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76、二百対一




一時は十数匹にまで減った魔物も、あらゆる空域から集まって来て数を増やしています。ファランクス改を対魔物にあてていますが弾丸を前方に射出する兵器である以上、どうしても死角が発生しそこからどんどん侵入。


私が魔物を殲滅すればいいのでしょうが、目的はサイトの精神汚染を浄化する事ですから。十数分前から私はサイトへ、ゴムスタン弾を撃ち込んでいるもののサイトも身体を強化しているみたいで、もはや直撃すら気に留めずショットガンをぶっ放して来ます。


まあ、私はサイトと違って自由に飛行出来ますから一度もショットガンをくらってないですが。


しかし……そろそろ別の方法を試さないといけません。スタンガンによる感電? ゴムスタン弾の至近射撃? いずれにしろ接近戦か……嫌だなあ、近付くとかありえないなあ。


でも……やるしかない訳ですね。


では、どう懐に入るか? 今回は得物がショットガンですからまだよかった方でしょう。以前の小刀とかだったら懐に入る勇気ないです。


やはり、感覚器官を一部無力化してからですね。


音響閃光手榴弾。


次に、手榴弾をサイトが魔物を踏み台に跳び回る状況でどう当てるか……。


近くにいる空飛ぶ魔物は……三十七。


モノクルの分析により、その他に町を襲ったり、接近中のが千三百。ん? 千?せ、千……あ、本当に? 間違いは……ない。


第一陣は二百十。ちなみに町にいるのは十二。


第一陣到着まで約三十分。


第二陣が主力的な存在で八百七十。到着まで約四十分。


第三陣が二百二十。到着まで約四十五分。


これまでに決着を着けなくてはやばいです。いやー、やばいです。うん、やばい。


つまり……このまま私が躊躇してたら、今よりはるかに難易度が上がっちゃうと。


よ、よし。や……やるぞ!




………………まだ三十分あります。もうちょっと、もうちょっとだけ様子見しましょう。ええ、少しだけ。少しだけ、ね。






あー、もう二十分経ったか…………。後がなくなってしまいました。


もう本気でやるしかありません。サイトめ……事前に調子悪いとか言ってくれれば何とかなったかも知れないのに。


もう一気にやります! やってやろうじゃないですか!!


「ふ、ふりゃ〜!!」


サイトが乗ってる魔物へ真っ正面から音速の三倍で突進。勢いが大事。


サイトからショットガンが放たれ、魔物もこちらへ気付き突っ込んで来ます。


私は全神経を集中。


ショットガンスラグ弾弾道解析……読めた。


右へ二十一センチ。


く………………避けた。


次は魔物。私を捕らえんと口を開き、触手を伸ばす。【魔法障壁】展開。私へと届いた二本の触手の先端が【魔法障壁】を貫かんとする。


ぐにいいぃいぃ……た、耐えた!


何とか押し飛ばされずに軌道を維持、そのまますれ違いざまに音響閃光手榴弾を使う。


後方から炸裂音。


私は振り返り、状態を確認。


ふふ……成功です。魔物は地へ墜ち、サイトは目を押さえています。


だが終わりじゃないのですよ。


サイトへ接近し、至近距離からゴムスタン弾を続けざまに三発頭へ撃ち込む。


普通ならゴムスタン弾とは言え、こんな事したらただじゃ済まないんですが、サイトは身体を強化してますからこれが妥当でしょう。


「むぐぅっ!!」


何て頑丈な頭なんでしょう。まだ意識があるなんて……。射撃方向や発射音から位置を割り出され放たれたショットガンの一撃を咄嗟に【魔法障壁】で防御したんですが、吹っ飛びましたねー。百メートル以上は飛びました。


