71、チヌーク、着陸
ディーウァに記録されていた位置情報を元に、速度の遅いPCH−47チヌーク輸送ヘリコプターと足並みを揃え、あのリップさんとか言った名前の村長がいる村を目指します。
数十分もすると今までの単調な枯れ木の森ばかりの風景に、僅かばかり開けた土地に家屋が見えて来ました。
ヘリコプターが着陸する事は可能でしょうか……あー、何か広場に人が集まってこっちを見ていて、その影響で着陸スペースがなくなってしまいましたね。出来ないです。
だったら、あの海岸の砂浜に着陸しましょう。あそこなら多分大丈夫な筈。
機首を浜辺へと向け、数十秒もすると着陸可能な広いスペースを見つけ、私は一足先に無事着陸……と。
その後を追うようにディーウァ、チヌークの順番に着陸していきます。
エンジンが止まり、砂が私に降り懸かないようにするまで【魔法障壁】で防御。魔力をこんな事に使うなんて、何か贅沢な気分。
次に、ディーウァは自己判断出来るから任せるとして、PCH−47の後部ハッチをモノクルによる遠隔操作で開きます……が、出てきませんね。何しているのでしょう。
モノクル以外を消去し、後部ハッチから中に入り様子を見に行きます。
皆さん放心状態?
固まってます。何というか、エルフが硬直するのをよく見ますが……種族の特徴なのでしょうか。
「どうかしましたか?」
「……飛んだな…………」
「あぁ……」
「……うん」
呆然とした表情で呟く皆さん。そういえば飛行体験なんてありませんでしたね。初体験なら驚くでしょう。……ん? ならば私は、やはり飛んだり跳ねたりしていたんでしょうね。だから飛行ユニットにより飛んだ時も飛行に恐怖感を抱かなかったですし、飛行の腕もよかった訳です。
「あ、ああなた! 聞いているのですか!?」
「え?」
「ですから、よくも私をあんな目に合わせましたね!」
考え込んでいたら、あのウルースマ様付きのメイド長に詰め寄られていました。
「しかし……あれは乗らないとあなたが駄々をこねたから……」
「その程度で力を振るうのですか!?」
弱々しい反論を展開してみるものの、私自身がやり過ぎたと感じている部分を攻め込まれ、大きな打撃をくらいます。
皆さん見てないで助けて欲しいんですけど。そこまで空飛ぶのは衝撃的でしたんですか……。
「大体あなたはですね!! いきなり暴力を振るう事で人間の印象をおとしめているんですよ! 人間全体に迷惑かけているんです! そして我々エルフにも誤解をあたえかねないんですよ!? つまりですね…………」
皆さーん……余韻に浸ってないでこの人何とかしてくれませんかね〜。
「聞いているんですか!?」
「は、はい……」
もう疲れました。どうにかなりませんかね……。
「きゃ〜♪ おっかえり〜♪」
「ふえ?」
「何ですかあなたは!?」
いきなり背後から抱きしめられた私。また接近に気付けなかった……本格的にまずいです。
それはそれとして、この無駄に明るい人物はプルチェさんでしょうか。
「プルチェさん、ですか?」
「当ったり〜♪ あう〜、気持ちいい♪」
うぐ……頬をすり合わせたり、髪の毛をわしゃわしゃしたり…………何がしたいのこの人。
「ちょ、あなた何者ですか!?」
当然ながらメイド長さんはお怒りの様子。
「プルチェだよ?」
「そうですか。では、プルチェさん。その娘は今、私と話をしています。さっさと離れなさい」
ですが、メイド長さんは領主の下で働いているのです。この程度のストレス、受け流せるのです。言葉尻に怒りを覗かせながらも、冷静に対処します。
「ふあー、いーにおい♪」
その発言を完全に無視し、私の体臭を嗅ぐプルチェさん。止めてほしいです。
「き、聞いているのですか!?」
流石に爆発しちゃいましたね。しかしここまで無視出来るのは、ある意味凄いんじゃないでしょうか。
あと、かなりどうでもいいですが、「聞いているのですか!」を何回言いましたかね?
