【28】有希の願い
レッド・サンとの戦いを終え、また家族との関係に向き合うことになった。まず有希と婚姻届けを出すことになったが彼女は驚いていた。街までの道中おどおどしている彼女に無理矢理結婚はさせられない。諦めようとした明義だが彼女の真意を知る。
有希は学校が終わると実家に帰り、魔界婚姻書を両親に見せた。既に大人の関係も済ましており、後は明義がT大に受かるだけだと言う報告も付け加えていた。
「有希が夜食を毎回持って来てくれるのはありがたいけど、後ろでずっと見張られてると勉強の効率がおちそうだ」
「そうですか。では気分転換にヤりましょうか、頭がすっきりするはずです」
有希はとにかく子供を欲しがった。子供が子供を産むようなものなのに。
「作るよ将来。だけど今じゃないから我慢してくれ」
そう言うとすぐにふて寝する。可愛いがプレッシャーが酷かった。
「遙の時みたく旅行に行きましょう」
子作りしたいのが見え見えなので無視すると、婚姻届けをちらつかされた。
「次の模試は12月半ばですね。その結果がA判定なら行きましょう」
じわじわと迫りくる有希の子作り計画、でも簡単に乗るわけにはいかない。
「お兄ちゃん、クリスマスに向けて準備してるからね。真琴と啓子、俊さんも呼んで盛大にやりましょう。貯めたお金で人間界産のチキンだよ」
妹は嬉しそうにその日を楽しみにしていた。
「クリスマスってあれかな、私がプレゼントって言って裸でリボンを巻くイベント。それともやっぱり脱がせたい?」
遙の認識が歪みまくっていたので、家族で楽しむイベントだと教えた。
遙と有希は暴走しそうだったので、早目に真琴と啓子には来てもらおう。
それはそうと魔界婚姻書を提出しなければならない。街まで彼女たちならすぐだが、味気ないので徒歩で行くことを計画していた。そして結婚式。当たり前のことなのだが当事者なのにまったく実感が湧かなかった。
「明義、これを見てくれ...」
そこには俊と真琴がサインして、魔界市役所が受理済みの婚姻届けがあった。
驚くべきことに俊は俺より早く妻帯者になっていた。魔界婚姻書はおもちゃではないので、この後破棄したらバツイチになる。
「まだキスしかしてないんだぞ俺は。それがどうしてこうなった」
俊の気持ちはわかるが、真琴はああみえて肉食だ。それより早く手を出せ。
「お前と違って俺は慎重なんだよ。毎日ヤりまくってるお前とは違う」
(三人合計で五回だから多くないぞ)そう思ったが言わなかった。
「合同結婚式するか。字面は悪いがいいと思うんだ」
そういうと俊はため息を付いた。
「真琴が結婚したらしいです。めでたいですね」
「そうだな。三人一緒に行こうと思ってたが、有希先に行くか、役所に」
遙を絶対に一番にすると思っていたので有希はちょっと驚いた。
「順番とか気にしてないぞ。特に有希は一番積極的だから信じてる」
有希と街まで旅することになり、ハルカ二人に見送られた。
遙との旅と違い最短距離で街に行くことにした。小さな村がいくつかあるので宿はそこで取れるだろう。有希に迫られそうだがいつものことだ。
村に着くと村人に頭を下げて感謝された。ブルー・オリオンはこんな田舎でもよく知られているようだった。有希は丁寧にお礼のお辞儀をしていた。彼らに宿を聞くとこの村で一番大きいところを紹介された。
「混浴温泉あるみたいだけど一緒に入るか?」
そう言うと有希は首を振った。
マリッジブルーかな?有希に逃げられたら遙以上にダメージ受けそうなんだが。
有希の希望でツインベッドを取った。
「有希、結婚嫌になったか?なら無理に市役所に行かなくても」
「そうではないんです。ただこの重さを噛みしめたいだけなんです」
そういう有希がいつもとまるで違うので戸惑った。
「有希、寝てるのか?寝てるなら返事しなくていいぞ」
