表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

02戻った命

だいぶ日が高くなったのか、

窓から指す日の光がいっそう強くなっている

チラつく光が目を刺激する

マリが重い瞼を開けると目の前には男が横たわっている


先ほどまで血に染まっていた布団や床は見る影もなく、すべて夢だったのかと思う

男の顔も死人のような青白さは無くなり、ただ寝ているように見える

慌てて男の胸元を見るが刺さっていたはずのナイフも消えて、全て元に戻ってしまっているのだ

確かにマリは魔法を使っていたが発動したつもりはなかったし

そもそもにマリの力では人を生き返らすことなんてできない

魔女の力は個人によって差があるものではあるが死んだ人間を生き返らせる力がある魔女なんて聞いたことがない


(とんでもないことをしてしまった)


起こってしまったことを後悔しつつ、この男の身に起こったことを調べないといけないとため息をついた。魔女の力としてありえない現象が起こっている、今までできなかったことができてしまったのだから何かしらの代償が発生しているかもしれない


「あの、すみません。ちょっと起きてもらっていいでしょうか」


寝ている男に声をかけて遠慮がちに肩を叩く

さっきまで死にかけていた男をこんなに揺らしていいのか少し悩みはしたが

先程の女が戻ってきて騒ぎだす前にここを離れた方が良いかと思い

とりあえず男を無理矢理たたき起こすことにしたのだ


何回か揺さぶっているうちに男は顔を歪め始めた


「あーなんだ…はっ、俺!!さっき死んで、いやそんなわけ…」


起きた男は先ほど自分の身に起こったことを思い出したのだろう

自分の胸元を触りながら何もないことに驚いている様子だ

(ちゃんと覚えてると言う事は男の時間が全て戻ったと言うことではないのか)

マリ以外の全ての時間が戻ってきたから傷が消えたかと思っていたが男に刺されたときの記憶があると言う事は傷口の部分だけの時間が戻ったと言うことになるのだろうか


「お前が、俺に何かしたのか」

「何かしたかと言うと多分したと思うけど、しようと思ってしたわけじゃない事は言っておく」

「どういうことだ」

「私は魔女よ。で、なんでかわからないけど勝手に魔法が発動してあなたの時間を戻してしまったみたい」


「魔女だと…!最悪だ、俺は魔女と寝たのか」

マリが魔女だと魔女だと話すと男の顔は明らかに嫌悪感に染まる


「誘ってきたのは多分あなたでしょう

 覚えてないけど、というか命を救ってもらってその態度は何」

「救って欲しいと言ったわけじゃないだろ!魔女になんか頼むかよ」


マリ若干イラつきながら男を見る

(なるほど、典型的な魔女嫌いの人間か。すごく面倒くさいことになった)

人間で魔女嫌いは珍しく無いので別に驚きはしないが、こんなことの相手となると最悪だ


「あなたがどれだ嫌でも起きてしまったことはしょうがないでしょ

 とりあえずあなたの身に起こった事は何なのか調べないといけないと思うんだけれど」

「俺を実験台にでもするつもりか?お前について行く気は無いからな!」


全く協力的ではない男の態度を見てこれは穏便にことを運ぶのは無理だなと悟り

今日のところは今日のところは一旦引くことにした


「私の名前はマリ。裏通りの宿に泊まっているから何かあったら訪ねてきてちょうだい

 で、あなたの名前は?」


嫌々ながらとりあえず男の名を尋ねるも男はこちらを見ようともしない


「あージゼルでいいんだっけ?」


目の前の男を殺そうとした女が読んでいた名前を思い出し

確認のために聞いてみるが男はこちらを睨みつけるばかりで返事はなかった。

マリはため息をつきつつ部屋を後にする



事件現場となった宿を後にしたマリは、この町に住む魔女のところを訪ねた。

『糸の魔女』を名乗っている彼女はこの町に数十年住んでいると聞いている


「それで?行きずりの男と寝たのはいいけど、その男が殺されかけて気がついたら生き返らせてたって  あんた酒の飲み過ぎよ」

「酒飲みの幻覚ってわけじゃないの。私も幻覚であって欲しいと思ってる位なんだから」


薄い灰色のふわふわとした髪を揺らしながら目の前の魔女はケラケラと笑っている

マリの言っていることを冗談だと思っているようだった


「あんたが珍しい『時の魔女』だからって人間を生き返らせるなんて無理に決まっているでしょう

 魔女は神様なんかじゃないんだから。そんなことはできないってみんな知ってるわ」

「私だって自分がそんなことをできるとは思っていないし

 でも、できてしまったんだから、しょうがないでしょう」


『魔女』は過去の魔女たちの名前を引き継ぎ、人によって使える能力が変わってくる

例えば目の前の『糸の魔女』は糸に関する力を持った魔女の名前を引き継いでいる

彼女自身の能力は物を解いて糸に変えてしまう事ができるが、

先代の糸の魔女は人の運命の糸を見ることができたらしい


『時の魔女』は魔女の中でも生まれにくい珍しいものらしい

時間を操る力は世の中に大きな影響与えることが多く、力の強い魔女であれば、国の宝として扱われることも珍しくない。

ただ、マリはとても力の弱い魔女として生まれた。

できることといえば、手のひらに乗るような小さなものの時間を戻すことができるだけ

この能力を使って機械やアクセサリーなどの修理を行って生計を立てている

手のひらより大きなものの時間を戻すこともできることはできるが

数分から数秒の時間を戻すことしかできないし、生き物の時間は1秒も戻せないはずだった。


「今までできないことができた理由は、あの男の『祝福』のせいじゃないかと思ってるんだけど、

 ジゼルって言う遊んでそうな男知らない?」

「その男、魔女嫌いなんでしょう?それなら私の客になった事はないと思うし、遊んでそうな男って

 言う情報だけじゃ何とも言えないわ。」

「それはそうよね~…もう少し情報集めてみるわ」

「そんな男ほっとけばいいのに」

「私も関わり合いたくて関わる訳じゃないんだけど、魔法をかけてしまった責任っていうのもあるじゃない?このまま勝手に死んでたら寝覚めが悪いし」


そうなったらその人間の運命よ。といって彼女は笑う

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