78、表層現出
未だ医療用カプセルは破壊されてないので、目標の居場所は筒抜け。
ふふふ、私からサイトを奪えますか?
させませんよ。
……何か誤解されるような気がしないでもないような? いや今はどうでもいいか。
目標まであと十八キロ。
目標は時速三百程出しているようですが、私はマッハ三、つまり時速三千六百キロで追尾しているのでもう見える頃でしょう。
あ、何かこめかみ辺りがズキリとします。や、やばい。
アタマガイタイ。
!? 右へ急旋回!!
球体に垂直翼の戦闘機四十機の編隊からの機銃掃射を回避。
機銃から放たれた銃弾は淡く光り、辺り一面を白に染める。
戦闘機は私の右前を抜いて行く。
また旋回して私を狙い撃つつもり……みたいです、ね。
時間がないんだ、消えてしまえ。
【電子砲】薙ぎ払い。
白い閃光が扇状に広がり、編隊は次々と爆散。
空一面に黒煙が上がる。
殲滅。いや、取り残しが一機。
私に機銃を放ちながら飛び込んで来る。
無駄な事を。
【電子砲】第二……痛っ。
アタマガイタイ。
まずい! 【魔法障壁】!
ガガガガガガ、【魔法障壁】に機銃弾が突き刺さる。
ですが、戦闘機の火力は【魔法障壁】を破れる程ではなかったみたいです。ふぅ、びっくりした……。
落ち着いて、【電子砲】で落とします。
い……急がないと。距離が大分離れてしまいました。
ハ。何でこんなに頭が痛いんだか。
こんなときなのに……自分自身の体調にムカついて来ますね。
「ホント……ムカつきます」
あの戦闘機は時間稼ぎだったんですね。
体長八十メートルに巨大化した、頭が竜で体が触手だらけの例の魔物が、私の前に浮いてこっちを睨んでいます。
【電子砲】を立て続けに十発発射しますが、そのあまりの巨体に開いた穴はあまりに小さい。
私の攻撃に対しての反応は、口を開けるだけ。一体何をす……
ギャォオォオオオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!
っ! 唐突に放たれた咆哮。うるさい。高級耳栓でも付けていればよかった。
ぐ、一瞬の硬直の隙に四方八方が触手で埋め尽くされている。咆哮は計算されてやってたのか……。
そしてあらゆる角度から大小、形状様々な触手が襲い掛かる。
ぜ、全方位攻撃!?
ま、【魔法障壁】を展開!
球体に展開された【魔法障壁】を触手は叩き、突き、斬り掛かり、締め上げ、光線を照射する。
何とかなりそ、ぐ……アタマガイタイ。
【魔法障壁】からメキメキと音が。
まずいっ! さらに魔力を【魔法障壁】へ。
触手の絶え間無い攻撃に【魔法障壁】は逐次崩壊し、それを修復していくジリ貧な状況。
さっきの頭痛の隙に破られた部分から【魔法障壁】が不安定になっています。これをどうにかするには一度解除し、再度展開しかないです。
こ、このままじゃ圧死は確実ですね。
どうすればこの窮地を脱すれる……どうすれば…………。
こうしている間にもサイトは離れて行く。時間がない。
どうすれば、どうすれば、どうすれば、どうすればどうすればどうすればどうすればどうすれば……。
全部昇華させる。
【絶対零度】と【灼熱】。
【絶対零度】と【灼熱】を千数層にも重ね合わせる。
私がいる核を摂氏二十度として、そこから層毎に温度を上げていき、触手が存在する第千二百層は摂氏六千度の大気で触手を焼却する。
もう少し触手までの距離があればさらに強力に出来たのですが……あの咆哮時のミスはつくづく悔やまれます。
この多重熱冷層結界とでも呼ぶべき【灼熱】と【絶対零度】の連携で何とか触手の檻から抜け出さなくては。
三秒後、実行。
三……二……一、【魔法障壁】から多重熱冷層結界へ。
アタマガイタイ。
な!? こんな時に!!?
展開に失敗!! 元々複雑過ぎたか!?
迫りくる灰褐色の幾つもの大小様々な触手。
あぁ……来ないで……く、来るな来るな来るな来ないで来ないで来るな来ないで来るなクルナクルナクルナクルナクルナコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデコナイデエエエェエェエ!!
『私は死なない、まだ死ぬ訳にはいかない。何故なら……』
アレシア‐J‐バルカ。
表層現出。
ここからは私がやる。あなたは寝ていなさい。
0.00000001秒経過。
スカウ……モノクルで対象分析。
触手の分類、小型槍型二百八十三本、中型締め上げ型三十五本、大型先端より光線発射型二本。
小型さえ潰せば避けるのはたやすく、また小型は脆い。
0.008秒経過。
攻撃が広範囲である必要はない。この触手の檻から抜け出せればどうにでも出来る。
ならば、ここから抜け出す一筋の道さえ作ればいい。
0.03秒経過。
ハリソン魔法3197改拡散型【電子砲】。
収束。
1秒経過。
発射。
円錐状に広がる閃光。
威力より拡散を重視した一撃は、小型触手を確実に消し飛ばす。
青い空が見える。
私は空を目指す。
開けた空間が狭まっていく。どうやら触手は再生するようだ。
間に合え!
私は加速する。
くっ、目の前には二本の大型触手。
先端が光り輝き、光線が私に向かってくる。
私は回避運動を取る。
しかし、放たれた光線は飛行ユニットの翼を砕いた。
残りの翼、四。
速度が急速に落ちる。
後、少しだが……既に空は狭まり、触手が視界を塞ぐ。
もはや、通れはしない。
私はつい、笑みを浮かべてしまう。
「そんな事で諦める訳ないでしょう?」
【電子砲】、一点集中。
僅かでいい。
道が開けば。
道は開いた。