①空飛ぶパンツ
重度のシスコンの山根明義は、ある日飛んで来る魔法少女のパンツに遭遇した。
俺はただの高校生だ。そこそこいい大学に入っていい会社に入社して、あわよくば可愛い嫁さんを捕まえて幸せになりたい普通の学生だ。
両親は二人ともそこそこいい会社に勤めており帰宅は遅い。学校から帰宅しても妹と一緒に二人でいることが多かった。妹は可愛いがあまり俺に懐いてはいなかった。彼女もおらず帰宅部で、時間は余っていたが塾にはきちんと通っていた。
「お兄ちゃんうざい。用事済んだら出て行って」妹の春香にそう言われたが、片思いシスコンなのでそうはいかないと言ったら枕を投げつけられた。
妹とのふれあいが済んだので風呂に入って夜の勉強をしようとしたら、TVで魔物が出たと言う報道があった。最近頻繁に出現したので驚かなかったが、中学生くらいの魔法少女がそれを迎撃してるので見逃がせなかった。
妹とほぼ年が同じくらいの少女たちは、果敢に魔物に立ち向かっていた。
「お兄ちゃんエッチすぎるんだよ。見る目がいやらしい」
いつの間にか俺の部屋に入って来ていた春香が、軽蔑の眼差しで俺を見ていた。
すぐにTVを消し、春香と同じくらいの歳の子たちが頑張ってるから見てるだけと言った。あくまで春香一筋で彼女たちには性的興味はないと言ったら、疑いの眼差しで春香は出て行った。こんなことで妹の信頼を失ったら大問題だ。今愛しているのは彼女だけなのだから。
春香が魔法少女になった姿を想像して興奮していた。誰よりもあの衣装が似合うだろうと思えた。二回も妹と会話ができたので満足した俺はそのままベッドで寝た。
学校の帰りにその魔法少女らしきものを偶然見かけた。しかし制服姿で、TVやSNSで見る魔法少女とは違った。練習中なのだろうと思っていたら、その子はバランスを崩し真っ逆さまに落ちて来た。落ちる時に手を下に向けていたのでそうじゃないと思った。下半身を抑えないと見ちゃいけないものが見えてしまう。
「スカートを抑えるんだ。でないとスカートとパンツが脱げるぞ」
大声で忠告したが、聞こえなかったようで案の定下半身がすっぽんぽんになった。白いパンツとスカートはひらひらと舞い、俺の頭の上に落ちた。そのスカートとパンツを拾い堕ちて来た少女に渡した。感謝はされたがその子の顔は真っ赤になっていた。誰にも着替えを見られない様に俺はその子の前に立った。
「ありがとうございます。お陰で誰にも気づかれず着替えができました」
その少女は礼を言ったが、俺がしっかり見ていたことは伏せておいた。
妹の春香LOVEなので、その子の大事なところを見てしまっても俺はまったく動じなかった。むしろ春香が今のシチュエーションで堕ちて来ないものかと想像した。
「なんか知ってる魔法少女と違うみたいだけど、まだ練習生とかそんな感じ?制服だと危ないから今度からスカートやめた方が良いよ」
と忠告するとまた感謝してくれた。
白いパンツというのはなかなか良かった。春香も概ね白だったからだ。
いや、そういえばあの制服は春香と同じなんじゃないか。もしそうならもう一度会って学校での春香の様子を聞きたかった。
「危ないから避けてください」あの少女に会いにまた同じ道を歩いていると、またしても落ちてきたが今度は下に体操着’(ズボン)を穿いていた。
それでも学習しない彼女は股を抑えずに落下したものだから、パンツは丸見え状態だった。俺はまたしても彼女の盾となり誰にも見えない様に立ち塞がった。
「二度も危ないところ助けていただきありがとうございます。良ければ仲間に会っていただきたいのですが」塾があるので断ろうとしたが熱意を感じたので付いて行った。仲間というのはきっと最近活躍してる子たちなんだろうと思った。
彼女に付いていくと、まだ明るい時間なのに辺りが暗くなっていった。オーバーテクノロジーで戦ってるのは知っていたので、これしきのことでは驚かなかった。やがて小さな小屋が現れ、いつもTVニュースで見る魔法少女たちが待っていた。
「こちらの方に二度も助けていただいたので来ていただきました。私を見てもまったく動ずることがない素敵な方です。えっとまだ名前は知りません」
「山根明義、高校二年生だ。偶然出くわしただけで俺は何もしていない」
迎えてくれた三人の魔法少女たちは、小さな小屋に俺を招いた。
「その子が内田遙、変身名がないので本名そのままよ。私たちの名前は知ってるだろうから自己紹介はなしね」その言葉に誰の名前も知らないと返事した。
