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01壊れたネックレス

その夜のマリはとても機嫌が良かった。

その日の仕事の客は太っ腹で、いつもより多く報酬をもらえたのだ。


(最近ろくな仕事がなかったから今日はラッキーだな~)


マリは魔女だ。

数多くいる魔女の中でも特殊な力を持っているせいで

仕事をしてもあまり多くの収入を得られない毎日で、贅沢とは程遠い生活をしていた。

でも、今夜は違う。財布には少しくらい贅沢をしても問題ないくらいのお金が入っている。


ご機嫌な足取りで向かったのは酒場だ。

笑い声と怒声と陽気な音楽といい匂いがあふれる素敵な空間!

おいしい料理とおいしいお酒を飲むためにマリは意気揚々と入口をくぐり、カウンターへ向かう。


これが2時間前のこと。


「ますたぁ、このお酒おいしいですねええ」


いつもは飲めない量のお酒を楽しみ、マリはべろんべろんになっていた。

ほとんどカウンターに突っ伏している状態になりながら酒の入ったグラスを大事に抱えて少しずつ酒を飲む


(ふふ…たのしい~おお?)


視線の先にはいちゃつくカップルの背中が見える。

べったりとくっついて随分熱心にいちゃついているようだ。

顔は見えないがどろどろの砂糖菓子のように溶け切った顔になっているに違いない。


(店内でそんなに盛り上がるなんて、羨ましい!いや、けしからん)


ぼんやりとカップルを見ていたが、

急に目の前のマスターへ真剣な顔を向けると神妙な声で話しかけた。


「ますたぁ、男売ってない?」

「お客さん何言ってんですか、ここは酒場ですよ」


日々の生活に追われているし、魔女だし、男と出会う機会もない。

目の前のいちゃつくカップルを見て、すっかり忘れていた感覚を思い出してしまった。


いい男とイチャイチャしてウフフな生活がしたい!


マリは決意をした。売ってないならその辺の男を狩ればいい。

ガタリと勢いよく席から立つと、手元に残っている酒をグイっと一気に飲みこみ、

狩りの時間を始めるために一歩を踏み出した。


そして、そのまま後ろに倒れて気を失う。


遠くでマスターの「お客さんこんなところで寝られたら困りますよぉ」という声が聞こえた気もしたが

それよりも先に意識が飛んでいくほうが早かった。


***


ふらふらと揺れる視界の中に移りこんできたのは知らない天井だった。

部屋の隅にはゆらゆらと控えめな明りが揺れている。


(どこだ、ここ)


起き上がろうとすると世界が一回転するような酔いに頭をぶん殴られて、そのまままたベッドにノックアウトされてしまった。

ベッドの中で酔いと吐き気にボコボコにされて苦しんでいるとゆっくりと扉が開く気配を感じた。


「待たせたな。もう準備万端か?」


薄暗い部屋では顔も見えないが、声からして男だろう。

何の準備か知らないが、マリが準備できていることなんて嘔吐くらいだ。

おそらく人違いであることを伝えようとしたが、声を出そうとした瞬間に吐き気が先に出てきてしまう


「待たせたから拗ねたフリかよ。可愛いことするじゃねえか、可愛がってやるから楽しもうぜ」


そういって男は枕元の机に置いてあった酒をグイっと煽るとそのままマリへ口づけをしてきた。

酔いに酔っていたマリは深いことを考える力を失っていたのをいいことに

何も考えずに男の口づけを受け入れてそのまま流されていった。


****


次にマリを襲ったのは頭痛だった。

窓から指す日の光が目を刺激するたびにこの世の終わりみたいな痛みが頭に響き渡る。

土から出てきたばかりのグールのように布団から這い出ようともがいていると

手にふさふさとしたナニかが当たる。

よく見れば同じベッドの中に何かいる。布団がこんもりと膨れているのがその証拠だ。

恐る恐る布団をめくると、そこにいたのは裸の男だった。


「やっちまった…」


ガサガサの声でつい呟いてしまうが、男が起きる気配はない。

まあそうだろうなと諦めの気持ちで自分の身体も確認するが、しっかり裸。

しかもきっと致したんだろうなという感覚が残っている。


一瞬で脳をフル稼働させた結果、マリがはじき出した答えは「逃げるか」だった。

いい思いができたラッキーな一晩の夢として、無かったことにしてしまえばいい


「何にも覚えてないのが悔やまれるけど、いい夢をありがとう知らない人。グッバイ…うぐっ!」


そろそろとベッドから降りようとすると、マリの癖の強い赤毛が引っ張られる。

どうやら、男のネックレスが髪に絡まっているらしい

今の衝撃で男が目を覚ましたかもしれないと恐る恐る隣を見るが、先ほどと変わらず寝ている


(危ない危ない。ほんとこの髪は扱いづらくて嫌になるな)


