⑯密かに想う
魔の樹との対決で啓子と明義は大ピンチに陥る。このピンチを救ったのはやはりヒロインだった。
冬服に着替えた三人は仲良く学校に登校していた。俺は少し遅れて家を出た。
「明義さんやっほー」
啓子が変身して家の前まで来ていた。
(有希に宣戦布告をしていたが、これがそうなのか)
「警戒し過ぎだって。空飛んだ方が速いから迎えに来てあげたんだよ」
お言葉に甘えてピンク・プレアデスの背に捕まった。これなら一瞬で学校に着く。だけど余りにも目立つ行為なのでどうしたものかと思った。
「ちょ、何してんの?んん」
つい、有希の時の癖で胸に捕まってしまった。
ピンクは蛇行しながら落ちてしまった。しかし俺の手には大きな力が宿り、走って登校しようとするとやはり捕まってしまった。
「信じられない!可憐なJCの胸を鷲掴みするなんて」
これは明らかにこちらに非があったので土下座して謝った。
「でもさ、有希の背中借りる時はいつもなんだよね。嫌がらないよ有希は」
そう言うとむきになって啓子はまた背負って飛んでくれた。当然また胸を掴んだが今度は耐えていた。やがて校門前に着いたが魔法少女の乳房に吸い付いていた男に大きな非難が集まった。
「お前のようなでっかい男に俺もなりたい!」
俊が俺の行為を絶賛してくれた。
実際にすごく大きく、胸を掴むと凄い弾力で押し返してきた。その感触だけでフルマラソンを走れそうだった。ただ問題はそんなことではなく、彼女でもない啓子の乳をがっつり揉んでしまったことだった。
「好きならおっぱいくらい差し出すだろう。気にするな」
「じゃあ真琴もやっぱり飛行中触らせてくれるんだな」
そう聞くと火の玉ストレートを頬に喰らい、俺は吹っ飛んだ。
真琴には掴むほどの胸が無いことを思い出し、俊に手を合わせて謝った。
「取り敢えずデートでもしてやれ。セクハラを交渉材料にさせないように」
俊の言葉に従い、啓子にデートを申し込んだ。
一度は俺に振られたことが原因で魔法少女をやめようとした啓子。果たして俺が彼女の前にまた近づいていいのか悩んだ。
「気にしなくていいよ。春香から明義さんのエロ伝説は聞いてたから」
啓子から許されていた。
それはそうとデートは受けるというので、彼女の別荘まで行くことになった。しかし別荘持ちとはたいしたものだ。
別荘の場所を聞いてみたら説明できないと言うので案内すると言われた。胸を掴まれたくないのか啓子は変身してはくれなかった。それはそうと暗闇の中に入り込んで行き、彼女は魔界に入って行った。ずんずんと進んで行き、魔女の森を超えやがて我が家すら超えて行った。
「もうすぐだよ。明義さんの家とわりとご近所」
和風の平屋建てだが、小さな庭もあり雰囲気があるいい家だった。キッチンやリビング、お風呂に案内され、最後に彼女の部屋に案内された。着替えてくるからちょっと待っててと言われ、ソファに腰を掛けた。とてもいい匂いがする部屋だった。
「お待たせ。この胸のせいでなかなか似合う服がないんだよね。ならもう見せちゃえと思ってこの間このドレスを買ったんだ。どうかな」
その黒いドレスは胸の部分が大きく開いており、啓子の魅力を引き立てていた。
「月並みだけど可愛いよ。あと色っぽくて啓子にとても似合っている」
素直な感想を言った。
啓子は褒められたのが嬉しいかったのか、俺の前で何度もポーズを作り見せてくれた。この子は子どもっぽさがほとんどないので新鮮だった。とても話しやすいのは前と変わらないが、最近は時折愁いを帯びた顔をして、しょっちゅうどきっとさせられていた。
「この家はさ、けっこう広いでしょ?将来明義さんと付き合って結婚したら一緒に暮らしたいなと思って決めたんだ。もちろん本気だよ、もう誤魔化さないからね。本気で落としに行くんだから」
困惑はしなかった。啓子の決心は知っていたから。
「温め直しパスタになるけど食べていって。そして食休みしたら外出しよう」
啓子の提案に異論はなかった。
魔界道を奥に進んで、洋風のお洒落な家の角を曲がった。そこには開けた場所があり、ポツンとたつ樹があった。魔界樹によく似ていたが、あれよりはだいぶ小さかった。しかし俺は嫌な感じがしてそわそわしていた。
「啓子帰ろう、あまり好きじゃないんだここ」
そう言ったと同時に啓子が幹に捕まった。
「明義さん、明義さん。やだよ死にたくない。助けて」
どんどん幹の中に引き込まれる啓子を必死で手を取り引っ張り出そうとした。しかし魔の樹の力はとてつもなく強く。歯が立ちそうになかった。
遙たちの到着はもうすぐだろう。だがもう半分埋まってしまった啓子を助けるには間に合わない。幹を叩いても手が壊れるだけだ。なす術がないならこのまま俺ごと引き込みやがれ魔物、啓子一人で死なせやしない。
「啓子!暴走フルパワーを出してこの樹を燃やせ」
変身して紅い炎に包まれるピンク・プレアデス。幹は焦げやがて燃えて行く。俺も相当な火傷を負ったが気にしない。全力で啓子の手を引っ張ると啓子は樹の幹から抜け出せた。
『レールガン!』駆け付けたポルックス・イエローの一撃で魔の樹は切り裂かれ死んだ。暴走した啓子が無意識で俺に近づいて来た。全身火傷の俺は力を振り絞って立ち上がり啓子にキスをした。そしてそのまま意識を失った。
