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【25】ブラック・サン

順調な生活を送る明義たちだったが、遙だけはそこに馴染めていなかった。気分転換に彼らは旅をしたがその旅の終わりに待っていたこととは。

順風満帆とまではいかないが、快適な魔界生活を送っていた。食費と家賃が掛からないのは大きく、仕送りを貯金に回せた。親の期待には春香に手を出した時点で応えていないが、彼女は幸せそうだった。有希も家の増築計画のための仮完成図を何枚も書いていた。遙だけがいろいろと覚悟が決まっていない感じだったが、それは前から分かっていた。


有希とペット用の餌を釣りに池に来ていた。二人で釣り糸を垂れながらアタリを待っていると、有希が遙の話を始めた。

「最近の彼女はカラ元気を振りまいてるように見えます。意志が強く勇敢な遙らしくないです。明義さん心当たりはありますか?」

「あるっちゃある、でも遙の問題なので相談にも乗ってあげられないんだ」

有希が不思議な顔をしたので更に続けた。

「この家の家長は俺ではなく遙なんだよ。彼女が望んだから今のような四人家族ができ、みんながそれをベースに生活を組み立てている。ところが遙だけは馴染めていないんだ、二人暮らししていた頃のがずっと生き生きとしていた」

ナマズやドジョウ、ウグイもどきが釣れたので続きは今度と言って家に戻った。有希はぶつ切りしてトマトとカトラにそれを与えていた。


遙自身が望んだのこの生活に一番不安を感じ、恐れているのが彼女だった。この状況が続くなら最悪の場合だが遙を振るしかないと思っていた。普通の女子中学生としての生活を望むなら、早く親元に返し子供として生きるべきなのだ。

「春香、最近の遙のことなんですがおかしいですよね」

「遙は私が来た頃からもうおかしいんだよ。兄との二人暮らしを望んでいたから」

春香はとっくに気が付いていた、遙の行動の矛盾に。

「覚悟もないのにこんなところで生活するべきじゃない。一旦家に帰すべきかな」

兄妹で同じことを言っているのできっと正しいのだろうと有希は思った。


なんてことない弱敵の攻撃で倒れ、真琴が覚えたヒールで遙は一命を取り留めた。家に運ばれてきた遙は、精神的に疲弊していたのでしばらく学校を休ませることにした。出来ることなら傍にいてやりたいが学校の長期休暇は無理だ。真琴と有希が学校が終わるとすぐに遙の看病をした。

「遙、当分魔法少女活動から抜けなさい。今のあなたでは無理よ」

真琴は休暇をとるように遙を諭していた。実際、命に関わるからだ。


カトラとトマトを遙の部屋に持って来て遊ばせていた。アニマルセラピーになるのかどうかは分からないが、彼女はとても嬉しそうだった。

「なんとか嘘を付いて学校を一週間休めることになったので旅行に行かないか」

そういうと二つ返事で遙は行くと言った。


魔法少女たちと俊に見守られながら俺と遙は旅行に出掛けた。

「実は変身も上手く出来てないんだろう?俺の銃で守るから大人しくしてろ」

遙は大人しく従ってくれた。

「一泊目は魔界樹にしよう。二人用テントを張ってそこに寝るんだ」

ここで遙はよく修行をしていた。魔法少女たちのエースとして技を研鑽するためだ。こういう責任感が有り過ぎる行動は精神的に良くない。


「魔界樹の中に階段あるの知ってたか?俺の様な常人でもこれで上に登れる」

二人で手を繋いで樹の中の階段を登って行った。遙はやはり変身出来なかった。

11月なのにまだ温かい魔界なので二人とも半袖Tシャツだった。最上階まで行き下界を眺め、それを写真に撮った。遙の顔は久々に穏やかだった。


魔界樹の中に大きな空洞があったのでそこにテントを張った。魔界カレーを二人で作ったのでそれを食べてからテントに入った。弱った遙を見ていても辛いだけなので、彼女が寝ると外に出て一人で散策した。魔界樹は宿泊客が居ること示すためかずっと光っていた。

樹の下にも階段あったので行こうかと思ったが、遙を置いてはいけないので次の機会にすることにした。痺れそうなキノコをたくさん採ってからテントに戻り寝た。

予定のない旅なので二日目もここに泊まることにした。夜のうちに真琴から食材の差し入れがあった。魔界的な肉や野菜があって助かった。


『遙のことを俺が好き過ぎるから、優しい彼女は出て行けないんだろうか』

ずっと思ってきたことだが本人には聞けなかった。優し過ぎる遙は絶対に否定することがわかっていたので、心の内にしまって置くだけだ。

この日は遙が昼寝ばかりしていたので、持参した参考書を読んでいた。良く寝てる彼女を見て、愛し過ぎていることを感じ自然と手が震えた。


三日目は魔界の海を訪れた。海の中にどんな危険があるか分からないので海岸で遊んだ。大きすぎるイルカもどきが宙を舞った。美しいその姿を写真に収め、我々自身の写真も撮った。昼は釣り上げた魔界スズキを焼いて食べた。