意味不明なことを言いながら有希のベッドを触ると誰も居なかった。
嫌な予感がしてホテルのラウンジに行くとちゃんと彼女は居た。そしていつものように姿勢を正して本を読んでいた。
「緊張してるようだな。明日には街に着くが大丈夫か」
そう言うといつもより凛々しい顔で彼女は頷いた。
「お土産を渡したいと村人(魔物)が言うから明日もう一度ここに来る。その時はもう夫婦になってるはずだからちゃんと寝てくれよ」
はいと言うと有希はまた本を読み始めた。
有希の緊張は当たり前で、真琴がある意味おかしいんだ。俊は何が起こったかわからず混乱していた。あの書類にはそれだけの意味があるんだ。
村から離れると街まではもう徒歩で3時間くらいだった。
いつもと違う有希に戸惑いながらも、街の市役所に向かった。俺にとっても初めてのことだが何度も考えて出した結論なので迷いはなかった。
「ここでランチを取ろう。有希は朝のバイキングあまり食べてなかったろう」
静かに有希は頷いた。
このまま静かで戸惑った有希と婚姻届けを出していいのか心底迷った。もっと後からでもいいし、嫌なら最悪別れるしかない。
図書館や美術館、教会を眺めなら歩いて行くと市役所が見えた。魔界とは思えない瀟洒で伝統的な建物だった。二人で足を踏み入れ婚姻届けを出す場所に着いた。
「有希、俺のと二枚持ってたよな。出してくれないか」
有希はもの凄く緊張しながらそれを受付に出し、そして受理された。
そこからまた行きに通った村に行った。二人の結婚は何故か知れ渡っており、くす玉や花火の歓迎を受けた。有希は照れながら村人に手を振った。
「結婚したんですね、私と明義さん」
そうだと答えると有希は静かに涙を流した。
「嫌だったか?間違いだったと言って今から取り返しに行こうか?」
「そうではないです。ただ無理矢理三番目に割り込んだ私にその資格があるのか、ずっと考えていました。ありがとうございます」
「好きだからそうしたんだ。何回も言ってるがこれでわかっただろう」
嗚咽に近い泣き方になったので何度も頭を撫でた。指で涙も拭ってあげた。
混浴温泉では有希は服を脱ぐ時に何度もこっちを見た。いつもはスパーンと全裸になるので戸惑いがこっちにも移った。
「気付いてあげられなくてごめんな。でもその不安は拭い去ってあげたい」
暖かい温泉の中で二人はキスをした。
「有希、ここから見ると星が凄く綺麗だ。太陽も良かっただろうが」
温泉の縁石から二人で見上げた。
帰り道ではずっと有希は手を繋ぎつつも一歩後ろを歩いていた。暴走有希は仮の姿で、本当はこういう大人しい女の子なのだろう。不安が彼女をへんてこにさせていたんだ。
「有希と結婚してきた、嬉しい」
俺は顔が緩み切っていたが、有希はちょっと顔を赤らめるだけだった。
ハルカ二人に祝福され、その日の夕食は豪華だった。滅多に出ない人間界の国産牛肉のステーキを、俺と有希は堪能した。
トマトとカトラにも報告に行くと、二匹も祝福してくれた(様に見えた)
「初夜だけどどうする?」
有希はベッドの中に潜り込んで来るだけだった。安心したのだろう。
「俺も有希と結婚して来た」
書類を見せると俊は少し驚いたようだった。
「最初は遙だと思ってたんだがな、だがおめでとう」
祝福の言葉をもらい、放課後に真琴とダブルデートを提案した。
夫婦二組で俺たちは食事に出掛けた。いきなり高いものもアレなので、普通にファミレスに行くことにした。有希は幸せそうに黙っていた。
「あんたたちは普通じゃないから大変そうね。でも投げ出しちゃダメよ」
真琴に激励のようなものをもらったが俊はそれどころじゃないようだ。
「次は遙と春香と籍を入れる。二人が嫌がらなければ」
有希と籍を入れたことで二人の心境に変化があるかも知れない。
