70、数日後の朝
気まずい数日が過ぎ、普段通りに接していけるようになったある朝。
私はイーザル様を右手に、サイトを左手に、正面をイエラウ様に、イエラウ様の左右をウルースマ様とアッリウス夫妻に囲まれつつ朝食のくせに高級感溢れる料理をかきこんでいます。
「……となると、張り紙は張り終えたな」
「次は街頭に出て、呼び掛けましょうか?」
「「それはならん」」
あう……イーザル様、イエラウ様の強硬な反対。
今は朝食をかきこみつつ、私の記憶を知り得る人捜しの計画を話し合います。一応、この島に私が来た事がある可能性は少ないとは伝えましたが、それでも実行してくれるみたいです。ありがたいです。
「んーまあ、街頭に出て偶然知人が通り掛かる可能性はあまりないですよね……」
費用対効果が少ないかも知れませんね。
「う、うむ。その通り」
イーザル様は領主ですからね。効果が薄い事はしたくないんでしょう。
朝ご飯を食べ終えのんびりとしていると、ある事を思い出します。
「そういえばサイト。ヤニトーにプルチェさん……でしたっけ、あの夫婦のトコ行かないといけないんじゃないんですかね?」
彼らには私達の無事が伝えられていないのですから、もしかしたら未だ心配していたりするかも知れません。
「……そーだな」
サイトも首を縦に振り、了承の意を表します。
「何の話なのだ?」
「それはですね……(とんでもなく省略)……という訳です」
イーザル様が代表して質問して来ましたが、他の皆さんも気になる様子なので、あの自信過剰な馬鹿エルフを犯罪者にしてしまわないよう配慮しながら、私達がこの島に流れ着いてからの概略を話しました。
「タルクィニウスか……減俸だな」
イーザル様がそう呟きます。ふ、ざまあみなさい。しかし、ありのままを話せば退職位にはなっていたのですからタルクィニウス、さんには感謝して欲しいくらいですね。
「そんな訳で行ってきます」
「……む?」
「ディーウァ、例のアレ」
『……? はいです』
「いや、何で? パンじゃなくてPFMですよ! もうお腹いっぱいですから!」
『は、はいです。PFM in operation(個人火器モード実行)』
全く……何でこれからどこか行こうという時に……。モノクルのみ残し、全員で乗れる移動手段を検索。選択兵装……航空機の……輸送機、ありました。
「では皆さん、中庭へどうぞ」
「「「「「???」」」」」
ディーウァ以外首を傾げていますね。
「イブキー、何するの?」
「ふふふ……見てのお楽しみですよ」
たまらずウルースマ様が聞いてきますが、こういうのは見てからのお楽しみという奴です。
それからも続く質問をはぐらかして行き、サイト、イーザル様、イエラウ様、ウルースマ様、アッリウス御夫妻、各々の執事やらメイド長、合わせて十三人で中庭に到着します。
サイトはディーウァに乗せるとして……いや、戦闘機モードと個人火器モードは同時に創造出来るのでしょうか。
「ディーウァ。戦闘機モードとPFMって同時に出来ますかね?」
「出来るです」
「イーブーキィ。何するのー?」
「あとちょっとですから」
聞いたら可能の事。ならば皆さんかなり焦れて来ているみたいですし、さっさとやっちゃいましょう。選択兵装……航空戦力……はあ、固定翼機には滑走路が必要なんですか、では回転翼機、と……。
「はい? 何ですか?」
私が創造しようとすると、サイトに頭を叩かれ集中が解かれてしまいました。もう、邪魔しないで下さいよ。
「物質創造をする気か?」
あ……ばれちゃいましたか。
「そうですけど」
「やめとけ。おかしいと思わないか?」
「?」
何が? 何がおかしいんでしょうか?
「はあ……。創造する兵装、全部空想の産物だと思うか?」
サイトに呆れられたように言われ、今更ながら気付きます。選択兵装の豊富さ、その形状の不可思議さ、モノクルのメニュー画面に端に映る使用言語アルバランガ語を思考でクリックすると様々な形状の記号……多分沢山の文字、ですね。一つの言語、文字しかないのに何故なんでしょう。これらから違和感を抱かなくもないです。でも……この事柄が何か大きい秘密を揺り起こしてしまいそうで、敢えて触れないよう意識しないようにしてました。
「大丈夫ですよ。見られても何もできないですって。ディーウァお願いします」
『は「パンはいいです。それ何のネタですか?」
私はサイトの忠告の内容を考えないようにして、問題を先送りにして、ディーウァに戦闘機モードを発動して貰い、私も飛行ユニットを創造し六枚の翼を広げます。
「さあ、サイト乗って下さい」
「…………」
私はサイトの顔を見ないようにして、無理矢理ディーウァへと押し込みました。
そしてイーザル様達が搭乗する航空機を創造します。十二人搭乗可能な回転翼機……これでいきましょう。
PCH−47チヌーク輸送ヘリコプター。全長三十メートルで輸送能力は兵員五十五人、もしくは士官用シート十一人に兵員用シート二十四人の三十五人。巡航速度は時速二百七十キロ、最高速度時速二百九十五キロ。回転翼が二枚ある大きなヘリコプターです。
「これは……何なのだ……」
誰かがぽつりと呟きます。私も何でこんな物が創造出来るのか知りたいです……が、このモノクルにある選択兵装は使えると何故だか信頼しています。多分、記憶喪失前には頻繁に使用していたのではないのでしょうか。
「PCH−47チヌーク。空を飛ぶ機械です」
「へえ……これ、飛ぶんだ……」
ウルースマ様が一足先に後部ハッチから乗り込もうとしますが、ウルースマ様付きのメイド長が諌めます。
「なりません。こんな得体の知れない物に乗らないで下さい」
「イブキが出したんだもん。大丈夫だよ」
「私は、彼女を疑っております」
「何で!?」
「突然現れ、その容姿で我々エルフの要人に取り入り、不可思議な力を持ち、おまけに人間。疑わしいに決まっているではないですか!?」
イーザル様やイエラウ様、またその執事やメイドさんがPCH−47へと興味津々で乗り込んで行く中、ウルースマ様とそのメイド長だけが後部ハッチ前で口論です。
「やだやだやだ! 行きたい行きたい行きたい!!」
「駄々をこねないで下さい!」
……長いですね、かれこれ十分は口論が続いていますよ。
とりあえず、PCH−47稼動。ローターが回転を始め、風が巻き起こります。
「うわあ……イブキ。何が起きてるの?」
「揚力で……いや、風の力で飛ぶんです」
二人はローターの回転に気を取られてます。
よし、今です!
「てい」
「あグ……」
「本当すみません、でも早く出発したいので」
スタンガンをバチバチっとメイド長さんに当てて、麻痺させます。
「すみませんすみませんすみません……」
【身体強化】し腰の辺りを抱き上げ、PCH−47へ投げ込みます。
「さ、ウルースマ様。とっとこ乗って下さい」
「…………うん」
ウルースマ様が何とも言えない表情をしていましたが無視です。
そしてウルースマ様が搭乗したので、後部ハッチを閉じます。
まあ、あまり褒められない事をしたのは分かっていますが、ちょっと動きを止めただけで怪我はさせていないのですから大丈夫でしょう。
PCH−47の揚力が重力やら質量やらに打ち勝ち、ついに離陸。それを確認し、ディーウァへと指示。
「ディーウァ、離陸」
『了解、です』
垂直離陸を見事成功させEDA、超深部攻撃機のディーウァも空を舞い上がります。
では、私も行きますか。