「誰も回復魔法を知らないってなんなのよ!」
真琴が泣きながら言った。
その時遙は紅い焔をまとい両手に光を集め、それを明義に放った。傷はみるみる回復したが意識は戻らない。ゆっくりと彼女は愛する人に近づいてゆき、膝を折り背中を丸めて長いキスをした。
「やあ遙、おはよう」
「おはよう、明義」
遙は意識を回復した後も何度も俺にキスをした。どこにも傷はなく、呼吸も安定していたのでそのまま彼女三人に連れられ家に帰った。啓子の方を見ると正気を取り戻していた。ひとまず安心して良さそうだった。
「どうやって咄嗟に回復魔法ができたのです?」
「なんとなくこうかなあって思ったらできたよ。絶対助けるという思いで」
そんなことがあるのだろうかと有希は考えたが、遙ならあり得るとも思った。
「ありがとう遙、明義さんを助けてくれて」
遙は照れながら頷いた。
風呂を出て食事を終えると呼び鈴がなった。啓子だった。
「助けてくれてありがとう明義さん、あと遙を呼んで」
言われるままに遙だけを呼び俺は退場した。
「明義さんを助けてくれて本当にありがとう。絶対に幸せになるんだよ」
そう言うと啓子は走って帰って行った。
しばらくしてから啓子の不安げな顔が気になり、走って彼女の家に行った。明かりは灯っており、まだ起きているようだった。
「助けるつもりがお荷物になってごめん」
そういうと啓子は黙って抱きついてきた。
また部屋に案内され、二人で珈琲を飲んだ。安心したのか啓子は眠そうだった。
「啓子は疲れてるみたいだから俺はもう帰るよ」
そう言うと啓子は首を横に振った。そして俺に寄りかかり愁いを帯びた顔をした。
「遙には絶対に敵わないと思ったら泣けてきちゃった」
(もう泣くことない。昼間のは偶然の事故だった。そして遙のヒールもわりと偶発的に生まれたものだ。それで啓子が落ち込むことはない)
きっと言葉にしても納得できないだろうから心のなかで呟いた。
「さっきは命を助けられちゃったね。そのお礼になるのかどうかわからないけど、目を逸らさないで見ててね」
啓子は後ろ向きでジャージの上下を脱ぎ捨て、下着も取ってしまった。右手で両胸を隠し、左手で大事なところを押さえこっちを向いた。言われた通り目を逸らさずじっと見つめた。
「めちゃめちゃ恥ずかしいねこれ。遙たち凄いわ本当に」
(俺が調教したとは流石に言えない)
そう言いながらも両手を下に降ろして生まれたままの啓子を見ることができた。
「今まで見た肢体で一番美しいよ。ありがとう啓子」
一糸纏わない姿で彼女は静かに泣いた。その涙を拭きたかったので、立ち上がり指で涙を拭い取ってあげた。愛してくれてありがとう啓子。
しばらく抱き合ったあと、布団からタオルケットを取り掛けてあげた。
啓子が俺との未来を考えて住むことにした家。その寝室に彼女と二人きりだった。もしも二人が恋人同士だったら、胸を張ってここで一緒に住むことができた。そんな未来も確実にあり得た、だからやりきれない気持ちになる。
「昼間のあの樹じゃないんだ。夜の世界樹を見に行こう」
ピンク・プレアデスに変身してもらい連れて行ってもらうことにした。
「前みたく胸を掴んでいいよ?だいぶ慣れたし」
お言葉に甘えて大きな胸に摑まると、ピンクはすぐに蛇行し途中の池に落ちた。
「無理、慣れない。特にさっき裸を見せたばかりだったから、恥ずかしいけど性的な感度があがっちゃってたよ」
そう言う啓子は少し顔が赤かった。ずぶ濡れになりながら二人は笑い、池を歩きながら手を繋いだ。新鮮などきどき感があって楽しかった。
「世界樹にはいかなくていいよ。願いを叶える樹なんでしょう?もし私の夢が叶っちゃったら遙たちから殺されちゃうよ」
魔法少女に復帰する時、この子は有希にライバル宣言を颯爽としていた。だけど中身は今でも全然変わらない、一歩引いちゃう損な女の子だった。そんな優しいところも実は愛おしかった。もし遙と出会っていなかったら。。。
「浮気しちゃおうかな。なんて、遙を愛してるから無理だ」
わざと聞こえるように呟いた。
「期待させるなって。最後に勝つのは無敵の遙でしょ?わかってるよ」
無理な戦いには挑まない方が賢いのかも知れない。負けてずたずたになることが分かってるから、この子は安全策を選んで泣くのだ。
服が乾いた頃、直接我が家に飛んでもらいそこで啓子とは別れた。
「おかえり、遅かったね」
「啓子と夜の魔界を散策してたら池に落ちた。服が乾くのを待ってたんだ」
事実を言ったが、啓子への精神的な浮気はバレてしまうだろうか。
「啓子は私のライバルだからね、受けて立つよ」
(遙の強さはどこからきてるんだろう)
「夜分に失礼かと思いますがお邪魔します」
有希が部屋に入って来た。
「あの、啓子の様子はどうでしたか。弱い子だから心配で」
啓子の一番の理解者はやはり有希だろう。
「変わってないよ。前と何もかも変わっていない純正啓子だったよ」
複雑だけどホッとした表情を有希は見せた。
啓子は美しく儚く脆弱だ。でもそれは欠点ではなく、彼女の優しさが産んだ美点だと思う。誰よりも人の痛みを知ってる啓子を俺は尊敬している。
密かに惹かれ合う明義と啓子。だけどその恋は絶対に実らない。切ないて儚い少女の恋の物語。