「お刺身でも良かったかも」

遙がそう言ったが、火は通して置きたかった。

夕焼けの海を見ながら二人でキスをした。義務感だったかは分からない。

「もう暗いしそろそろ寝ようか」

そう言ってランプを消してテントの中で横になった。

またしても夜起きてしまったので、海で釣りをした。うなぎ的なぬるぬるとしたものが釣れたので、明日食べようと思った。

「やあ、おいしそうだね」

いつの間にか遙が起きて横にいた。釣った籠を見せると彼女はすごく喜んだ。

二人でテントに戻ると珍しく遙が求めてきた。

「精神的に病んでる人は依存に走る。だから大人しくしていなさい」

遙にいろいろな場所を噛まれたが耐えた。


四日目は魔界の都市へ行った。

教会や図書館もあって、魔界は野蛮なところというイメージが吹き飛んだ。魔界公園を散策しながら、魔界と人間界について考えた。二つの世界は行き来できるものなんじゃないかと思い、将来の不安が少し軽減された。

「見た目の雰囲気がいいからあそこで食事を摂ろう」

魔界トムヤムクンは痺れるがそこが良かった。肉とパンも美味かった。

夜は魔界ホテルに泊まることにした。五つ星だが遙がいるからただだった。テント生活は疲れるので、きちんとしたベッドにも寝たかった。ツインベッドにしようとしたら、遙に猛反対され渋々ダブルベッドの部屋を借りた。

「遙さ、この旅ではわりと我が儘なんじゃないか」

そう聞くと甘えるように腕を組んで来た。

家と違い混浴はできないのでそれぞれ別々の風呂に入った。覗きスポットがないか懸命に探したが、残念ながら見つからなかった。

この夜も遙は求めてきた。恋人なのだからこれ以上断るのは無理だった。

小さな胸をやさしく撫でた。遙が小さく喘ぎ始めたので長いキスをした。無理させないように、後悔させないように抱き一緒にイくことができた。


五日目は活火山魔物を訪れた。カトラを連れてきてあげれば良かったと後悔した。

活火山魔物は噴火を止めてくれ、山に登ることができた。通路もわざわざ作ってくれたので安全に登れた。無人の山小屋があったのでそこで昼寝をし、起きたら更に登って行った。すると遙は温泉を見つけすぐに衣服を脱ぎ捨てて入って行った。

「明義も入ろう。気持ちいいよ」

眺めているだけで十分だったが、誘われたので一緒に入った。

洞窟の温泉と言うのは気持ちが良かった。ここでカトラは育つはずだったのだろう。そう考えたら責任感が溢れて来た。それよりも遙が美しかった。薄暗い湯の中だが彼女の裸体は神秘的だった。遙が抱きついてきたのでそのままじっとしていた。この一瞬の時間を保存したかった。

「そろそろ迎えが来るから出よう」

そういうと遙は頷き服を着た。

そうして有希と春香の背にそれぞれ乗って家に帰った。


「俺は洋館に今夜は泊まるから」

そういうと三人は手を振ってくれた。

恐ろしいことが起こる予感がしたので、咄嗟にここに逃げた。有希と半月住んだ家だったので、その続きがあるかどうかも考えた。二人のハルカが居なくなっても有希だけは残ってくれると信じていた。深夜まで勉強をし、疲れ切ったのでそのまま寝た。


「遙が出て行きました。書き置きはありません」

翌朝、有希がそう言ったが分かっていたと言って、毛布にくるまってまた寝た。


お昼頃まで寝ていると、有希も絨毯の上で寝ていた。学校をサボってしまったようだった。有希のことや春香のことにも向き合わないと行けない。遙が居なくなったことをいつまでも嘆いてはいられなかった。

「有希、学校を簡単に休んじゃダメだ」

心配して休んでくれた有希は不貞腐れてしまった。不貞腐れは最近の彼女のマイブームな様だった。可愛いのでこれはやめて欲しくなかった。

「遙のことが心配じゃないんですか?最愛の方ですよね」

「出て行ってくれて安心したんだ。無理にここに居ることはない」

言ってることに不満があったのか、彼女はトマトに俺を噛ませた。


有希がベッドに同衾してきたのでこれも付け加えた。

「春香のことも心配してやって欲しい。彼女も普通じゃないことをしてるので、それについて常に苦しんでいる。だけど俺から出て行けとは言えないんだ」

この回答もお気に召さなかったようで、彼女は腕をロックしてきた。

「有希だけは絶対に出て行かないでくれ。これは譲れない」

これは気に入ったのか服を脱いでしまった。


「お兄ちゃん、明日から学校だからちゃんと起きてね」

春香の言葉に適当に頷いた。

もうわりと色々なことがどうでも良かった。遙との生活が終わってしまったことに絶望していた。残った二人のこともペットも受験のことも考えなくちゃいけないのに、ぽっかり空いてしまった胸から風が吹いているようだった。


「急に暗くなったが魔界の日食か?」

日食ではなく空を見上げると太陽そのものが黒くなっていた。黒点異常かどうかはわからなかったが、まるで魔界に住み着く我々を威嚇しているようだった。魔物かどうかの判断がわからないので魔法少女たちは待機していた。

黒い太陽を見ながら俺は心の中で狂喜していた。すべての幸せな日常に破滅をもたらしてくれブラック・サン。なんなら人間界にあるすべての文明を破壊し、ホモサピエンスを亡ぼしてくれ。真っ黒い恒星にありったけの願いを込めた。



























家を出た遙。同時に現れた黒い太陽はなにか繋がりがあるのだろうか。世界の終焉を思わせるような恐怖の太陽に明義は大いなる願いを掛けた。 

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