「わたしたちの名前知らないってどういうことよ?わたしはポルックス・イエローで他の子たちはネットで調べなさい」
ひと際小さかったが態度は横柄だった。
青い格好をした女の子が飲み物を持ってきた。笑顔がよく温厚そうに見えた。
「遙のピンチを助けてくれてありがとうございます。私たちは注目度が高いので、その、下着を見られただけで大問題なんですよ」
それはわかった。俺が飛んでいたパンツをカメラに撮って拡散したら大騒ぎだっただろう。そういうことに全く関心がないことに感謝してくれ。
「遙はどんくさいのよね。助けてくれてありがとね」
このピンクの格好をした子も好感が持てた。胸が大きいのも美点だった。
「この小屋に来ても堂々としてるしたいしたものね。ねえ、わたしたちは何かと忙しいから手伝いでもしてみない」ポルックスに言われたが断った。
「それよりみんな墨田女学院なのか?遙の制服がそうなんだが」
みんなの顔が凍り付き、そのことを喋ったらただじゃ置かないと言われた。
最初から遥に私服で練習させてればバレなかったのに、名門女子校なのにこいつらは馬鹿なのだろうかと俺は思った。
「それは言わない。妹もそこだから注目させたくはないんだ」
身元バレは絶対にさせないことを誓うと、少女たちはほっとしていた。
「やっぱり何か大物感があるわね。是非一緒に悪と戦いましょう」
今度は黄色ではなくピンクからの頼みなので断れなかった。できること限定でやって見ると伝えると、四人は凄く嬉しそうだった。ひょっとしてブラック職場なのかと訝しんだ。
小屋を後にし、白、もとい遥と一緒に帰途に付いた。
「何だってあんなヘンテコな奴らに協力しようとしてるんだ。可愛いんだし危険なことに首を突っ込むない方がいいだろう」
ここまで言って余計なことを言ったと思った。可愛いと言う言葉は妹の春香にのみ似合う言葉で、その他の子には過ぎた単語だからだ。
「か、可愛いとかありがとうございます。悪から街を守りたくて、それと自分から立候補したわけじゃなくて勧誘だったんです」
顔を真っ赤にさせながら遙はそう言った。
鈍くさいからやめた方がいいよと言い掛けたが、一生懸命練習している姿には好感が持てたので言わなかった。なんでも素質より努力が勝つのだ。
動画で魔物との戦いをよくみていると、決して楽に敵を倒しているのではなくけっこう毎回苦戦していた。何かの拍子に殉職者が出そうで心配だった。ただ主人公補正とかは掛かりそうだと思ったが、誰が主人公なのかはわからなかった。
青い子はブルー・オリオンでピンクの子がピンク・プレアデス、星座関係で統一しているようだった。遥は何色で何の星座になるかが少し気になった。
「お兄ちゃんこれ何よ、なんで遙と一緒に帰ってるの」
最愛の妹に聞かれたが守秘義務で黙秘した、「遙は他校の男子から凄く人気あるんだからね。刺されないように気を付けてお付き合いしなよ」
な、春香に二人が付き合ってると誤解をされてしまった。
一刻も早く愛してるのはマイラブリィシスターだけで、遙とはただの仕事仲間(仮)だということを言いたかった。だが一緒に仕事ができると喜んでいた遥を思いやめた。
妹の春香に誤解された俺はしばらく元気がなかった。しかし手伝うと言った以上あの小屋に行かねばならない。春香がいつもの場所に現れるのを待っていた。
「お待たせしました、行きましょう」
遙はいつも明るかった。それが妹に誤解された俺を多少救ってくれた。
「え、洗濯?これ俺がやるの?」
遙の笑顔が多少苦いものに変わったが、やらねばならないようだった。
「あのもの凄く嫌そうな顔してますが、変わりましょうか」
「心配はいらないちゃんとやる。ただ妹の春香以外の衣服など興味ないんだ」
「山根...、春香ちゃんのお兄さんですか!いつも彼女にはお世話になっています」
思わぬところで接点ができた、「これはいいことを聞いた。実は妹に君と付き合っていると誤解されているんだ。間違いだと伝えてくれないだろうか」
そういうと遥は小声ではいと言った。
「信じらんないお兄ちゃん、遙を振ったそうね。泣きそうになりながら私のところに来たわよ。地獄へ落ちろ」
そもそろ彼女とは付き合ってもいないのに今度は振ったことになっていた。
何がなんだかわからないが、三人で会えば誤解は解けるのじゃないかと思い遥に近づくと避けられるようになっていた。
「死ね」黄色い魔法少女に言うとすかさず罵倒された。
「鈍いって一番たちがわるいかな。すぐ遙に謝ってね」