特に春香は実妹だ。とんでもない葛藤があるに違いない。魔界法では合法でもこっちでは完全なアウトだ。これはもう二人で話し合うしかない。遙については今は心配してない。魔女の子でもともとこっちとは違う世界で生きてきたんだ。
「有希、しばらくはここで寝るか?俺は布団で寝るから」
「この部屋は遙の部屋と繋がっているのでちょっと、私の部屋に来てください」
有希の言葉に従い彼女の部屋に行くことにした、深夜だが。
案の定と言うか有希は起きていた。トマトとカトラと一緒に遊びながら待っていたようだ。その姿が幼過ぎて良心の呵責を覚えたが、何もしなければセーフだ。
「一緒に寝よう。悪戯はしないから」
そういうと彼女は大人しくベッドに入ってきた。
「随分となされていないようですし今夜は」
「余計な心配はしなくていいの、俺は耐えなきゃなんないからしないんだよ」
そういうと大人しくなり、小さな寝息を立てて寝る奥さんの頭を軽く撫でた。
そう言いながらしたいのは俺だった。一緒のベッドに居るだけで気持ちが変になるので、朝までトマトとカトラと遊んでいた。
いつの間にか毛布を持ってきてくれた有希と二人で床に寝ていた。結婚してくれたことが嬉しくて静かに抱きしめた。
「ヤりますか?」
そうだった。有希は子供が欲しいんだった。
明るい家族計画のためそれはまだ、歯ぎしりしながらそう言った。彼女はいろんなところを噛んで来たが、それはむしろ気持ちが良かった。
「ハルカたちはもう学校に行ったのか」
有希に聞くと首を横に振った。魔界樹に特訓に行ったという。
しばらくは強敵が出ないだろうに、二人とも学校を休んでまで何をしているんだ。それで有希に頼んで魔界樹まで連れて行ってもらった。
「何してんの?二人とも」
「いやあ、健康に良さそうだよね。大自然で特訓って」
遙はいつもどおりだった。
「遙に、負けてられないの!」
そう言う我が妹、春香は真剣そのものだった。
「よくわかんないけど二人とも頑張って。俺は有希と寝る」
そう言って来客用の樹の下へ向かった。
「何かなアレは」
「春香はもともと素質では遙より上だと言われてたので焦りがあるのでしょう。それと婚姻届けを出すことへの迷いを断ち切る思いもあるかも」
「そっか。それじゃ後で話聞かなきゃだな。でも今はおやすみなさい」
二人で木の丸いベッドで寄り添いながら有希と寝た。
起きた有希はコスモ・ソードの技を磨いていた。遙は寝てしまい、春香はまだ特訓を続けていた。流石にやり過ぎなので休むように言った。
「何が原因か、複数あるのかわからないが、お兄ちゃんと少し話そう」
「勘違いだったらごめん。有希と籍を入れたことで追い詰められているなら、時間はたっぷりあるんだから二人で話そう。事情が特殊だから俺たち」
春香は軽くため息を付いた。
「お兄ちゃんとはもう決まってるの。ブラコン治す気なんてないし、結婚はするよ。問題は遙なの、また一人で暴走しないか心配だから」
「遙についてはもう心配はいらない。凄く安定したのがわかる。だから春香は自分の問題に向き合って他人のことを考えなくていいぞ」
「・・・」
ハルカたちは抱え込むタイプだ。それにわりと本人が気が付いていない。
「有希と遙が居れば十分なんじゃないの?私は邪魔でしかない」
ろくでもないことを言う妹の口を唇で塞いだ。
「俺もシスコンやめる気なんてこれっぽちもないぞ。だからそういうこと言うな」
はいと小さな声で春香が答えた。
一番の問題なのは春香だった。ブラコンが治れば家に送り返して普通の暮らしをさせてもいいと思っていた。だがもう手放す気がまったくなかった。
ただ、不安を抱えたまま先には進みたくなかった。春香が一番良いと思える方法を考えてあげたい。あとは妹次第なんだ。
有希と結婚した明義。だがまだ妹の春香の問題があった。ブラコンを治す気はないという春香。だが心の中では大きな葛藤を抱えていた。




