77、懐かしい人、場所
数八百七十の大群が、あと五分内に来る訳ですか……。さっきの二百ちょいを殲滅するのに三十五分近くかかったのに。
……ふう、やるしかない訳ですね。悩んでいる時間が惜しいです。
「ディーウァ。敵がとんでもない量来ますけど、それでも……手伝ってくれますか?」
『もちろんです!』
ディーウァは元気よく返事を返し、直ぐさま戦闘機へ。
八百七十もの魔物が接近中なのはディーウァのレーダーにも反応していて分かっているのに、残ってくれる唯一の味方。何か、嬉しいです。
「……助かります」
聞かれるのは恥ずかしいので、こっそり呟いておきます。
さて、気持ちを引き締めて。
どう攻めればいい?
…………八百七十、かなりの数ですよね。無駄な小細工は強引な力技に押し切られてしまうでしょう。
残り時間は四分三十一秒。つまり、二百七十一秒。ならば【電子砲】を毎秒三発当てれば殲滅可能。まあ、全弾命中と仮定してですがね。
そこに、高い空戦能力を持つディーウァがいれば……いけそうな気がしてきました。
「ディーウァ……」
『何です? 回り込むです? それよりもっと凄い作戦が「撃つ」……はい?』
「撃って撃って、撃ちまくりましょう。データリンク開始。私は右から、ディーウァは左からで」
『……は、はいです!』
【電子砲】、速射。
毎秒三発。なおかつ、あの魔物を貫くだけの破壊力を維持。データリンクにより、同じ目標を狙う事は避けられます。
隣ではディーウァが下部の格納式兵装庫から五連装ミサイルランチャーを出し、ミサイルを連射してます。
これで殲滅しつくせればいいのですが……。
残り、十秒。残存数、二百六十三。
さすがに無茶だったですかね……。毎秒三発なんて高速で撃ちつつ、魔力枯渇を避けるために威力を魔物を殲滅出来るぎりぎりに抑えようとしたため、当たっても倒せないという事態に。今、私の魔力量はとんでもなくある事に気付きましたが後の祭。普通こんなにあると想像できませんよ……いや、これは言い訳ですね。
ディーウァはミサイルを撃ち続けています。ミサイルはしっかりと全弾着弾し、完璧に魔物を屠ってますがいかんせん発射量が少ないんです。
『ご、ご主人様! どうするです!? 近いです!!』
ディーウァもかなり焦っているみたいですね。ふふ、私もですよ。
うぐ、何も思い付かない。頭がこんがらがって……うがああ! も、もう自棄です! 全魔力使ってやる!
魔力を収束、収束……収束…………収束………………収束。
最大出力【電子砲】発射。
!? 何て反動なんでしょう。私は吹っ飛び、もはや何処にいるのか、空はどちらが上でどちらが下かも分かりません。
あ。凄い……それでも視界には私が発射した【電子砲】が見えます。直径五メートルはある光線が魔物の群れを分断しています。
しかし、【電子砲】は直線にしか進まない……直撃した個体は全て倒したようですが数は未だ二百二十一。
はあ、自暴自棄は駄目ですね。
あぁ……もう駄目か。私は守りきれなかったのか……。
ん? 火球?
火球が魔物に発射されている。
ディーウァの新兵装?
いや、違う……軍の魔法師。彼らの魔法攻撃です。火球が雨あられと魔物に降り注いでいます。
他にも雷撃に、水球に、鎌鼬。そういえばここは学園都市。魔法教育が行われてもいたんでした。学園の生徒や、先生らしき人々も協力しているようです。
二百以上いた魔物の数がじわじわと減少しています。
私の魔力はこの三十秒程で五割回復。戦線復帰可能。一緒に町を、サイトを守りましょう。
軍の人や学園の人と協力する事で、二百いた魔物は全滅。さらに第三陣も何とか返り討ちにしました。
私はサイトの元へ降り、まだ解凍に十分かかる事に気付き驚きます。
まだ、一時間経ってなかったとは……。
『サイトを、助けるです?』
「え?」
ディーウァが私の肩に降り立ち、不満を漏らして来ます。確かにディーウァにしてみれば、何故怒らないのかといった所なんでしょうね。
「ディーウァ。サイトはですね、病気だったんですよ」
精神汚染という厄介な、ね。
『病気?』
「ええ、心の病気。だから許してあげて下さい」
『…………』
黙り込んでしまいました。まあ、簡単に許すはずもないでしょう。
『分かったです!』
「よ、よかったです」
内心、びっくりしてます。そんな早く許せるなんて私には、無理。
「ディーウァは心が広いんですね」
あ、何かえばってます。それもまたほほえましい……。
私がディーウァで和んでいると、軍や学園の人々がこちらに集まって来ました。
第二、第三陣は彼らが主力となりあの竜タコとでも呼ぶべき魔物を倒せたのです。
お礼と言ったら何か表現が違う気がしますが、とにかく感謝の意を示すべきでしょう。
あ、サイトは隠しときますか。兵に怪我させちゃってます。いくら病気と言っても納得してくれるかどうか……。
「心の広いディーウァ、サイトは騒がしいのは駄目な状態なので、遠くに運んでくれませんか?」
『分かったです!』
ディーウァがサイトを見えない所まで運んで行くのを眺めている間に、軍や学園の人々との距離が随分と縮まっていました。ここからなら声が届きそうですね、最初に私の気持ちを述べておきましょう。
「あの、皆さん、ありがと「アっレシっアちゃーーーん!!」……ふえぇ!?」
な、何です! 何なんですか!?
