながら言った。

俊が彼を連れて来たのには訳があった。進学校にしては女子と交際がそれなりにあり、明義とも付き合いがあったからだ。

「考えても見なよ。これだけ美少女を集めて明義はみんな平等に気を遣ってたんでしょ?そりゃ精神崩壊起こさない方が無理がある。おままごとはやめるんだな」

最後の方は相当な迫力でみんなに言い放った。


蔵前橋から見るスカイツリーは美しかった。夜の散歩にこの川は最適だった。

そして魔界であった様々なことを思い出していた。魔界樹、魔の木、活火山魔物、魔女。数カ月なのに色々な思い出が詰まっていた。

遙、春香、有希、啓子。沢山の女の子に愛されたが最終的には失敗だった。


家の呼び鈴が鳴ったので出て見るとそこには誠二がいた。

「お前さあ、あの子たちをどうしようと思ったわけ?」

俊の仕業でこいつが全てを知ったことを悟った。

「ハーレムのようなものだ。実は二人とは既に結婚している」

離婚届を突き付けてあの家から去ったことまでを話した。


「誰か一人でいいじゃんか。なんで独占しようとすんだよ」

「大本命がそれを認めなかった。妹の春香と付き合わなきゃ手を引くと言って」

誠二はふむふむと考えてから言った。

「その子は頭おかしいから捨てな。あと実妹はダメだ。残った子と付き合え」

事実上有希とだけ付き合えと誠二は言っていた。


「明義、残った子たちへの説明責任だけは果たせ。それだけしたら好きにしていい。この間ラブレターもらった子と付き合うのもぜんぜん良しだ」

俊から最後通告のようなものをもらった。


逃げた身としてはまた帰るのは気が引けた。どんな顔をして帰ればいいっていうんだ。もう本当に魔法少女たちから逃げたいんだ俺は。

「お久しぶりですみんな。正直何を言っていいかわかんないけど来たよ」

そういうと三人からお帰りなさいと言われた。でも帰って来たわけじゃない。


「あの、私が妙な劣等感に苛まれたせいで有希があんなこと言って」

春香が口を開いたが、お前は家族だから後にしようと言った。

「遙、最後通告だ。何故俺はお前に一度フラれた?理由を言ってくれ」

知っているが遙に言わせたかった。

「春香ちゃんの気持ちと向き合って欲しかった。それだけだよ」

「その結果春香は今、劣等感や倫理観に悩んでる。違うか?」

この際この恋愛国家を作り上げた遙を攻撃したかった。


「妹はダメ、俺は良くても結果的にこれほど悩んでいる。一度理不尽な理由で俺をフッた遙もダメ。残ったのは有希だけだがどうする?婚姻届けの旅は最近だからよく覚えている。だがもう有希の心の内も分からない。どうしたらいいかは自分で決めてくれ」

「はい。私だけは付いて行きます」

意外なほどあっさりと言い切った。

正直この三人の結束ならみんなが去ってくれると思っていた。有希の発言に俺は少々驚いた。と同時に三人への平等と言う言葉も吹き飛んだ。


フラれた二人は出て行った。そして二人には広すぎる家が残された。

「有希はいいのか?無理することはないぞ」

「引いたりとか言う発言は例えでした。一生付いて行きます」

そっかと言ってあとは喋らなかった。


「なあ有希、三人同時はやはり無理だっただろう。ハルカたちを愛してる気持ちは実は今でも強烈にある。だがお前らが身を引いたり、俺との付き合いで悩まれたらどうすれば良かったんだ?一生励ましながらフラれないよう俺がバランスを取らなきゃいけないのか」

有希が深刻な顔になったが、まだ可能性は残されていると感じた。

「それから広すぎるここには住まない。墨田区のワンルームに行くぞ」


「まったくさっきから泣いてばかりで何やってんだ」

啓子の家に転がり込んできた遙と春香を強烈に叱った。

「まず遙、自分の考えを明義さんに押し付けるのはやめな。今まではあんた可愛さで言うことを聞いたかも知れないが、癇癪起をこした明義さんは絶対に耳を貸さない」

「そして春香、血が繋がってることを今更悩むなら実家に帰んな」

三人がいたから身を引いた啓子は、その中の二人の不甲斐なさにやり切れないでいた。初めからここに強引に引き留めておけばこんなことは起こらなかったと。


それでも二人が疲れ切っていたので布団を敷いてあげ寝かし付けた。そしてチャンスなんだけどあの人はまだこの二人の方が好きなのも分かっていた。

「お邪魔するわよ、啓子。二人は寝たのね、それがいいわ」

「おかしなことを始めたのは明義さんもだけど、遙が身を引くって脅したのは最悪だよね。そんなこと忘れるはずがないよ」

真琴はすべてを知ってる訳ではないので説明を受けながら頷いた。


「有希が一番運が良かったんだよ。暴走したあの時、明義さんが救ってくれて、自分をくれてやると言って有希を受け入れた。完全に予定外だったけどあの人はその約束を守ろうとする。有希はそれに応えただけだよ」

「あれは見たわ。恐ろしく強い意志であの人は有希を救ってあげた。だから今の投げやりな明義さんが分からないのよ」

そろそろ遅いからと言って、真琴を引き留め二人でベッドに寝た。


明義の家では、弱り切った彼を有希が看病していた。

学校にも行けないほど衰弱していたので、精神科医の往診も受けさせた。うつを発症しかかっているので外出禁止令が出された。


「疲れで倒れちゃって、うん、そう。だから次に会うのはだいぶ先になる」

俺は彼女候補に丁寧に謝った。

「その方が一番で私は二番目ですか?」

有希の質問に心を病んでるのにキレた。

「一番しかいないんだよ本当は。勝手に争って勝手に出て行くとか止めてくれ」


最近は自分でも驚くほど周りに毒を吐いていた。原因はもちろん魔界の家でのことだ。もう一度やり直す道筋が見えないし、そもそも二人のハルカに俺は要らない。

「おっす明義、って女の子連れ込んでるじゃん。やるなあ」

一見ちゃらい誠二が尋ねて来てくれた。

「この子とは結婚してるの。魔界の書類でだけど」

「それはおめでたいな。でも大事なのは紙切れじゃなくてどうするかだぞ」

こいつは冷静だ。恐ろしく冷めてる脳から言葉を吐く。


「分かってるな。もう後の二人は諦めろ。付いて来たその子だけにしろ」

頷いて手を振った。有希が丁寧にお辞儀をして誠二を帰した。

強引に起き上がり机の前に座って勉強を始めた。有希が夜食を持ってきても手を挙げるだけでひたすら怖い顔で集中した。


明義さんの本当の顔だ。私たちに気を遣って笑っていた時とは全然違う。そんなことも今まで知らなかった。笑顔で私たちに気を遣い過ぎていたんだ。そう思うと有希は自分が恥ずかしくなった。私たちは明らかに明義さんに甘えすぎていた。


















残った有希とだけ同棲を始めた明義、以前と態度があまりにも違うことに彼女は愕然とした。私たちは甘えすぎていたんだと。

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