ピンクにそう言われたので、逃げ回る遙を捕まえ謝罪した、「結果的に君を傷つけてしまった、心の底からお詫びするよ。ただ俺は君を振った事実はないので誤解しないでくれ」
そういうと彼女が軽く抱きついてきた。ここまで来て初めて好意を抱かれていたことに気が付いた。度が過ぎたシスコンなので他人の感情に疎すぎた。
お詫びとして遙とデートすることにした。
人生初デートなので、春香に相談して場所やルートを決めてもらった。
「近いからしょっちゅう近くまでは来るけど、墨田川ってけっこういいな」
言問橋を渡りながら遥にそう言った。次は隅田公園に行く予定だ。
「かわいい池だね」遙がそう言ったので軽く頷いた。
公園がまるで珍しいかのように彼女は速足で見て回った。雑草や花を見てる彼女は無防備で、しゃがんだ時に白いパンツがまた見えてしまった。だが今度は私が凄く興奮してしまった。好かれているいることで意識してるのか分からず困惑した。
「あ、あまり見ないで下さいね」凝視していることがばれてしまった。
公園の次はスカイツリーに行き、その後は食事の予定だった。
「遙は演習終えたら何という名前になるんだ」そう聞くと自分で決めるんだと言う。ただ色はレッドで固定さえていると言った。
「俺が名前付けていいか?いい名前を付けられるかはわかんないけど」
そう言うと彼女は凄く喜び、俺が名を付けていいことになった。
「それはそうと山根さん、お付き合いしてください!」
予想はしていたが、予想外のスイーツ屋で告白された。
「俺でいいなら」
ぶっきらぼうだがやさしい声で言った。妹とは付き合うことはできない。だから恋人がいてもいいんだということに気が付いた。なら明るく元気な遙が良かった。
デートを終えると小屋に行ったのだが、二人が手を繋いでいることに魔法少女の先輩たちが拍手をしてくれた。責任は重大だった。
デートの三日後、遙の研修期間は終わった。
実戦に就くにあたっては変身コスチュームと二つ名が必要だったので、レッド・ペガススと言う名を付けてあげた。
いつの間にか俺一人だけでも謎の小屋に来れるようになっていた。
少しイメージをすると辺りが暗くなり、何時代のどの国なのか分からない場所にそれはあった。洗濯物にももう慣れそれぞれの衣装を吊るしたが、遙のものだけは見えない場所に干した。他の子の下着は丸見えの場所だったので、贔屓に対して抗議の声があがったが気にしなかった。
「そもそも年頃の女の子が下着を男に洗わせる方がおかしいんだ」
正論を言ったのでみな黙ったが、洗わせることをやめる気配はなかった。
「男一人じゃ問題がありそうなので、一人呼んでいいか」
「鈍感で動じないあんただから出入りを許したの。口が軽いミーハーだったら絶対にここには入れてないから」イエローはそう言った。
「うちの学校の生徒会長だよ。好奇心旺盛だけど、他人に喋る男じゃない」
「まあいいわ。あんたに任せる。今日はレッドのデビューだからちゃんと見ておきなさい。問題点があったらチェックしておくのよ」
いよいよ遙のデビュー戦、今までの頑張りを見せる時だった。
相変わらずみんなは苦戦している。ピエロの姿の敵のが優勢だ。
遙の赤いドレスはかわいらしかった。スカートが広がり過ぎていたのが心配だったが、ペチコートでしっかり大事なところはガードされていた。
苦戦する先輩たちに対して、新人のレッドが杖を振ると謎の光が杖に集まりそれを魔物に向けた。その光がピエロを包み込み、やがて敵は消滅して初陣を飾った。
小屋のスクリーンから自分の彼女に向けておめでとうと拍手をした。
帰って来た魔法少女たちの服は汚れていた。これが洗濯物が溜まる理由かと思い溜め息をついた。床に転がらなかった遙の衣装は綺麗だった。
「洗濯物が多い理由がわかった。苦戦して地に転がるからだ」
そう言って、もっと強くなって衣装を汚さないようと注文を付けた。最も遙のは洗いたいのでもっと苦戦して良いとも思っていた。
祝勝のお菓子とジュースは既に用意してあったので皆で食べた。
「簡単に言うけどけっこう強いんだよ敵」
ブルーは愚痴っぽくそう言った。
闘えない自分にはわからないことなので返事はしなかった。本音を言えばみんなが元気で帰って来てくれたらそれで良かった。苦戦しつつ必ず勝つからといって油断はダメだ。洗濯ならいくらでもやってやるから。
「ご褒美いただけますか」レッドこと遙がそう言うので、どうしようか迷っていたらキスコールが起こった。本当に迷ったが、唇は二人の時がいいので頬にキスした。