いきなり金髪の黒ローブに飛び着かれ? え?
この人、見覚えがある気が…………。
―――――
ソウ、ワタシハニュウガクシケンノタメニ…………。
「すっっっごーい!アレシアちゃんすごい!!!」
ナゼ、ワタシハホメラレテイルノ?
―――――
「アレシアちゃん? どうかしたのー?」
「は。あなたは、入学試験の時…………」
「そうそう。私、アレシアちゃあ、あぁ……ふえぇ〜し、心ぱ、うあぁあぁあ〜ん!!」
な、泣き出す程心配……かけてますね。思い出した記憶の私はちっちゃかったですからね、数年は行方をくらましていたのではないかと推察出来ます。
この女性も泣いていますが、他にも泣いている人が数十人。
私、どんな人だったのでしょうか。
あ……頭痛がまた、強まって来ました。
その時鳴り響くモノクルからのアラート。ピピピピピピピピピピピピと、頭に辛い音です。
『ご……様、サ……ト…………なさ……』
「ディーウァ? 何があったんですか? ディーウァ!?」
『…………』
な……。
アタマガイタイ。
ディーウァの状況、大破。さらに、医療用カプセルが何者かによって運搬されています。
行かなくては。
飛行ユニット、展開。
アタマガイタイ。
「どこに行く気?」
しかし、女性が離れてくれません。
「仲間が死にそうなんです。行かないと」
アタマガイタイ。
「嫌だよ!! またいなくなるんでしょ!?」
叫んだせいで私が何をする気か周りにも気付かれてしまいました。
「アレシアちゃん行かないで!!」
「行ってはだめだ!!」
「まだ両親にも再会してないんですよ!!」
皆さん必死に引き止めてくれます。ここには、私の居場所があるのかも知れません。
「すみません。また必ず戻って来ます」スタンガンで女性の意識を刈り取り、音響閃光手榴弾で周囲の人達の視覚と聴覚を奪います。
確かにここには居場所があるのかも知れないですが、そこにディーウァがいなくてはいけないんです。ディーウァは私にとってはそれほどの存在なのです。
アタマガイタイ。
ですから、即座に低空を駆け抜けディーウァの元へ。
すみません。
「……これは」
飛び立ち四キロ程の地点にディーウァがいましたが……右翼が完全になくなり、左翼も半分程ありません。さらに周囲の木々はほとんど倒れていたり、地面がえぐれていたりと戦闘の後が見て取れます。
「ディーウァ!!」
ディーウァは私の魔力で成り立っているのですから、私の魔力を注ぎ込めば治るはずです!
ディーウァの機首に手を置き、魔力を流し込みます。
アタマガイタイ。
私の魔力をあらかた流し込むと、小人状態にはなりましたが完治。後は意識が戻れば……。
「ディーウァ、ディーウァ? 大丈夫ですか? 大丈夫ですか!?」
『……ご主人様』
よかった……目を覚ましました。
「何があったんです?」
『いきなり襲われたです……後は覚えてない、です』
「……そうですか」
一体何が起きたのでしょうか。
それはそれとして、ディーウァを大破させた借りは返さないといけません。
アタマガイタイ。
罪を償わせてやります。
医療用カプセルの位置情報から目標を確認。中々速い……ですが私が追いつける程度。
覚悟しなさい。