あー……作戦は失敗か。残り時間は十分ないです。


もう、駄目なんでしょうか。


いや……何とかなるかも。サイトはただただ落下している動く的。ならあれが出来るかもです。


これはやりたくなかったんですが…………先に謝っときます。


「すみません」




【絶対零度】。


分子構造を傷付けず、熱エネルギーを適切に与えれば元に戻るように凍結。


魔法的防御をぶち破り、サイトを凍り漬けにします。


そのまま地上に墜ちると砕け散るので、PUH−60ブラックホークヘリコプターに乗せ、シシリー郊外へ降ろし医療用カプセルへ入れて……よし、完了。


「治りますか?」


『解凍作業ガ、一時間ホドカカリマス。ソノ後デナイト診察デキマセン』


カプセルの人工知能からの返事は解凍待ち。


「そう、ですか……」


では、それまでカプセルを守り通さないといけません。


逃げるか? いや、地上を見た所低速なら別として高速で飛行する魔物を倒す術をあの兵達は持っていません。

つまり、サイト及びこの町の住民の二つを守らなくてはならない、と。いや、私はそんな正義な人柄ではありません。

守らないと私が将来大きな罪悪感を抱きかねないからやるんです。だから大量の魔物群を殲滅せねばいけないんです。そ、そうに決まってます。だって私が正義なんてそんな偽善としか言いようのない事する訳ないじゃないですか。そうです。私は…………おっと、時間がないのに……考え込んでる場合じゃないです。


また上空へ舞い上がり、モノクルで正確な位置を確認。選択兵装枠は医療用カプセルに使用している以上、魔法で対処を図らなくては。


距離五万六千メートル。飛来まで約三分。


【電子砲】……発射。


一筋の閃光が地平線を駆け抜けていきます。敵は数が多いため、【電子砲】は一秒に二発で毎分百二十発。砲撃は正確さに若干欠けますから、こちらも数で勝負です。




……対象を目視で確認。距離三千。


数、四十二。


飛来まで十秒内!


明確に私を狙って接近中!


ちっ、【電子砲】が目立ちすぎでしたか。


ですが、この距離なら外しません。


的確に一匹ずつ撃墜していきます。


数、四十一、零……三十九、八……三十七、六……三十五、四。体に穴を穿たれた魔物達が地へと墜ちていく。


駄目。一秒二匹では間に合わない。こうなったら大雑把でいいから、攻撃範囲を広く取って数を減らす。




くらえ、口径二千ミリの【電子砲】。


極太の光線が数匹を気体へと昇華させる。


距離千百。残り、三十二。あんまり意味ない!!


いや、薙ぎ払えば!!


【電子砲】を右へ薙ぎ払う。


距離五百。残り、十三。


次は左へ……っ。軌道を変えるのは、き、ついです。


「てあぁっ!」


よし、減っ……数、三。距離五。


近…………煉瓦壁を易々と貫く触手が何本も私へ放たれる。


『ご主人様!!』




あ、イイトコ持ってった。


ディーウァが発射したミサイル三発全てがそれぞれ直撃。空から大地へ落下し、まあ、表現するのが憚れる惨状。


『大丈夫です!? 怪我はないです!?』


ディーウァはかなり取り乱しいるみたいです。


「大丈夫、ディーウァのおかげで奴らは全滅しました。あと、怪我もないですよ」


という訳で安心させるよう、ゆっくり優しく言い聞かせます。


『よか……』


ディーウァは唐突に小人に戻り、私の胸に飛び込んで来ます。


『うわあぁあぁん!! 心配したですぅ〜!』


え、泣くんですか。ど、どうすればいいのでしょうか? 撫でたりすればいいのかな?


『ふぅう……うぇえぇー。こ、怖かた……起きたとき、ご主人様がいないの…………』


まあ、いきなり気絶させられましたしね。でも空戦やろうって時に、ポケットに入れたりしてたらまずいですからね……。


「そうですね、心配かけましたね……」


ディーウァの頭を撫でながら、また優しい口調で宥めます。




ひと時の平穏。


しかしあと数分で約八百七十もの魔物がやって来ます。


二百であれだけ苦労したのに、八百とかどうすればいいんでしょう…………………………。


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