「あ、嗅いでみたいの?」
いや、メイド長さんを無視はしていなかったみたいです。でもその対応はおかしいですよ、何で私をメイド長さんに突き出してるんですか。嗅ぐ筈ないでしょう。
「何でそうな………………」
……何で匂いを嗅いで動き止めるんですかね。そこまで酷いんですか。せめて……何も言わないで下さい。臭いとか言わないで下さい、本当に心に突き刺さりますから。
「…………」
意味分からない! 全然分からないです!
何でメイド長さんまで抱き着いてくるんですか?
何で私の髪の毛に顔を埋めるのですか?
プルチェさん、あなた洗脳したのですか?
というか、誰がこの流れを変えてくれるんですか?
「こらこらプルチェ、アレシアちゃんが困っているじゃないですか。離してあげなさい」
「え〜〜」
「今日の夜はヤリませんよ?」
「……は〜い」
「ありがとうございますと、お久しぶりです。ヤニトーさん」
「僕も無事に帰ってきてくれて嬉しいです」
プルチェさんの魔手から救い出してくれたのは、彼女の亭主のヤニトーさん。代わりに抱き着かれてますが、まあ、夫婦ですしいいや。
「イブキ、彼らは?」
ようやく平常心を取り戻したのか、イーザル様から質問が飛んで来ます。
「男性がヤニトーさんで、女性がプルチェさん。お二人は夫婦で、私達がここに来てから最初に色々と助けて下さった方々です」
「こやつらが……ん? もしやそなたらは結界の……」
「流石領主様。確かに僕たちはエルフの島に結界を創っている守護の者です」
むむ、エルフの守護の者ってまさかヤニトーさんが島に結界を……?
「やはりか……。契約もしておるようだな」
「お分かりですか」
「ふ。我を誰だと思っておる」
「それで……何か御用でしょうか」
「いや、イブキの付き添いだ」
「……そ、そうですか。では、どうしましょうか。村にもこれだけの人数宿泊出来るかどうか……」
あ、それは考えていませんでした。何かありますかね…………うん、選択兵装の中に居住可能な物があると言えばありますね。しかし全部軍事目的の物ばかり。確かに兵装だから仕方ないのでしょうが……。
ええもう仕方ないんです。じゃあどれにしますかねー。やはり船になりますね。沢山あってどれにすればいいやら……うーん、まあ広いのがいいでしょう。
ニミッツ級航空母艦。全長三百三十三メートル、全幅四十一から七十六.八メートル。五千人は乗船可能。F/A−18戦闘機やらE−2Cホークアイ早期警戒機やら七十五機が運用可能。はい、大きすぎですね。いやしかし船だという事は港がない以上、ある程度沿岸に停泊しなくてはなりません。船までの移動手段がなくては。となるともう少し小さいので……これなんかどうでしょう。ひゅうが型護衛艦、全長百九十七メートル、全幅三十三メートルでSH−60Kという最大十二人が乗れるヘリコプターが三機搭載されてます。
「住む場所なら「だったら、村の人に頼んでいくつか家を貸して貰ったら? その分報酬を払えばいいんじゃない?」
「いや、住「ウルースマ……そうだな。ヤニトーよ、頼めるか」
「あの「分かりました」
「イブキ。先程から何を言いたいのだ?」
「……いや。何でもないです」
………………。ま、船より住み心地はいいでしょう。
「ふむ。行くか」
「では、ご案内しましょう」
我に帰った皆さんが、後部ハッチから次々と降りて行きます。
「……あの、ウルースマ様付き給仕長さん。離れていただけますか?」
ですが、メイド長さんが私の髪の毛に顔を埋めたまま……。
何が目的なの?
「……! は、わ私は…………?」
いきなり突き飛ばさないで欲しいですね。危うく転ぶ所でした。
「あ、あれ? ウルースマ様は?」
「皆さんもう出てかれましたよ」
「えぇ!? う、ウルースマ様!!」
行っちゃいましたね。私も行きますか。
PCH−47を消去し……あ。
「イブキ遅いではないか」
『ご主人様、ほら急ぐです』
待っててくれたんですか。優しいですね。
「すみません。じゃあ、行きましょうか」