ホッとして絡まった髪をネックレスから外そうとするが、なかなか取れない

相手が起きてしまうかもれないという焦りと取れないことへのイラつきで段々手つきが雑になっていく


(ここをこうして、ああもう!!…あ)


思いっきり髪を引っ張るとブチッっと嫌な音がする。

まさかの髪ではなく、ネックレスがちぎれてしまった。


やってしまったと頭を掻きむしりたくなるのを抑えて、散らばったネックレスの欠片を集める

超高級品ではなさそうだが、少し年代を感じる代物だ。

見た目はチャラそうなこの男だが、意外に物を大事にするタイプなのかもしれない

うっすらとした罪悪感と後で請求されたら嫌だなあという大きな気持ちを解消するために

マリは証拠隠滅をすることにした。


集めたネックレスの欠片の前に手をかざして、魔力を集中させる。

カチカチカチと魔力でできた針が戻っていく

ネックレスの時間は3分戻る

そして、なにもなかったかのようにネックレスは男の胸元にぶら下がっていた。


「なんも覚えていないけど、いい夢をありがとう」


寝ている男を拝んでから、こっそりと扉を開けておさらばしようとすると

開こうとしていた扉が勝手に開いていく


「ちょっと、あんたアイツの何???」

「え...どなたでしょうか」


目の前には、きついメイクにバリバリに巻いた髪の毛の女が仁王立ちで立っていた。

そしてその顔はどう見てもかなーり怒っている


「昨日、約束すっぽかして部屋に来ないと思ったら同じ宿の別の部屋で他の女と寝てるですって!!」

「うわ、最低だ」

「そうよ!最低なクソ野郎よ!!!こんな女と寝て、私を裏切るなんて!!」

「こんな女…」


こんな女呼ばわりされるのは納得できないが、お怒りな彼女を刺激してはいけないと黙る

まあ、そもそもこんな女のことは目にも入っていないようで

女は、マリのことは無視して一直線にベッドで寝ている男のもとへ向かっていく


「ジゼル!!起きなさいよ!」

「う゛ぁ、頭いてえ、大きな声出すんじゃねえよジャクリーン」

「な!ジャクリーンって誰よその女!!そこの女のこと!?!?」


ばっと振り返って鬼のような形相でこちらを見る女に、「チガイマス…」とフルフルと頭をふる


「あんた!?何人の女がいるのよ!!!最低!最低!」

(ほんとに最低だ)


心の中で同意はするが、巻き込まれたくないので声には出さない。

修羅場なんかに巻き込まれてもいいことはないのだ


「私のことが一番好きで、一生一緒にいて、死ぬまで尽くすって言ったのは嘘だったのね!」

「落ち着け、ダリア。半分くらい言った覚えがないし、そもそもお前も遊びだったろ…」

「遊び!?ふざけないで!私の純情をもて遊んだのね…もういいわあんたを殺して私も死んでやる!」


女はバッグから取り出した手のひらくらいのナイフを男に向かって振りかざす

男は女の手をつかんで止めようとするが、女が男の服に足元を取られて男の胸へダイブしていく

マリからは、すべてがスローモーションのように見える

女の手のナイフが男の胸に吸い込まれていき、ゴポリッと赤い血が盛り上がっていく


女はパニックになったのか泣きながら部屋を飛び出していった。

残されたのは、胸を赤く染めた男と部屋の隅に立ち尽くすマリのみだった

ハッと我に返って、男のもとへ駆け寄る


「ちょ、ちょっと!大丈夫!止血、止血して間に合うのこれ」


どうしていいかわからないが、とりあえず血が出続けるのはまずいと

ナイフの刺さった男の胸を手で押さえてみるが、指の隙間からどんどんとあふれ出ていく

男の瞳は閉じかけていて、命が失われていっているのがわかる

マリはパニックになりながら止まれ、止まれと抑える手に力をこめる


カチカチカチ…


なぜか、魔法を使うときに聞こえる時計の針の音がする

マリは魔法は使っていないのに


ぶわっと体中の魔力が抜けていく感覚がしたと思ったら

男の身体の上に魔法の針が表れてどんどんと巻き戻りだした。


「ぐ、なになになに!」


使ってもいない魔法が発動して魔力は全部持っていかれて今までにない現象に目が回る

ついに意識が朦朧としだしてドサリという自分が倒れる音がした




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